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10代で知りたかったお金の話を教えてくれる5冊

広く言われるように、日本ではファイナンシャル・リテラシーに関する適切な公教育が行われていないため、資本主義とは何か、お金(貨幣)とは何か、お金をどうやって稼ぐか(あるいは運用するか)などに関する知識・価値観が人によってまちまちである。

今回のnoteでは「お金をどうやって稼ぐか(あるいは運用するか)」を軸に、5冊ほどの本を紹介できればと思いつつ、包括的に「マネー」を理解しようと思えば、もちろん資本主義や貨幣論についても知りたいところ。なので、その辺りはまた別のnoteなどに書ければと思いつつ、いくつかお奨めの本に関しては適宜紹介したい。

で、「お金」に関する仕組みや歴史を知ることで、どんな良いことがあるのか。まず、概念としてのお金を実体と虚像で分けて捉えられるようになれば、自分の人生や価値観が“お金”に飲み込まれることがなくなり、適切な距離感を取りながら相対化できるようになる。つまり、人生を彩るその他の価値尺度と金銭的価値を並べて、公平にジャッジできるようになる。

歴史上の偉人(とりわけ莫大な富を築いた者)の人生の軌跡を知れば、大きく分けて、その座に至るまでに二つのパターンを辿ったことに気づくだろう。基本線としては「正しいタイミングで、正しい場所で、正しい努力をやり遂げた者」となるのだが、その一つ一つの結節点は圧倒的な運の良さによって下支えされている。

『サイコロジー・オブ・マネー』で紹介されているように、ビル・ゲイツにはポール・アレンに加えてもう一人、共にマイクロソフトを創業していてもおかしくなかった親友がいた。ケント・エヴァンスである。

『天才の頭の中: ビル・ゲイツを解読する』でゲイツが語るように、高校時代のゲイツは毎日エヴァンスと当時は珍しかったコンピュータ・プログラミングに明け暮れた。しかし、エヴァンスは不慮の山岳事故によって夭折してしまう。エヴァンスとゲイツが逆の立場だったら?エヴァンスが生きていたら?いま、ぼくらが見ている、享受している、テクノロジーのランドスケープは違った相貌をしていたのかもしれない。

「知識」が実体的に人生を好転させるケースが多いことを教えてくれるのもまた、お金にまつわることだ。たとえば、ぼくの大学院の同級生で、ときにメンターのように人生のアドバイスをくれる山口揚平さんの著作『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』なんかを読めば、価値を富に転換するための発想の方法のいくつかがイマジネーション溢れる形で記述されている。

前置きが長くなってしまったので、「10代で知りたかったお金の話を教えてくれる5冊」を下記に紹介したい。

金持ち父さん貧乏父さん(ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター)

言わずと知れたファイナンシャル・リテラシーにまつわる名著で、ぼく自身たしか16〜17歳くらいのときに手に取って、衝撃を受けた一冊。当時、誰からも教わったことのないお金の真理が凝縮されていた。

著者のロバート・キヨサキは何やら情報商材屋おじさんっぽくなっているらしいのだけれど、まさに中高生がファイナンシャル・リテラシーの第一歩目を掴むにはいまだに良書なのではないかと思う。

冒頭、金持ち父さんは読者に六つの教えを説く。

①金持ちはお金のために働かない
②お金の流れの読み方を学ぶ
③自分のビジネスを持つ
④会社を作って節税する
⑤金持ちはお金を作り出す
⑥お金のためではなく学ぶために働く

まず、世は資本家・投資家・労働者によって構成されている基本ルールを抑えることから始まる。で、「資本主義」と冠される社会だけあって、ルールブックは資本家によって書かれており、資本家が最大の利潤を得られるように仕組みができている。この辺りの基本原則を知るためには池上彰さんが易しく解説した『高校生からわかる「資本論」』を読むのもいいのだけれど、中田敦彦さんのプレゼンが実体験に基づいてかつ、明瞭に言語化しているプレゼンがあるので、そちらを参照されたい。

金持ち父さんが整理する【ファイナンシャル・インテリジェンス】は下記のような項目で、興味の持った点について自分なりにさらに深掘りしていくのがいい。

①会計力(ファイナンシャル・リテラシー):貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を読み解いて理解する能力。数字を読む力。
②投資力:投資(お金がお金を作り出す科学)を理解し、戦略を立てる力。③市場の理解力:需要と供給の関係を理解し、チャンスを掴む力。
④法律力:税の優遇措置など。会計や会社に関する法律、国や自治体の法律に精通していること。合法的にゲームをするのが一番。

