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家庭で楽しむミュージカル

ミュージカルは劇場で観るに限る。そんなことは百も承知だ。だが、子育ては本当に忙しい。私たち夫婦も子どもを授かって以降、劇場へ足を運ぶ回数は劇的に減った。そんな子育て世帯にとってのみならず、なかなか時間が取れない人たちや、あるいはチケット代金の高さにちょっと尻込みしてしまう人たちにとって、自宅のテレビやタブレットで(なんならスマホででも)お手軽にミュージカルの映像を楽しむことができる環境というのは、本当にありがたいと思う。

ここで「ミュージカルの映像」とさらっと書いたが、これにもいくつかの種類がある。大きく分ければ3つだ。

1. ミュージカル映画
2. ミュージカルの舞台を収録した映像
3. テレビ番組の一部でミュージカルシーンが紹介されたもの

3.のテレビ番組に関しては、特に(宝塚を除いては)舞台の映像化が極めて少なかった20年前くらいまでは極めて貴重で、録画して何度も見た人も多いと思うし、近年ではFNS歌謡祭やミュージックフェア、あるいはWOWOWのグリーン&ブラックスなどを楽しみにしておられる方も多いと思う。
しかし本稿では、そのようなエキストラ的な楽しみ方はいったん横に置いておき、作品そのものを楽しむ映像にフォーカスして考えてみたい。

近年は、本当に多くのミュージカル映画が作られるようになった。特に2004年の『オペラ座の怪人』や2012年の『レ・ミゼラブル』のように舞台版が大ヒットした作品の映画化が目を引くし、今年はいよいよ『キャッツ』の公開も迫っている。
また、ディズニーも『アナと雪の女王』に代表されるミュージカルアニメーション映画を製作しているし、過去にアニメ版が大成功を収めて舞台版も上演されている『美女と野獣』や『ライオンキング』の実写版までもが映画化されたのは記憶に新しいところだ。『メリー・ポピンズ・リターンズ』もディズニーだ。
それ以外でも『マンマ・ミーア!』やリニューアル版『アニー』、大ヒット作『ラ・ラ・ランド』『グレーテスト・ショーマン』など、最近のミュージカル映画の隆盛ぶりは目を見張る。

もちろん過去にも優れたミュージカル映画はたくさんあった。フレッド・アステアやジーン・ケリーの時代にはダンスを前面に出したミュージカル映画が多くあったし、その流れは確かに『ウェストサイド物語』に受け継がれた。また、ロジャース&ハマースタイン2世の制作したミュージカル映画の素晴らしさは改めて述べるまでもないだろう。もっとも有名なのは『サウンド・オブ・ミュージック』だ。
20世紀の後半には全編を歌で綴るミュージカル映画も制作された。代表的なものはミシェル・ルグラン作曲の『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』、あるいはロイド・ウェバー作曲の『ジーザス・クライスト=スーパースター』『エビータ』などだ。
これら以外にも、王道のミュージカル映画『ラ・マンチャの男』『屋根の上のヴァイオリン弾き』なども制作されている。

こんなにも多くのミュージカル映画を自宅で楽しめるというのは、本当に幸せなことだ。

ほんの一昔前までは、これらを楽しもうと思ったら、DVD(古くはレーザーディスク、VHSビデオ)しかなかった。
しかし21世紀に入り、HDDレコーダーなるものが登場し、テレビで放送されたものであれば、HDDに残しておくことで、メディアの入れ替えをすることなく映画を楽しめるようになったのだ。これは結構画期的なことだった。
そしてネット配信の時代がやってきた。ネット配信で映画やテレビ番組が見られるようになったのは本当にここ数年のことである。

この3つの方法、つまり①DVD(またはBlu-ray)メディアを見る、②HDDに録画したものを見る、③配信で見る、を比べてみると、③の配信にいったん慣れてしまうと、①のメディアはもちろんのこと②のHDDでさえも面倒くさくて仕方がなくなる。自宅にネット環境さえあれば、たとえテレビ自体が配信機能を持っていなくてもFireスティックをちょいと挿すだけでほぼすべての配信を楽しむことができるのだ。
これはもう、何度でも言うが、慣れたら物理再生には戻れない。自宅でミュージカル映画を楽しみたい人には一押しでお勧めしたい方法だ。

