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白い巨塔という青臭い話が好きだ

『なろう』も名作も一皮むけばそう変わらない。

だいぶ昔の作品になりますが、タイトル画にある唐沢寿明版の
白い巨塔が好きな私です、こんにちわ。
田宮二郎版もみたんですがこちらのほうが
エンタメしてて好きなんですよね。

もう若い人から知らない人も多いかもなので簡単なストーリーを
振り返ってみましょうか。

一匹狼肌の天才外科医が己の理想に生きる話

これ、なろうにしたら売れると思います、誰か作りましょう。
白い巨塔といえば医療事故などのテーマから医療の現場から
社会的な話題まで呼んだ作品なのですが、話の軸は実は医療というのは
舞台装置であって、本質は彼の野望の話なんですよね。

主人公、財前五郎という男

彼は天賦の才を持っていましたし、極めて高い理想の持ち主です。
しかし彼は人とあまり仲良くするタイプではなく
信じているのは人ではなく「腕」という典型的な職人タイプの人種です。
そんな彼なので友人と呼べる彼のライバルとも言えるポジションの
里見は内科医と畑違いでありながら高い実力と向上心を持つ
お互いを高めるような関係であり
唯一の親友と言える人物であると彼は内心ではそう思っていました。

逆に言うとその他の有象無象は彼にとっては取るに足らないと思っており
他に彼が真に味方だと思う人物は田舎で女手ひとつで
医者にまで育ててくれた実のお母さんと、
その後の彼を支えてくれる養父だけだったように感じます。

彼の野望は、己の高い腕と、また同等の高い力量の持つ仲間を集結させ
癌センターを設立していずれは世の中から癌を根絶するという
極めて高い理念が彼の行動原理の根幹になっています。

そんな高い力量をもつ財前を友人である里見は圧倒的信頼感を持っており
若き二人は難易度の高い治療に対しても「大学病院」というシステムの
枠を飛び越えて共闘をみせるのですが、この「大学病院」というものが
曲者で、簡単に言うなら「病院版、政治の世界」って感じです。

財前五郎は外科医で一昔前の会社風に言うなら営業は花形。
みたいな感じです。
一方で里見は内科医で、事務方みたいなポジションなので
里見は独自の見解で病気の早期発見を見抜いたものの
その患者は学長鵜飼が問題ないと診断してしまったため
手がつけられませんでした。

それを財前の腕を知る里見は君にしか頼めないと頼み
財前は渋々承諾して内密に手術を進め患者は無事生還するのでした。

しかし当たり前ですが、診断者の鵜飼学長を筆頭に
彼らの行動は年長者たちからは決していいように見られませんでした。
それでも財前と里見は「俺達は理想の医療を追い続けるんだ」
と青臭い序盤のストーリーになってます。

行動原理の違い

財前と里見は理念は同じですが性格はまるで違います。
若い人にすげー簡単に言うと
コードギアスのルルーシュとスザクみたいな感じです。
財前はルルーシュのようなタイプで、共闘するときも
最初は上から目をつけられるからと協力を拒む一面も見せてました。

一方で里見は完全にスザクです。
正しいと思ったことを行い、人望を集めるタイプです。

白い巨塔が面白いのはコードギアスもそうですが
彼らは好かれも嫌われもする要素を持っているわけですが
ものの見事に二人共病院内では目の上のたんこぶとなっていき
嫌われ者になってしまうということです。
まぁ里見はスザクなんで政治気質の強い組織から嫌われるのは当然というか
ある意味創作物としては自然な流れですね。
高潔な思想を振りかざすがために最終的には大学病院を
去る事となってしまいます。

