語学の散歩道#20 四月の魚
日本さかな検定というものがあるらしい。
元来、暗記も肩書きも苦手な私は、出世魚の区別すらできない。
先だって、仕事の付き合いで訪れた料亭で美味しい刺身をいただいた。
「これはブリですか?」
と尋ねたら、
「いえ、ヒラマサです」
と返ってきた。
さようで。
ブリもヒラマサもカンパチも、私の目にはまったく同じものにしか見えないのだが、世の中には思いもよらぬ強者たちがたくさんいるものである。
そんな強者の一人が、太刀魚ユウキさん。現在、1級合格を目指して勉強中で、この日本さかな検定なるものを教えてくれたのも彼女である。
英検などの語学検定をはじめ、ワイン検定やチョコレート検定など、検定のネタには事欠かない検定大国、日本。
日本さかな検定は、通称「ととけん」とも呼ばれるらしいが、では、その実態やいかに。
というわけで、さっそく3級の問題へ挑戦してみよう。(以下は「ととけん練習問題」より抜粋)
<日本さかな検定3級>練習問題
全問正解で気をよくした私は、波に乗って1級の練習問題へ挑戦したのだが…
<日本さかな検定1級>練習問題
読み方すら不明…
オダワラ科なんかもあったり…
はて?
タカベとは一体誰でしょう?
と、ご覧のとおり早々にリタイアしたわけだが、正解が気になる皆さまへ、解答と解説を付記しておこう。
伊佐幾(イサキ)はスズキ目イサキ科に属する海水魚で、学名はParapristipoma trilineatum。柳葉魚(シシャモ)は学名をSpirinchus lanceolatusといい、キュウリウオ目キュウリウオ科の遡河回遊魚(川で産卵及び孵化し海で成長後に川に戻る魚)。玉筋魚はイカナゴと読み、スズキ目イカナゴ亜目イカナゴ科に属する魚である。
と、エラそうに書いてみたものの、私の記憶力では三歩も歩けばウナギのようにするりと抜け落ちてしまうのは言うまでもない。
やはり、オダワラ科も…(しつこい)
一筋縄ではいかないととけん1級だが、おそらく受検者にとってこの程度は朝飯前。本試験は内容も問題数もこんなものではない。
<第11回> ととけん1級試験問題
こんな検定にチャレンジする受検者もスゴイが、出題者のほうもやはり只者ではない。
ところで、欧米や日本では4月1日のことをエイプリル・フールというが、フランス語ではPoisson d’avril 四月の魚と呼ぶ。
その起源については諸説あるようだが、こちらの記事によると、
1582年(本文中では1564年となっている)にユリウス暦が改暦され、グレゴリオ暦に変わるまでは、3月25日が新年だったらしい。したがって、新年のお祭りが最高潮を迎えるのは4月1日。
ところが、その後1月1日が元旦として正式に採用されたため、日付の変更を忘れて4月1日を祝い続けた人々が「エイプリル・フール」と揶揄されたというものである。
フランス、ベルギー、スイスなどのフランス語圏では、4月1日には気づかれないようにできるだけ多くの人の背中に紙で作った魚を貼り付け、「ポワソン・ダヴリル!」と叫んで祝うのだそうだ。
なお、この四月の魚とはサバのことを指し、あまり利口ではなく簡単に釣れるため、4月1日にこれを食べさせられた人のことを「四月の魚」と呼んだという説もある。
さて、語源の真偽はともかく、魚にまつわるフランス語の表現が面白い。
サバのことはフランス語でmaquereau といい、なんだかあの人の名前に似ているが、実はこのマクロン、ではなくマクロには「(売春婦の)ヒモ・女衒」という意味もあるらしい。
何を根拠にそんな意味を表すようになったのかは謎だが、当のサバにしてみれば迷惑な話である。
魚を使った有名な表現には、être serrés comme des sardines 鰯のようにぎゅうぎゅう詰めであるというのがある。日本語ならさしづめ「鮨詰めの状態」というところか。
また英語でも、
The train I took was packed like sardines.
と、やはりイワシが現れる。アンチョビ(カタクチイワシ)の缶詰を思い浮かべる人も多いだろう。ついでながら、カタクチイワシとは、下顎が短く上顎だけに見えるところから名付けられたのだそうである。
ほかにも、
という表現がある。
最後に、こんな使い方も。
ところで、料理の不味さでは定評のある(?)イギリスにも美味しい料理はある。
それは、フィッシュ&チップスである。
せっかくロンドンに来たのだから、これを食べずにイギリス料理は語れまい、と勢い込んで店に入ったが、ひと口にフィッシュといってもなかなか種類が多く、そのうえ魚の名前もわからないときては、すっかりお手上げであった。
さて、皆さまはいくつご存じだっただろうか。
ちなみに、私のお気に入りのイギリス料理はシェパーズパイだが、同じパイでも魚を使ったコーンウォル地方のパイに面白いのがある。
そういえば、野球界のミスターの名言に、
「サバって漢字でどう書きましたっけ?
そうでした、そうでした、魚へんにブルーでしたね!」
というのがあった。
まあ、いいじゃないか、Ça va、Ça va* !
サバだけに!
*ここでの Ça va は「大丈夫!」の意。
※いつも幅広い知識と深い見識で示唆に富んだ記事を書いておられるAI無知倫理学さんとイギリス料理話で盛り上がる。
<語学の散歩道>シリーズ(20)
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