幸いなことに多くのミュージカル映画は配信されている。しかも日に日に増えている。それでもすべてとは言えないので、配信されていないものは録画かあるいはメディアで楽しむしかないのだが、それはそれで頻度が少なければまた特別感があって悪くない。

ところが、これが舞台放映となってくるとガラリと状況が変わってくる。配信されているものが一気に少なくなってくるのだ。

そもそも、映画ではない生の舞台が映像化されることが少ないうえに、海外ミュージカルについては権利上の問題で映像化されることは更に少ない。運よく映像化された場合、主催者の貴重な収入源となることもあり、まずはDVD(Blu-ray)で発売されるか、あるいはWOWOW等で放送されることが多い。しかし配信されるケースは稀だ。
もちろん例外はある。まず、海外で配信されているものに日本語字幕が付いたものだ。代表的なものでは『レント Live』『サウンド・オブ・ミュージック Live』『ヘアスプレー Live』『ラブ・ネバー・ダイズ』『ジーザス・クライスト=スーパースター(アリーナツアー)』『レ・ミゼラブル25周年コンサート』『オペラ座の怪人25周年コンサート』『ミス・サイゴン25周年コンサート』などがある。すべてAmazonで視聴可能だ。日本発のものでは、宝塚版の『エリザベート』のいろいろなバージョンが有料レンタル限定であるが、これまたAmazonで配信されている。私の認識では、メディア化されていないものもあり、お宝カテゴリーだ。

しかし本当に配信作品は少ない。舞台版の作品を楽しもうと思ったら、まだまだHDDレコーダーやメディアに頼らなければならないのが実情だ。このあたりの状況が改善することを切に願っている。(もっとも、テレビ放送された作品については、YouTubeに全編アップされていることもあるが、違法行為であるため、ここでは選択肢としない。)

そうは言っても、ここ数年で、舞台映像が発売されるケースが爆発的に増えたことには素直に感謝したい。まずは10年前に劇団四季が権利上問題のない作品のDVD化を開始したのが大きかった。特に『李香蘭』や『夢から醒めた夢』などの人気作品も惜しみなくメディア化してくれて本当にありがたかった。
そして東宝も、過去にはあの名作『アンナ・カレーニナ』のDVDなどはあったものの、2015年の『モーツァルト!』DVD発売(これはWOWOWでも放送された)を機に続々と人気作品のDVDを発売してくれている。これはファンにとっては歓喜の出来事であった。
また、三谷幸喜さんのようにオリジナル作品を作っていれば、メディア化のハードルは低い。三谷さんの初ミュージカル作品『オケピ!』はDVD化もされているし、WOWOWでは別収録版が放送されている。

最初にも書いたように、舞台は劇場で観てこそその真価を知ることができるのではあるが、なかなか劇場に行かれないときは、自宅で映像作品を楽しむというのも一興である。
皆様に於かれても、その興味の度合いに応じて、ぜひ自宅でのミュージカル鑑賞にトライしてみてほしい。

最後になったが、私のお勧めするミュージカル映画と舞台版ミュージカル映像を以下に挙げておく。何を見ようか迷われた際のご参考にしていただきたい。

めるかとるの選ぶミュージカル映画ベスト5
1.シェルブールの雨傘(1964)
2.ジーザス・クライスト=スーパースター(1973)
3.RENT(1999)
4.ヘアスプレー(2007)
5.シカゴ(2002)

めるかとるの選ぶ舞台収録ミュージカル映像ベスト5
1.アンナ・カレーニナ(東宝DVD)
2.レ・ミゼラブル10周年記念コンサート(字幕版DVD。過去に放送)
3.李香蘭(劇団四季。過去に放送)
4.GOLD~カミーユとロダン~(東宝。NHK-BSでのテレビ放送のみ)
5.ラブ・ネバー・ダイズ(字幕版)

もちろんこれら以外にも優れた映画、舞台映像は山ほどある。ここに挙げた作品は単なる私の好みに過ぎない。素晴らしい作品があれば、皆様からもぜひお勧めしてほしい。

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