諦めなかった男、財前五郎

一方ルルーシュタイプである財前は本来人付き合いすら苦手ですが
古臭い大学病院の体質すら利用し
理想の医療を実現するために動き始めます。

まず根本的な問題として彼は一匹狼肌であったがため
同僚はもちろん、医局内の上長である東教授に
あまり気に入られていませんでした。

当人としてはさして気にしてなかったのですが天才外科医ともてはやされ
勝手に雑誌の取材に応じたり、なにより教授である自身に敬意を払わない。
後に分かるのですが財前は決して東教授を嫌っていたわけではなく
単に自身が一番優れていると「驕っていた」だけなのです。
(十分人間関係という意味では問題ではあるのですが)
ストーリーが進むと東教授と財前の亀裂はどんどん深まってしまいます。
財前の義理の父は財前に色々とアドバイスをします。
まず政治的地位を手に入れるなら一流の道具を使えと言われ
東教授の言うことも偉そうに聞こえても言うことを聞きなさいとか
医局の下のメンバーたちもかわいがってあげなさいと言われ
大学病院行きつけのバーにつれていき歓待したりもするのである。
本来一匹狼気質の彼は内心では「これで良かったのだろうか」という
雰囲気をかすかに出しつつももてなす俳優さんの演技はとても好きでした。

しかし若いメンバーには好かれるものの東教授との仲違いは決定的な物に
なってしまい、結果として大学病院全体を巻き込む
政略戦争がはじまってしまいます。

無論、ド真面目マンである里見は財前を非難しますが
彼は意に介しません。教授にならなければ何も叶えられないんだという
ある種妄信的にそれを信じて突き進み、ドロドロの政略が始まります。
やれ機嫌取りに億を超えるような絵画を送ってみたり
現金を直接渡したり、票取り合戦の汚い大人の物語です。

繰り返しになりますが財前五郎は一匹狼の天才肌であり
あまり人の機微に対しては疎いと言わざる終えないタイプです。
それを財前を「教授にする」ということで教授からの利権を得たい
人間たちがすり寄ってくるのもこのドラマの見どころの一つです。

結局紆余曲折を経て財前五郎は教授となり
権力を手にすると、彼は自らの野望である癌センター設立のために
多忙な日々を迎えます。
下のものにも気を払い、政治でお世話になった人におべっかを忘れず
日々忙しい診療を行いながらの中での癌センター設立です。

結果的にこれが原因で彼は医療ミスを起こしたとして裁判が行われます。
この裁判の内容は医術の世界でも小説版だと話題になったと聞きますが
現代では内容が若干変更されてると聞いています。

ここでも政治の話がはじまってしまいます。
財前に敵対的だった人物は癌で亡くなってしまった被害者側につき
残りの人物は財前に協力する構図です。
まぁでも私からすればそんな事は些細なことなんです。
コードギアスよろしく里見先生は財前と敵対して大学をやめてしまいます。

正直個人的に裁判の内容はどうでもよくて(良くないけど)
財前は裁判の時に時折咳をしているシーンが描かれるのですが
判決が言い渡されるシーンで彼は倒れてしまい救急車で搬送されます。

初見での診察ではまぁ病状がでたばかりだし
大したことはないだろうと周りは楽観視していたのですが
どうやら癌であるっぽいことが判明。

まさしく運命のいたずらというやつです。
ここからが財前五郎の真骨頂といえるシーンの連続となります。

何よりも医療に対して最短最速かつ最善を尊んだ男

彼は裁判のテーマにもなったのですが医療ミスのときに際しても
即断即決で手術で病巣を取り除くべきだと主張しました。
いい悪いの問題は非常に難しいそうなのですが
要するに彼にとってはそれが医療に対しての
最も信じる最善手だったのです。

ここからが面白いポイントです。
彼自身がガンになった時、当たり前ですが自分の癌を
自分で手術手術することは出来ません
(そんな事するのはブラックジャックぐらいなものです)
彼は自身の手術の執刀医を選ばなければなりませんでした。
そんな時、彼の政治仲間たちは身内で一番優秀な者をと
していましたが財前は
「東教授がこの分野では一番信用できる
私が見てきたから一番知っている」
とこのようなことを言うのであります。

これまで自らの後継者なのにそれを否定して妨害工作まで行い
裁判では若干の私怨も含めて敵対していた東教授をあえて
財前五郎は選択するわけであります。

当然指名された東教授は困惑します。
正直この東教授という人物は医師としては無能ではないのですが
人間性としてはかなり小心者であり、それが態度がデカく見える
財前との敵対へとつながってしまった事実もあります。
彼の細かい心理描写は苛立ちという形でのみ描写されるため
実質的にどのように揺らいでいたかはあまり詳細のではないのですが
裁判においても本当に愛弟子でもあった財前を貶めるとも言える行為に
葛藤する人物でもありました。

