先行詞+「関係節的な」節
英語を読んでいると,次のような英文に出くわすことがある。
(1) As I walked into the house through the kitchen, there were signs of activity that had been interrupted. (P. Auster, I Thought My Father Was God)
さて,この太字部分は「中断された活動の形跡」と読んでもよいだろうが,「活動が中断された形跡」という解釈が直感的にしっくりくるだろう。もう1つ例を挙げておく。
(2) Zapasnik gave a recent example of a woman who was attacked in a collective shelter and fled, grabbing only her handbag and a jumper. (The Guardian, Feb. 22, 2023)
この例でも「集団避難所で攻撃を受け逃げた女性の最近の例」というよりも「女性が集団避難所で攻撃を受け逃げた最近の例」と解釈がしっくりくる。このように「先行詞+関係節」を「主語+述語」のように解釈すべき例は割とよくお目にかかるもので,福地 (1995) が詳しく扱っている。
名詞句を節的に解釈すべき例というと,名詞が取る補部のof句が良く知られていて (Cf. 稲田 (1988)),特に知覚動詞に対応する名詞が多い。(4)ではof句の主語が her なので,ここでのV-ingは後位修飾表現では有り得ない。
(3) That was when the picture of my mother lying in a casket came to me. (P. Auster, I Thought My Father Was God)
(4) …, and I am haunted by the visions of her struggling with unseen enemies. (N. Sparks, The Notebook)
(5) Jerry was against the idea of his wife putting on a space suit. (R. Preston, The Hot Zone)
更に,これらを「意味上の主語+V-ing」で片付けられないことを,山崎 (2022: 73ff.) が指摘している。次の例ではそもそもV-ingが無いので「彼がふさぎ込んでいる光景」と解釈するほかない。
(6) I loved Shane so much that I couldn't beat the sight of him distressed.
ここで関係節の話に戻ると,(1)-(2) のような例が通常の関係節と異なるという確たる証拠はあるのかという点が気になる。Watanabe (1991) は,こうした関係節が通常の制限関係節と異なる統語的な証拠をいくつか挙げている。まず,ふつう固有名詞を先行詞とする場合は非制限関係節が用いられるが,この種の関係節はカンマで区切らずに固有名詞に連続することができる。
(7) The sight of John who was sitting in the gutter dismayed me. (Watanabe (1991: 76))
また,先行詞と関係節の間に挿入表現が介在しても非文にならない。
(8) This word has exactly the sound of many heavy objects, as you know, that strike something with a loud wham. (Watanabe (1991: 77))
(9) *Tom cooked a dish, as you know, that I always enjoy. (McCawley (1981: 106))
こうした事実から,Watanabe (1991) はこの種の関係節が the picture of my mother lying in a casket のような,節的な意味を表す「知覚名詞 of 非定形節」から派生した構文であると分析している。上に見たように「名詞 of 非定形節」や「名詞+関係節」が節的に解釈されるのは名詞が知覚名詞の場合とは限らないが,分析はさておき事実としてこうした例の存在を知っておくに越したことは無いと思う。
References
福地肇 (1995)『英語らしい表現と英文法: 意味のゆがみを伴う統語構造』研究社.
稲田俊明 (1988)「英語の前置詞的補文化辞ofとその擬似補部について」『文学研究』87, 86-103.
McCawley, J. D. (1981) "The Syntax and Semantics of English Relative Clauses," Lingua 53, 99-149.
Watanabe, Y. (1991) "A Remark on the Relative Clause within Perception Nominal Complements," LEO 20, 75-87.
山崎竜成 (2022)『知られざる英語の「素顔」: 入試問題が教えてくれた言語事実47』プレイス.
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