目を覚ませ、この瞬間に
冬の夜空には、ひとひらの雪が舞い降りていた。街灯の光を受け、静かに輝くその光景は、どこか夢の中のような非現実感を醸し出している。そんな冬景色の中、駅前の広場に5人の女性たちが集まっていた。
守屋麗奈、田村保乃、藤吉夏鈴、山﨑天、森田ひかる。それぞれが異なる道を歩みながらも、久しぶりに顔を合わせる約束をした特別な日だった。
保乃:ほんま、なんでこんな寒い日に集まろう言うたん? みんな、凍え死にそうやん!
保乃が肩をさすりながら不満げに声を上げる。
天:保乃、それ言いすぎちゃう? でも、まぁ……たしかに寒いけどな。
天が小さく笑いながら返すが、その声には少し震えが混じっている。
麗奈:ええ~? そんなに寒い? 私、全然平気だけどな~♪
守屋麗奈は頬に手を当て、愛らしい笑顔を見せる。その動作があまりにも可愛らしく、周囲の目が自然と集まる。
保乃:いやいや、麗奈ちゃん、それ絶対ウソやろ? 手、凍えてるん見えてるで?
麗奈:え~っ!? そんなことないよぉ~!
両手をぶんぶん振りながら否定する麗奈だったが、次の瞬間、手を滑らせて自分のポーチを地面に落としてしまった。
麗奈:あっ……も、もう! これだから寒い日は困っちゃう~!
わざとらしいぶりっ子声に、夏鈴が小さく肩をすくめる。
夏鈴:守屋ちゃん、昔から変わらないよね。そういうとこ。
麗奈:え~、褒めてくれてるのかな~?
麗奈がにっこり笑いながら首をかしげると、ひかるが小声で「うん、全然変わってない」とつぶやき、くすりと笑った。
駅近くの商店街を通り抜けた5人は、こじんまりとしたカフェへ入った。木の温もりを感じさせるインテリアと、優しいオレンジ色の光が心地よい空間を作り出している。
保乃:あ~、やっと温まるわ~!
席につくなり、保乃は上着を脱ぎながらホッと息をついた。
麗奈:もう、保乃ちゃんったら、そんなに大きな声出したらお店の人がびっくりしちゃうよ~?
保乃:……まぁ、確かに。でも、麗奈ちゃんのその声の方が目立ってるけどな?
保乃のツッコミに、他の全員が笑い声を上げる。
ひかる:でも、こうしてみんなと会うの久しぶりだよね。なんか懐かしい。
ひかるがメニューを眺めながらしみじみとつぶやいた。
夏鈴:ほんと。みんな忙しいもんね。
夏鈴もそう言いながらメニューを手に取り、ちらりと麗奈の方を見た。
夏鈴:……それ、もう決めてるの?
麗奈:もちろん! 私、この可愛いパフェにする~♡
麗奈が指差した先には、色鮮やかなベリーのパフェが載っているページがあった。
天:麗奈ちゃん、あいかわらずやな。でも、まぁ似合ってるわ。
天が軽く笑いながら言うと、麗奈は「え~、ほんとに?」と頬を赤らめてさらにぶりっ子ぶりを発揮した。
話が盛り上がってきた頃、不意にカフェの扉が開いた。冷たい風とともに、見覚えのある男性が入ってくる。
○○:あれ? みんな?
驚いた声に、全員が顔を上げた。そこには、高校時代の同級生である○○が立っていた。
麗奈:○○くん! 久しぶり~! わぁ、本当に偶然だね~♪
麗奈が目を輝かせて声をかけると、他の4人も次々に彼を迎えた。
保乃:こんなとこで会うなんて、ほんまびっくりやなぁ。
○○:いや、俺もびっくりしてる。今日はたまたま寄っただけなんだけどさ。
○○は店員に軽く会釈し、5人のテーブルに近づいてきた。
ひかる:せっかくだから、一緒に座れば? 席、空いてるし。
○○:いいの? じゃあ、お言葉に甘えて。
こうして彼が加わると、懐かしい思い出話や近況報告で一層賑やかな時間が流れた。
カフェを出た後、一行は再び駅へ向かって歩き出した。夜の空気はさらに冷え込み、息が白く染まる。
その途中、夏鈴がふと立ち止まった。
夏鈴:……ねぇ、○○、ちょっと話せる?
突然の申し出に驚きつつも、○○は頷いた。
少し距離を取った二人の間には、静かな雪の舞う音だけが響く。
○○:どうしたの?
