君のイチブ、私のゼンブ
東京の郊外にある私立大学のキャンパス。新学期の活気に満ちた構内を、中嶋優月は足早に歩いていた。
優月:あぁ、遅刻しちゃう!
彼女は音楽サークルの朝練に向かう途中だった。優月にとって、このサークル活動は大学生活の中心だった。歌うことが大好きで、いつか自分の歌声で多くの人々を魅了したいと夢見ていた。
息を切らしながら音楽室に滑り込む優月。
部長:おや、中嶋さん。珍しく遅刻かな?
優月:すみません!二度寝してしまって...
部長:まあいいさ。今日はボーカルパートの練習だ。準備ができたら始めよう
優月はほっとため息をつき、荷物を置いて準備を始めた。
そのとき、優月の隣に〇〇が近づいてきた。〇〇は同じサークルの先輩で、ギターを担当している。
〇〇:おはよう、優月。寝坊しちゃったの?
優月:もう、〇〇さんもからかわないでください
〇〇:悪い悪い。でも、優月の寝ぼけた顔も可愛いよ
優月は顔を赤らめながら、軽く〇〇の腕を叩いた。
練習が始まり、優月は全身全霊で歌に没頭した。彼女の澄んだ歌声が音楽室に響き渡る。〇〇は優月の歌う姿を見つめながら、ギターを奏でていた。
練習後、二人は大学の中庭でランチを取ることにした。
〇〇:「優月、最近歌がますます上手くなってきたね」
優月:そう?ありがとうございます。でも、まだまだだと思います
〇〇:いや、本当に素晴らしいよ。優月の歌には人の心を動かす力がある
優月は〇〇の言葉に、胸が高鳴るのを感じた。
優月:〇〇さんこそ、ギターの腕前がすごいです。私なんて、まだまだ未熟で...
〇〇:そんなことないよ。優月の努力は誰よりも知ってる。毎日練習を重ねて、着実に成長してる
優月:でも、完璧じゃないです
〇〇は優月の手を軽く握った。
〇〇:完璧なんて必要ない。優月の一部分だけでも、十分魅力的だよ
優月:私の...一部?
〇〇:そう。優月の歌う姿、笑顔、時々見せる弱さ。どれも好きだ
優月は〇〇の言葉に、心が震えるのを感じた。
優月:〇〇さん...
その瞬間、携帯のアラームが鳴った。
優月:あ!次の授業の時間だ!
〇〇:あぁ、俺も行かなきゃ。また後でね」
二人は慌ただしく別れたが、互いの心にはさっきの会話が残っていた。
その日の夕方、優月は図書館で勉強していた。集中しようとしても、〇〇との会話が頭から離れない。
「私の一部...か」
優月は小さくつぶやいた。〇〇の言葉が、彼女の心に深く刻まれていた。
そこに、思いがけない人物が現れた。
〇〇:やあ、優月。こんなところで会うなんて
優月:〇〇さん!どうしてここに...
〇〇:レポートの資料を探しに来たんだ。君も頑張ってるね
優月:はい...でも、なかなか集中できなくて
〇〇は優月の隣の席に座った。
〇〇:何か悩みでもあるの?
優月は少し躊躇したが、思い切って言葉を紡いだ。
優月:〇〇さん、さっき言ってくれたこと...本当ですか?
〇〇:ああ、もちろん。嘘なんか言わないよ
優月:でも、私はまだ未熟で...〇〇さんの期待に応えられるか不安で...
〇〇は優しく微笑んだ。
〇〇:優月、人は誰でも、相手の全てを知ることはできない。でも、好きな部分を見つけられれば、それだけで幸せになれるんだ
優月:そうなんですか?
〇〇:うん。僕は優月の全てを知らない。でも、知っている部分が大好きだ。それで十分さ
優月は〇〇の言葉に、深く考え込んだ。
優月:私も...〇〇さんの全てを知らない。でも...
〇〇:でも?
優月:でも、知っている部分が大好きです
二人は見つめ合い、静かに笑い合った。
それから数週間後、優月と〇〇は付き合うようになった。サークル活動や学業との両立は大変だったが、お互いの存在が支えになっていた。
ある日の夕方、二人は大学の屋上にいた。
優月:ねえ、〇〇さん。私のことどこまで知ってます?
〇〇:うーん、全てじゃないけど、優月の大切な部分は知ってるつもりだよ
優月:例えば?
〇〇:優月が努力家で、優しくて、時々天然で...でも、それが愛おしい
優月は頬を赤らめた。
優月:私も、先輩の全てを知らない。でも...
〇〇:でも?
優月:でも、知りたいと思う。少しずつ、先輩のことを知っていきたいです。
〇〇は優月を抱きしめた。
〇〇:僕も同じだよ。一緒に成長していこう
夕陽に照らされた二人の姿は、まるで一つの影のように見えた。
その週末、サークルの発表会が行われた。優月はソロで歌うことになっていた。
舞台袖で、優月は緊張のあまり震えていた。
〇〇:大丈夫か?
優月:はい...でも、緊張で...
〇〇は優月の手を握った。
〇〇:優月なら大丈夫。優月らしく歌えばいい。完璧じゃなくても、優月の歌は必ず人々の心に届くよ。
優月:ありがとうございます...〇〇さん
優月が舞台に立つ直前、〇〇は彼女の背中を軽く押した。
〇〇:行ってこい。優月らしく輝いてこい
優月:はい!
ステージに立った優月。最初は緊張していたが、歌い始めると徐々に力が抜けていった。彼女は〇〇の言葉を思い出し、自分らしく、心を込めて歌った。
完璧ではなかったかもしれない。しかし、優月の歌声は確実に観客の心を揺さぶっていた。
歌い終わると、会場は大きな拍手に包まれた。優月は感動で涙を流しながら、深々とお辞儀をした。
舞台袖に戻ると、〇〇が待っていた。
〇〇:素晴らしかったよ、優月
優月:ありがとうございます...でも、ちょっと失敗しちゃって...
〇〇:気にすることはないよ。優月の歌は、確実に皆の心に届いていたよ
優月:そう...ですかね
〇〇:ああ、間違いないよ。優月の一部分が、人々の心を動かしたんだ
優月は〇〇の胸に顔をうずめた。
優月:〇〇さん...ありがとうございます
〇〇:こちらこそ。優月の歌を聴けて幸せだよ
その夜、優月は日記を書いていた。
『今日、初めて大勢の前で歌った。完璧じゃなかった。でも、自分の歌が誰かの心に届いたと感じられた。〇〇さんの言葉が、私に勇気をくれた。彼は私の全てを知らない。私も彼の全てを知らない。でも、それでいい。お互いの一部を大切にし合える。それが愛なんだって、今日わかった気がする』
優月は日記を閉じ、窓の外を見た。星空が美しく輝いていた。
「明日も、がんばろう」
そう呟いて、優月は目を閉じた。彼女の唇には、優しい笑みが浮かんでいた。
完璧を求めすぎず、お互いのほんの一部でも大切にし合える。そんな関係が、二人の間にしっかりと根付いていった。
これからも、様々な困難や喜びが待っているだろう。しかし、二人はそれを乗り越えていく自信があった。なぜなら、お互いの「イチブ」を愛し、そして少しずつ「ゼンブ」を知っていく。それが、彼らの愛の形だったから。
タイトルからも察せると思いますが、このお話はB’zさんの「イチブトゼンブ」を題材としております。
聞いたことない人は一度でいいから聞いてみてください
バチバチにイケてます
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