君と過ごしたあの白い時間
冬の初め、白いパーカーを羽織った彼女は、駅前の小さなカフェの窓際に座っていた。田村保乃。彼女の柔らかな笑顔と、手に抱えた黄色いぬいぐるみが、周囲の静かな空気を温かくしているようだった。
カフェのドアが開き、○○が姿を現した。
○○:保乃、待たせた?
保乃:ううん、全然やで。むしろちょっと早いやん。
彼女は関西弁のイントネーションで言いながら微笑む。その声はどこか懐かしく、○○は胸が少し締めつけられるような気持ちになった。
保乃と○○が再会したのは数週間前のことだった。地元の商店街で、ふと目に入った彼女の後ろ姿に声をかけたのがきっかけだった。
○○:保乃?
保乃:え、○○くん!?めっちゃ久しぶりやん!
そこから二人の距離はゆっくりと縮まり、こうして再び会うようになった。学生時代から感じていた、彼女の柔らかくて暖かい雰囲気は、今でも変わらない。
その日、カフェで会った二人は、次に美術館に行く約束をした。保乃は地元の美術館で受付スタッフとして働いており、普段は仕事中の姿を見られるのを恥ずかしがる彼女だったが、○○には「来てみて」と珍しく積極的に誘った。
美術館のロビーは静かで、どこか神聖な空気に包まれている。その中で、受付カウンターに立つ保乃は、来館者に丁寧に対応していた。○○がその姿を遠くから見つめていると、彼女がこちらに気づいて手を振る。
保乃:○○くん、よう来てくれたな!なんか、ちょっと恥ずかしいけど…まあ、楽しんでってや。
○○:ありがとう。普段の保乃も素敵だけど、仕事してる姿はもっとかっこいいな。
保乃:もう、そんなこと言わんといてや。変に意識してまうわ。
彼女は照れくさそうに笑いながら、彼を案内し始めた。展示された絵画や彫刻の解説をするたびに、彼女の声には優しさと知識への愛情が込められていた。
その日の帰り道、二人は少し寒い夜の街を歩いていた。手には小さな土産物の袋がぶら下がっている。
○○:保乃、ありがとう。今日はすごく楽しかったよ。
保乃:こちらこそやで。○○くんが来てくれて、なんかいつもと違う感じで新鮮やったわ。
彼女は空を見上げ、ふっと息を吐いた。その吐息が白く染まる。
数日後、○○は思い切って保乃を夜景が見える展望台に誘った。冷たい風が吹く中、二人は肩を寄せ合いながら、キラキラと輝く街の灯りを見つめていた。
○○:保乃。
保乃:うん?
彼は少し緊張した表情で言葉を続けた。
○○:俺、保乃のことが好きだ。ずっと前から、そうだった。
彼女は驚いた顔をして○○を見つめる。その瞳に浮かぶ感情は、戸惑いと、少しの喜びのように見えた。
保乃:…○○くん、ありがとう。ほんまに嬉しい。でも…ちょっとだけ考えさせてくれへん?
○○はその言葉に一瞬驚いたが、すぐに頷いた。
○○:もちろん。無理に答えを出さなくていいよ。伝えたかっただけだから。
それから少しずつ、二人の関係は変わっていった。連絡の頻度が減り、会う機会も少なくなった。それでも、保乃は時折○○との思い出を振り返り、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
春の陽射しが柔らかく街を包む頃、○○は再び美術館を訪れた。遠くから見える受付の保乃は、変わらず優しい笑顔を浮かべていた。
○○:(保乃が幸せでいてくれたら、それでいい。)
そう心の中で呟き、彼は静かにその場を去った。
保乃は自分の気持ちに向き合う時間を持ちながら、新しい日々を歩んでいった。彼女にとって、○○との思い出は大切な宝物だった。それが、二人の距離を少しだけ縮めた証だったのかもしれない。
○○が美術館を去ってから数ヶ月が経った。桜が満開になる季節になり、街は新しい季節の香りに包まれていた。保乃は美術館の受付に立ちながらも、心のどこかで○○の姿を探している自分に気づいていた。
その日は珍しく美術館が混んでおり、受付には次々と来館者が訪れていた。ふと視線を上げると、見覚えのあるシルエットが目に入る。紺色のシャツを着た○○だった。
保乃:○○くん…!
○○:久しぶり。今日は改めてゆっくり見たくて来たんだ。
保乃:ほんまに!?なんかめっちゃ嬉しいわ。
彼女は思わず声を弾ませた。忙しい受付業務の中でも、彼の姿を感じるだけで心が軽くなった。閉館後、彼女は思い切ってこう提案した。
保乃:もし時間あったら、この後一緒にご飯行かへん?
○○:もちろん。誘ってくれるの、待ってた。
二人が訪れたのは、駅近くの小さな居酒屋だった。お酒を軽く飲みながら、学生時代の思い出話や、最近の生活について語り合った。笑い声が絶えない時間の中で、保乃はふいに真剣な表情になった。
保乃:○○くん、この前言ってくれたこと、ずっと考えてた。
○○:……うん。
保乃:正直、最初はびっくりした。でも、○○くんが真剣に言ってくれたから、ちゃんと向き合わなあかんなって思った。
彼女は少し頬を赤らめながら続けた。
保乃:私も…○○くんのこと、好きやで。
その言葉に、○○は目を見開いた。彼女の関西弁の温かい響きが、まるで心に染み渡るようだった。
○○:ありがとう、保乃。本当にありがとう。
二人はそのまま目を合わせて微笑み、静かな幸せを共有した。
それから、二人は一緒に過ごす時間を増やしていった。美術館の展示会に足を運んだり、休日に公園を散歩したり。○○は保乃の無邪気で優しい一面を知るたびに、彼女への想いを深めていった。
保乃もまた、○○の穏やかで誠実な人柄に惹かれていった。彼と一緒にいることで、自分の中の迷いや不安が少しずつ溶けていくのを感じていた。
満開の桜が街を彩る夜、二人は川沿いの道を歩いていた。桜の花びらが風に舞い、月明かりに照らされている。
○○:保乃。
保乃:ん?
○○:これからも、ずっと一緒にいてくれる?
彼女は少し驚いたように彼を見つめた後、にっこりと笑った。
保乃:当たり前やん。○○くんこそ、私のこと飽きたりせえへん?
○○:そんなわけないだろ。
二人は笑い合いながら、手をつないで歩き出した。桜の花びらが二人の肩にそっと降り積もる。
それから数年後、二人は結婚し、穏やかな家庭を築いた。休日には美術館を訪れたり、一緒に桜を見に行ったり。日常の中で、互いの存在を何よりも大切に感じていた。
春の風が吹く中、保乃は自宅のベランダから満開の桜を眺めながら、○○にこう呟いた。
保乃:○○くんと出会えて、ほんまによかったわ。
○○:俺もだよ、保乃。
二人の間に流れる穏やかな空気は、これからも変わらない未来を約束していた。