ピザ休日


土曜、休日、10時半。
寝坊である。
家を出る5分前…
今日は会社の後輩と
中目黒へピザを食べに行く予定である。
「なんでこんなに寝ちゃったんだっけ…」
ぼんやり考えながら布団から這い出る。
まあそんなこと考えても寝坊は寝坊か、と
思いながらとりあえず後輩へ謝罪の連絡を入れる。

駅から徒歩3分。
スマホのマップから顔を上げると
想像していた倍以上の客が並んでいた。
入り口の扉から2組目の椅子に後輩が腰掛けていた。
ごめんね〜と謝りつつ、世間話を始める。
ほどなくして店員に呼ばれて入店した。
螺旋階段をぐるぐると昇り、3階の角席に座る。
店内にはビートルズの曲が流され、
壁には彼らのイラストやギターが飾られている。
路面側の窓にはゴシック調のサンメントが施され、
赤い絨毯のようなカーテンがシンメントリーに
束ねられている。
前菜2品とピザ2枚、
ハートランドを2人分注文した。
頼みすぎたね、と言いつつも
喋って食べて飲んであっという間に平らげた。

パンパンに膨らんだ胃袋を労りつつ、
腹ごなしに目当てのショップをハシゴする。
襟付きのもこもこ白トップス、
めちゃくちゃ可愛い…¥26,000…
¥26,000…
頭を冷やすために一度店を出る。
いつもより冷たい外気に手を借りて
残高と価値観と可愛さについて
後輩と共に検討する。
冷めやらぬ物欲、外気よ…
「一旦チャイ飲み行こ。」

甘いスパイスの効いたホットチャイに救われる。
「この座り心地最高のソファ、どこのブランドだろうね。」
「この時間、最高だね。」
「これが休日か〜。」
休日引きこもりがデフォルトの2人で
時間を噛み締める。

中目黒のお洋服様たちの上品さが怖くなり
逃げるように高円寺へ向かった。
電車で30分程度。
匂いも密度も音も異なる。全部濃い。
やっぱりそろそろああいう服を買う大人で
ありたかったよなぁとか¥26,000のトップスを
思いながらカラフルな古着たちを
パラパラとめくる。
いい出会いもなくトボトボ歩いてる路地の先に
一軒の古着屋が看板を出していた。
どうやら、ポップアップで2日間のみの営業らしい。
入店し、店主と軽い会話を交わしながら
洋服を見る。

1着のジャケットが目に止まった。
ブラウンの薄手のジャケット。
裏地の黄色のイラストがとても可愛い。
肩の落ち方、襟の大きさ、ポケットのサイズ、
ステッチの入り方、クタクタ具合…
めちゃくちゃ可愛い…
手に取ると柔らかくて薄いレザー調に見えたが
店主によるとコットンらしい。
羽織りながらコーディネートを
ああだこうだと言い合う。
可愛い、楽しい、絶対着たい。
テンションマックスで財布を取り出す勢いだったが
勢いだけで買っていい金額ではなかった。
「ここはあくまで冷静に…」
自分に言い聞かせ、店主に閉店時間を確認して
多分また来ます、と伝えて店を出た。

結局その後、30分足らずで店に戻り
ジャケットを自宅へお迎えした。
¥16,000でフェラガモデビューである。
内ポケットの側に「林」という刺繍を見つけた。
既に一つ失った鼈甲ボタン。
紫色のインクの染み。
以前の持ち主の風貌や人柄を想像しながら
自宅の鏡の前で改めて羽織る。
古着ってやっぱり最高だな、とか思って
にこにこで鼻歌を口ずさむ。

最高で、完璧な休日。寝坊したけど。

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