これは読書における鉄則の一つであるけれど、無学の分野の全体観を掴む上で、構成が物語調になっているものはスッと頭に入ってきやすいのは間違いない。アドラー心理学の金字塔として『嫌われる勇気』があるなら、経済全般はヤニス・バルファキスの『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』は外せないと思う。

私の財産告白(本多静六)

ページ数は少ないものの、凄まじい本だ。生まれの良し悪しに関わらず、どうすれば人は資産形成を最適に行っていけるのか、その基本解が体験ベースですべて書いてある。資産形成と併せて精神修養についても、人生の適切なレバレッジの掛け方が目から鱗の一冊。

貧農に生まれながら苦学して東大教授になり、「月給4分の1天引き貯金」を元手に投資して巨万の富を築いた男、本多静六。
停年と同時に全財産を寄付して、働学併進の簡素生活に入った最晩年に語った普遍の真理は、現代を生きるわれわれにいまなお新鮮に響く。

【本書に登場する本多静六の名言】
「金儲けは理屈でなくて、実際である。計画でなくて、努力である。予算でなくて、結果である。その秘伝はとなると、やっぱり根本的な心構えの問題となる」

私の財産告白

富を築く上での飛び道具は何一つない。射程の長い基本原則を徹頭徹尾やり通す。彼の実践から分かるのは、複利の圧倒的な力である。このパターンは規模こそ違えど、バフェットのそれと通じるものがある。「バフェットの純資産の95%以上は、65歳以降に得たもの」という、驚くべきファクトが複利の力を物語る。

DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール(ビル・パーキンス)

あえて『私の財産告白』の直後に紹介したいのが『DIE WITH ZERO』だ。
この本をぼくは、ある意味で昨今脚光を浴びる「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」へのアンチテーゼ的な方向から読み進めた。

お金の価値が年齢とともに逓減すること、リスクを取らないことがリスクなこと、記憶だけが死ぬまでの資産であること、お金を最重要視するのでなく健康と時間の最適化を図ること。

目から鱗が落ちたというより、自分のこれまでの生き方が肯定された気になった。

どこまでいってもお金そのものに価値はない。あくまでもお金の消費先=目的こそが価値であるから。そうお金は増やすものでも、貯めるものでもなく、本義的には減らすものであるはずなのだ。事実、先ほど紹介した本多も定年と同時に全財産を生きているうちに寄付に回している。

つまり、お金に対するスタンスは、そのままどう生きるか、という人生観と切ってもきれない関係にある。「今日より若い日はない」ように、ぼくら一人ひとりの命は日ごとに目減りしていく。この残酷すぎる絶対的なルールは決して揺るぎなく、貯金通帳の数が増えようが、毎秒ごとに寿命はすり減っていく。結局のところ、あの世には一銭も持っていくことはできないのだ。

先日まとめた「『死』について真正面から考えてみたいときに読む五冊の本」から『死ぬ瞬間の5つの後悔』の要旨をみてみよう。

・自分に正直に生きればよかった
・働きすぎなければよかった
・思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
・友人と連絡を取り続ければよかった
・幸せを諦めなければよかった

死を目前にした人々が語った最期の言葉たちに、一つとして「お金」に関するものがないことに最大限の注意を払いたい。

サイコロジー・オブ・マネー――一生お金に困らない「富」のマインドセット(モーガン・ハウセル)

つい最近読んだばかりの本なのだけれど、このnoteを書こうと思ったきっかけになったくらいの良書だった。タイトルに「サイコロジー(心理学)」と冠されているように、お金そのものの動態や機制よりも、それを取り扱う、取り憑かれてしまう人間の方のマインドに本書は焦点を当てる。

この辺りの知見は行動経済学と類似するものが多いものの、人間の不合理性が、反直観的なファクトとともに鮮やかに例証される。で、結局のところ「なぜそうした不合理や矛盾が生まれるのか」と言えば、過去の人も、現在を生きるぼくらも、未来を生きる人も、だれも彼もが一応は“一回目の人生”を生きているからに他ならない。初めて経験する事象、初めて経験する感情、初めて味わう不安と絶望。仮に、その立ち回りに対して歴史がすでに解答を用意していたのだとしても、ぼくらはAIではないからその通りに行動することができない。

