小説 コーヒー淹れ
PM14:00、コーヒー淹れは自分の職務を終えて今まさに自宅マンションへと帰ろうとしていた。コーヒー淹れの毎日の仕事は職場にいる5人の同僚たちにコーヒーをついで回り、それが空になるまでを待つというものだった。
コーヒー淹れは、同僚の最後の一人がそれを飲み終わるのを見届けてから仲間たちに深々とお辞儀をして帰路についた。
自宅マンションに帰る途中、コーヒー淹れは急に、同僚の一人であるT子にコーヒーを注いでいる途中で彼女が自分に向けた侮蔑的な目線をふと反芻してしまった。
彼女が僕に対してそのような目線を向けたのはなぜなのか、明確な原因は分からなかったが、それは「彼女にゴマをすろうと、コーヒーをいつもより作為的にポーズをとって注いでしまったこと」に原因があるように思えた。結果として彼女はそのわざとらしさに嫌悪感を抱いたのではないだろうか。
そんなことを思い返し、コーヒー淹れは頭がカーっとなるほどに恥ずかしく、不安になってしまったが、仮に彼女が自分に対して何かしら嫌悪感を抱いていたとしても「申し訳なく思うが、それはどうでもいいことである」と思った。
なぜなら、コーヒー淹れの仕事はあくまでもコーヒーを彼女のカップに注ぐことであり、それに付随するホスピタリティは彼の関与することではないと考えたからだった。
<完>
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