夏鈴:ううん……ただ、会えてよかったなって思って。
夏鈴の声はかすかに震えている。
○○:俺も。こうしてみんなと会えるなんて思ってなかったから。
夏鈴は視線を落とし、続けた。
夏鈴:高校の頃さ……もっと素直になってれば、何か変わったのかなって。そんなこと、考えてたんだ。
彼女の言葉に、○○は優しく微笑んだ。
○○:変わるかもしれない。でも、今からでも遅くないだろ? やり直すことはできるよ。
その言葉に、夏鈴は少し驚いたように顔を上げた。そして、静かに笑みを返す。
夏鈴:……start over、ね。
彼女の呟きが雪の中に溶けていった。
ホームへ戻った二人を迎えたのは、温かい仲間たちの笑顔だった。
天:おっ、ええ感じやったんちゃう?
保乃:夏鈴ちゃん、頑張りや!
からかい混じりの声に、夏鈴は「もう、うるさい」と小さく呟いたが、その表情にはどこか清々しさが漂っていた。
電車がホームに滑り込み、別々の道へ進む時間が近づいてくる。
○○:また集まろうな。
彼の言葉に全員が頷き、雪の舞う夜にそれぞれが新たな一歩を踏み出していった。
電車が出発する直前、○○は振り返り、小さく手を振った。
○○:じゃあ、また。
その一言に、全員が「またね」と声を重ねた。それぞれの電車が別々の方向へと向かっていく中、彼らの姿が次第に見えなくなっていく。
雪が溶け、寒さも和らぎ始めたころ、あのカフェでの再会から1か月が経った。5人の生活は以前と変わらず忙しく、なかなか全員で集まる時間は取れなかったが、それでもグループチャットでは頻繁にやり取りをしていた。
そんなある日、藤吉夏鈴がいつになく真剣な表情でスマートフォンを見つめていた。画面には○○からのメッセージが映し出されている。
夏鈴:……どうしよう。
天:何が?
同じ部屋にいた山﨑天が声をかけると、夏鈴は少しためらいながらもスマホを彼女に見せた。そこには、こんな一文が書かれていた。
天:おっ、これって……そういうこと?
天のからかうような声に、夏鈴は少し顔を赤くしながら「そんなことない」と否定した。
天:いや、これはもう行くしかないやろ。何やったら私も応援するし!
夏鈴:……別に、まだ何も決めてないし。
口ではそう言いながらも、夏鈴の表情にはどこか迷いと期待が入り混じっていた。
その週末、夏鈴は○○との約束を果たすため、カフェに向かっていた。久しぶりの二人きりの再会に緊張していたが、どこか胸の奥には温かな感情が広がっていた。
カフェの入り口で○○が待っていた。彼は手を軽く振りながら笑顔を見せる。
○○:久しぶりだね。元気そうで良かった。
夏鈴:うん、久しぶり。
短い会話の中にも、どこかぎこちなさがあった。二人は席に着き、コーヒーを注文する。
○○:前に言ったことだけどさ、やり直すことって、今でもできると思ってる。
突然の言葉に、夏鈴は驚きながら彼を見つめた。
夏鈴:……やり直す、か。
○○は真剣な表情で続けた。
○○:あの頃、伝えられなかったことがあるんだ。夏鈴には、ちゃんと伝えたいと思ってた。でも、どうしても言えなくて。
その言葉を聞きながら、夏鈴は自分の胸の中にある気持ちが何なのか、徐々にはっきりしていくのを感じていた。
○○:俺は、ずっと――
カフェの扉が開き、二人は外に出た。空は晴れ渡り、冷たい空気の中にも少し春の香りが混じっていた。
夏鈴:……ありがとう。話してくれて。
○○:俺の方こそ、ありがとう。
二人は並んで歩きながら、言葉少なに笑みを交わした。その笑顔には、これからの未来への希望が満ちていた。
一方、別の日、残りの4人もそれぞれの場所で新たな道を歩み始めていた。麗奈は新しい仕事に挑戦し、ひかるは趣味を生かして新たなプロジェクトを進めている。保乃と天も、互いに励まし合いながら自分の夢を追いかけていた。
それぞれが再び交差する日がいつになるかは分からない。しかし、彼らの心には確かにあの日の思い出が刻まれていた。
Start Over
この言葉が示すように、何度でもやり直すことができる。その想いを胸に、彼らはそれぞれの未来へと歩き出していった。
あとがき
どうもrymeです。
テーマソング:『Start over!』/櫻坂46
聞いてみてね!