結局、彼は「あの横行で自信満々で人に媚びることもしない愛弟子」が
自身を選択したことを受けて、手術を引き受けるのですが
ここらへんから僕の中の白い巨塔への評価はストップ高を迎えます。

まぁある意味ジャンプ漫画でいうかつてのライバルが助けに来てくれる
アレに近いやつです。
しかもストーリー序盤から全編にわたってほぼ敵対してた人物が
主人公を助けるわけです。

終わりの始まり

そんな東先生による執刀が始まるものの
手術はすぐに終了してしまいます。

当然ですが外科手術なのでまず切開して様子を見るのですが……
一同は切開して唖然とします。
あまりの想定外、病状はもう既に手術でどうこうなるレベルを
既に通り越していたのです。
医療系が好きな人なら分かるかもですが所謂ステージ4という
最も最悪な状態であり、癌が拡張しすぎて
様々な部位に転移を起こしている状態です。
東先生は少しでも体の負担を下げるためにいち早く手術を取りやめ
開いた体を閉じるのですが、これが財前に疑念を抱かせてしまいます。

天才であるがゆえに

財前は天才外科医です。
なので当たり前ですが自分の癌の手術が
どのぐらい大変なのかは把握しています。
最も初期の想定ではメチャクチャ大変だとは思っていなかったのですが。

最初に疑念を抱くのは自分の目が覚めるのが早すぎるということです。
いくらなんでも早すぎる。
最低でも10時間以上かかるだろうと確か予測していたはずですが
彼は10時間立つ前に目覚めたことに違和感を覚えます。
更に術後だと言うのに症状は改善の兆しを見せず
日に日に顔色は悪くなり、咳も止まりません。
この時点で自身はもう駄目なのだろうという
自己診断を下そうとするのですが周りの者達は
財前に気を使って本当のことを言おうとしません。

そうは言っても彼は天才です。
自身の診断にプライドを持っているタイプでもあります。
十中八九、黒だろう。その最後の「診断」をするべく
彼は深夜に里見が新たに務め始めた小さな病院に現れるのでした。

死を目の前にしても悟りの境地などには至れない

里見は夜中にも関わらず財前のため、CTスキャンを撮り
状態を確認しようとします。
その撮影中に財前は自らの予想を里見にいいます。
おそらく癌は転移がひどく東教授は直ぐに手術をやめたこと。
咳が止まらないことから肺にまで転移していること。
また最近は右手のしびれが起こることから脳への転移も疑われること。

そして財前に里見が告知をする名シーンが来ます。
このシーンは財前にとっても大事なシーンなのですが
里見にとっても大事なシーンなのです。

というのも里見は大学病院時代に末期がんの余命告知をします。
しかし彼らしいというか、彼は余命に対して
「わからない、長生きした人も居ますから頑張りましょう」
という曖昧な返答をしたことに対して患者は
「私は医療関係者だから末期がんの人がどうなるか知ってるんだ!
 適当なこといいやがって!」
と泣き叫びながらボロクソに非難された過去があるのです。

それを踏まえて里見は財前に全てを淡々とCTスキャンの写真を織り交ぜて
説明を開始します。
病巣は取り除かれていない、君の推測通りすぐに閉じたであろうこと。
また転移しているという事実も見て取れること。
更に脳に関しても転移と思われる部位が見て取れること
君の診断は的確だったと彼は財前に告げると
君の見立てでは余命はどのぐらいだ。と。
里見は一瞬だけ言い淀むが直ぐに「長くて3ヶ月だろう」と答えると
財前は少しだけ嬉しそうに笑い「僕の診断と同じだ」というのである。

このシーンが自分はとても好きだ。
財前は死ぬとわかった後に悟りなど開けないというような事を言うのだが
彼は死を前にすることで根源として目指していた医者に戻るのだ。