「生きるより、続けることの方がむずかしい」というnoteで、ポーカーを例に「分散と収束」について触れたことにも通じるかもしれない。

毎日ポーカー(キャッシュゲーム)をプレーしている上で、向き合わないといけないのが「上振れ」と「下振れ」という概念である。トーナメントほどではないにせよ、もちろんキャッシュゲームにも分散はある。ただ座っているだけで勝ちまくる日。なにをやってもうまくいかない日。

もちろん、長時間プレーすればするだけ、スキルの高いプレイヤーが勝ちを積み上げていく構造にはなっている。分散が収束していく、という言い方になるだろう。けれども、一日単位、一週間単位、などの短い尺度で切り取れば、どれほど実力のあるプレイヤーでも負け込んでしまうことは仕方がない。

<中略>

ポーカーも競馬も「分散と収束」がある。ここに共通項がある。どれだけいい馬に乗れるか、どれだけいいハンドが配られるか。いい馬に乗せてもらっても、レースの展開や馬場の状況で負けることは当然ある。いいハンドが配られてもボードと絡まないなんてことはあるあるだろう。自分は与えられたカード=馬で最善を尽くす努力はする。

それでもどうしようもない(ときには怒りが込み上げるほど理不尽なこともある)状況が続くなかで、どうやって気持ちを切らさずに、事に取り組み続けるか。

上記はあくまでもゲームの話であるが、だいたいのゲームのアナロジーがそのまま人生に当てはまるように、このケースも人生ひいては投資の本質そのものといえないだろうか。とくに長期投資において、バブル時の立ち回りにこそ投資家としての資質が問われるように、“自分ではどうすることもできない”不可抗力としての分散と収束にどんなマインドセットで、哲学で、立ち向かうのかにこそ、生き方が表れるような気がする。

一点、『サイコロジー・オブ・マネー』で大きな主張の一つとして語られる「『目的のない貯金』ほど、価値が高い」との部分については、前項でオススメした『DIE WITH ZERO』の視点から批判的に、自分なりの価値観を見定めながら読み進めてみることを勧めたい。

また、お金に限らず社会を規定する反直観的な事象を読み解く目を養うためにナシーム・ニコラス・タレブの一連の著作をオススメしたい。

投資家みたいに生きろ――将来の不安を打ち破る人生戦略(藤野英人)

やや、並べる順番を間違ってしまった感も否めないけれど、最後に一番読み物としては軽いものを。この本こそ、まさに高校生〜大学生あたりに薦めたい。

書いてあることは当たり前のことではあるんだけど、まず「リスク=不確実性」と認識する。適切なリスクを人生に織り交ぜていく。浪費と投資を峻別する。その前提が丁寧にあった上で、行動規範や習慣レベルまでブレークダウンされているので、若い人が読むのにオススメ。

✳︎

軽くまとめると、まずファイナンシャル・リテラシーの基本ルール・原則を知るための入り口として『金持ち父さん貧乏父さん』さん辺りを読んで、資本家・投資家・労働者から成る資本主義のざっくりとした枠組みを理解する。で、資本家としての立ち回りを『私の財産告白』なりバフェットの自伝『スノーボール ウォーレン・バフェット伝』なり、ある人の生き方を通じて学んでみる(後者はめちゃ長いかつ、事実の羅列が続いたりもするので、即物的に資本増殖の過程を知りたい人は前者を薦めます)。

この辺りで『投資家みたいに生きろ』的なハウツーだったりマインドセット寄りの本を挟んでも良いかとは思いつつ、この類の本は無数にあって、かつ毎月のように濫造されるので「これ!」ってのがなかなかなさそう。

で、結局のところ『DIE WITH ZERO』にせよ『サイコロジー・オブ・マネー』にせよ海外数十カ国でベストセラーになっている本は、そこのフィルターが効いているので、ある程度の読書の質の担保にはなり得る。

で、知るほどに結局のところ、お金との向き合い方=どう生きるかに直結していることを知り、どう生きるかを突き詰めると、死と向き合わざるを得なくなり、と森羅万象の連なりに思いを馳せていくわけで。

まあ、とっかかりは「お金」のような即物的な興味から、歴史・心理学・経済学、等々の読書の入り口にも成るのかなと思う次第なので、若いうちにまずはファイナンシャル・リテラシーを身につける意味で本を読んでみてはいかがでしょうか。

ケニアで無職、ギリギリの生活をしているので、頂いたサポートで本を買わせていただきます。もっとnote書きます。