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執事の仮面を外して

関有美子は、朝の柔らかな光を浴びながら家の門を出た。毎朝のように、彼女の傍には菅井〇〇が立っている。関家で執事として働く彼は、有美子が学校へ行く際にも常にその役目を果たしていた。

有美子:今日もありがとうね、〇〇くん。

〇〇:それが僕の務めですから、お嬢様。

有美子は、彼の「お嬢様」という呼び方に少しばかり違和感を感じつつも、苦笑いを浮かべる。彼とは同じ高校に通う同級生だが、関家の執事として働いているため、彼女との距離は少しだけ遠いように感じられた。彼は菅井家の跡取りでありながら、現在は関家で執事として働いている。〇〇がこの役目を務めることになったのは、彼の親の「実体験を通して学べ」という方針によるものだった。〇〇も貴族的な教養を身に付けさせるために、他家での経験を積むようにと送り出されたのだ。

しかし、高校ではその事実を知る者はほとんどいない。クラスメイトの間では、〇〇は少し控えめで真面目な男子生徒として知られているだけだ。彼の秘密を知っているのは、関有美子を含め、ごく一部の親しい友人たちだけだった。

学校に到着すると、門の前には〇〇の姉である菅井友香が待っていた。彼女は有美子にとって、尊敬すべき先輩だ。

友香:おはよう、ゆみちゃん。今日も〇〇がお世話になってるみたいね。

友香の声に、有美子は自然と微笑み返した。友香はいつも上品で、その立ち居振る舞いは完璧だ。彼女もまた、菅井家のお嬢様として育てられたが、その優しさと聡明さで誰からも好かれている。

有美子:おはようございます、友香さん。いえ、いつも〇〇くんにはお世話になってます。

友香:弟もなかなか大変でしょうけど、ゆみちゃんがいてくれるなら安心だわ。あの子、実はまだまだ甘えん坊なの。

その言葉に〇〇は少しばかり顔を赤らめ、有美子はくすっと笑った。

有美子:でも、もう少し友達らしく話せたらいいなと思うこともあります。

友香:そうね、〇〇もずっと執事みたいにかしこまらなくてもいいのに。ゆみちゃんが頼めば、もっとリラックスできるかもしれないわ。

友香はそう言うと、軽やかに手を振りながら校舎へと向かっていった。彼女の背中を見送りながら、有美子はふと〇〇の方を見た。

有美子:ねぇ、〇〇くん。いつか敬語をやめてもらえんかな?私はただの同級生やけん、もっと普通に話してもいいと思っとるよ。

〇〇:そう言っていただけるのは嬉しいのですが、僕にはまだその勇気が…

有美子:そっか。でも、ゆっくりでいいから、もう少し気楽に話してね。

彼は少し戸惑いながらも、軽く頷いた。

その後の授業は、いつも通りに過ぎていった。放課後になると、有美子は森田ひかると田村保乃と合流する。二人は彼女と同じ学校に通っている同級生で、今は高校生として忙しい日々を送っている。

ひかる:ゆみちゃん、今日も〇〇くんと一緒だったんだね。

保乃:あんたら、ほんまに仲ええやんな。あんな執事、うちやったら絶対に甘やかしてまうわ。

保乃の言葉に、有美子は笑いながら答えた。

有美子:そんなことないよ。〇〇くんは真面目すぎるくらいだから、逆にもう少し気を抜いてほしいくらい。

ひかる:でも、〇〇くんって意外といい男じゃない?

保乃:うん、あの真面目なところがまたかっこええねん。執事っていう設定もなんかロマンチックやわ。

保乃の関西弁と軽快な話しぶりに、有美子は笑顔を隠せなかった。彼女たちとの時間は、〇〇との堅い関係とは全く異なり、気軽で楽しいものだった。しかし、有美子の心の奥底には、そんな友人たちにも打ち明けられない思いがあった。それは〇〇に対する特別な感情だった。

その日の帰り道、有美子は〇〇に声をかけた。

有美子:ねぇ、〇〇くん。今日は少し一緒に散歩しようか?

〇〇:散歩…ですか?もちろんお供いたしますが…

有美子:今日は執事じゃなくて、普通に友達としてね。

その提案に〇〇は一瞬戸惑ったが、やがて静かに頷いた。二人は並んで歩き始めたが、どこかぎこちなさが残っていた。

有美子:〇〇くん、あんた、私のことどう思っとる?

〇〇:どうって…それはもちろん、お嬢様のことを大切に思っています。

有美子:ううん、そうじゃなくて…普通の友達として、どう?

〇〇は少し考え込むように目を伏せた後、静かに答えた。

〇〇:有美子は…大事な友達です。でも、それだけじゃなくて、もっと特別な存在です。ずっと側で支えていたい、そんな気持ちです。

その言葉に、有美子の胸は高鳴った。これまでの彼との関係が、ただの執事とお嬢様ではなくなった瞬間だった。

有美子:…私も、〇〇のこと、ずっと気になってたよ。もっと自然に話せたらいいのにって、ずっと思っとった。

〇〇:それじゃあ、これからは敬語はやめて、もっと普通に話してもいいかな?

有美子:もちろん!それが私の願いだったけん。

その日から、〇〇と有美子の間にあった見えない壁は消えた。彼はもう「お嬢様」ではなく、ただの「有美子」として彼女に接するようになった。

季節が進み、二人はますます親密な関係へと発展していった。いつものように友香に見守られながら、有美子と〇〇は周囲に自然と溶け込むようにして、一緒に過ごす時間を楽しんでいた。友人たちも、そんな二人を微笑ましく見守っていた。

ある日、校庭で休んでいるとき、保乃がからかうように言った。

保乃:なぁ、〇〇。最近めっちゃゆみちゃんと仲ええんちゃう?

ひかる:うん、なんだかお似合いだよね。

有美子と〇〇はお互い顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。そして、二人は周囲の暖かい目に支えられながら、ついにその距離を完全に縮めていった。


P.S

有美子会長って僕のバイト先の先輩の
高校時代の後輩だったらしいんですよ





他人ですね

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