里見は財前を助けるためにうちの病院に転院してこいというのだが
財前は断る。
大学病院は政治の世界。癌センターを作ろうとしてる教授
小さな町の病院でましてや癌で死ぬのは赦されないという。
それでも食い下がる里見先生。
「せめて治せないとしても、君の不安を受け止めたい」
という言葉に財前は「不安はない……ただ……無念だ」というのである。

この言葉に財前五郎という男のすべてが詰まってると
言っても過言ではないだろう。

ここまで記述してきた通り財前五郎は元々政略なとは得意なタイプではなく
ただただ理想の医療を俺の最高の医術で再現するんだという中二病のために
理想家タイプの人間なのに、クソくだらない政略のために
多くの時間を費やし、精神をすり減らし、そこまでして辿り着こうとした。
里見という自分の手元に置いておきたい極めて優秀な医者と敵対することも
厭わないでがむしゃらに進んできた道の先にある
癌センターまであと目前のところで全てが水泡に帰してしまったのだ。

以上の事を踏まえてこの言葉を聞くと心を強く揺り動かされたのは
僕だけではないだろうと思う。

財前五郎の中に最後に残ったもの

彼は脳にも癌が転移したことで今際の際ではもうまともな判断が
できなくなっていた。
そんな中でそれぞれの関係者が財前と会話するのだが
時系列などがしっちゃかめっちゃかな事を言う財前に皆悲しむのだ。
そんな中でも特徴的だったのが鵜飼学長である。
序盤こそ里見と財前の目の上のたんこぶだった彼も
中盤戦以降は財前にとって政治的には後ろ盾になった人物だ。
しかし描写には一切ないと言ってもいいほどだが
鵜飼学長は財前を政治的な「駒」としてしか見ていなかった。
ましてや財前にとっては里見が見つけた病気の症状を
握りつぶそうとした財前の定義では「医者としてはカス」の人材である。
彼は政治的な味方である鵜飼学長に強い言葉で罵声を浴びせるのである。
あまりのことに彼は怒りで震えるシーンも見どころの一つである。

最後に里見がやってくると義理のお父さんは
あとは二人きりにしてやろうといい、皆退出していく。
当然だが財前はもうまともな状態ではないのだが
裁判などで敵対関係となってしまった里見は
実は作中裁判中ですら財前は君に癌センターの内科を努めてほしいと
熱烈にアプローチをかけ続けていたのだ。
里見がやってくれないなら誰をつければいいんだと悩むほどである。

そんな思いからか、里見が財前の手を掴むと財前は
「やっと癌センターの件、受けてくれる気になったのか・・・。
 これで癌センターは安泰だ、理想の医療が遂げられる。
 この世から癌をなくすことが出来る・・・」
とうわ言のように言うのである。

総評

僕はこのドラマは正直医療物としては楽しんでいないと言うか
さほど気にしていないと言うか。
ヒカルの碁っていう漫画がありますが
実際に碁の棋譜をみて楽しんでた人ってあんま居ないだろうなっていう
まぁそういう感じです。あくまでも人間ドラマを見ていたという感じ。

コードギアスのゼロレクイエムは賛否両論あるのですが
白い巨塔の終わり方に関しては納得している人が
多いのではないでしょうか。
それだけキレイな終わり方だったと思う。

なんでも死を都合良く使うものではないのだが
死の前には等しくみんな平等なんだと僕は思ってる。
その中でも病死と殺害では大きな隔たりがあるのは事実だ。
まぁタラレバを言っても仕方ないが例えばルルーシュが
ギアスを使いすぎた反動で実はもう命が長くないという話であれば
また評価は変わっただろう(いい意味になるかはまた別問題)

これでも本当は財前が教授になった時点で話は終わりにするつもりで
残りは好評だったため続けてほしいという要望で
続きを書いたと言うからプロの作家さんは本当にすごいものである。
しかもこれ書いたの女性の作家さんだったはずなんだよねぇ。
男の事よくわかってるっていうかなんて言うかねぇ。

まだ見たことない人も機会があればぜひ見てみてください。


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