非制限的に名詞を修飾する分詞節―分詞構文との関係

高校英語教科書『CROWN English Communication II』に,次のような英文がある。
(1) In the Temple of Seti I, built around 1280 B.C., there is a hieroglyph showing what appears to be a helicopter. (p. 35)

さて(1)の太字部分はどのように考えればよいか。直感的に直前の名詞句 the Temple of Seti I を修飾しているということは分かるが,現在の教科書・学習参考書が採用している基本的な文法の枠組み(以下「学校文法」)で捉えれば,分詞構文という扱いになりそうである。

ここで教師用の指導書(内容解説資料)に目を通すと,この個所については次のように説明されている。
(2) built around 1280 B.C. は,自由付加詞(free adjunct)的にthe Temple of Seti Iに情報を付加している。(p. 148)

自由付加詞という聞きなれない専門用語が登場するが,Kortmann (1991: 17) を参考に学校文法の用語で整理し直すと次のような対応関係にある。
自由付加詞(free adjuncts)」→「分詞構文(主語が主節の主語と一致)」
なお「絶対構文(absolutes)」→「独立分詞構文(主語が主節の主語と異なる)」

しかし,こう用語を置き換えてしまうと(1)の事実及び(2)の解説と矛盾することになってしまう。『CROWN English Communication I』の Lesson 6 では,分詞構文が次のように説明されている(なお分詞構文はL6でのターゲット文法事項)。
(3) V-ingの副詞的な使い方で,付帯状況,時,理由などを表す。

念のため学習参考書の『コーパス・クラウン総合英語』を見ても,「分詞(句)が副詞の働きをする構文を分詞構文という」(p. 249)と説明されている。

要するに,どこを見ても分詞構文が名詞句を修飾するという記述が見当たらない。「副詞は原則として名詞以外を修飾する」(Ibid., p. 572.)とされているから,学校文法の原則に反する形ということになる。しかし,いわゆる分詞構文が名詞句を修飾する例は実際のところ珍しくない。
(4) France has a variety of daily newspapers, representing a wide range of political opinions. (上野 (2014: 16-17))
(5) Action Wellness in Philadelphia was one of the first official buddy programs in the country, launched in 1986 to support people living with chronic illnesses, most notably HIV and AIDS. (USA Today)
(6) We can imagine an Oliver Twist-type character, growing up in some sort of hypothetical global train station, interacting with a rotating cast of station employees and visitors from all over the world. (The New York Times)

(4)-(6)いずれの例も太字部分の分詞節は名詞句を修飾していると考えられる(主節の主語と主語が一致していない点にも注意)。上野 (2014),阪田 (2018) ではこの種の構文を「分詞の非制限用法」としており,阪田は非制限修飾語句が後置される場合には,「カンマを隔てて後置」(p. 197) されるとしている。

よって,(1)の太字部分の1つの考え方としては,関係節同様に分詞節にも非制限用法があり,名詞句を修飾することができるとするものである。そうすれば,無理矢理「分詞構文」にカテゴライズする必要も無い。

ただし,この分類にも問題が無いわけではない。これまで例に挙げた,名詞句を非制限的に修飾していると考えられる分詞節は,名詞句の後ろ以外の位置にも生起する。特に,以下のように前置されるケースが多い。
(7) Founded by refugee David Tran in 1980, Huy Fong now employs close to 200 workers in Irwindale, California, and its sales exceed $60 million per year. (Foreign Affairs)
(8) Located in Tanzania, Mount Kilimanjaro is a popular hiking spot for locals and tourists, and … (CBS News)

こうなると,先ほどの「カンマを隔てて後置」という記述では筋が通らなくなってしまう。むしろ,生起位置が比較的自由という点では(副詞的な)分詞構文に通ずる部分がある。

なお,名詞句に対して前置されるという点では以下のようないわゆる同格表現も同じ特徴を持つ(なおこの種の表現も自由付加詞とされている)。
(9) Her father, a die-hard conservative, refused to even consider the proposal. (Huddleston and Pullum (2002: 1358))
(10) A die-hard conservative, her father refused to even consider the proposal. (Ibid.)

実例も1つずつあげておく。
(11) Laura Ann Petitto, a psychologist at McGill University in Montreal, Canada, has studied how children learn language. (2011 桐朋高校)
(12) A rangy former firefighter from Montana, Yokelson helped lead the initial version of FIREX-AQ. (Scientific American)

さて分詞構文に話を戻すと,学習参考書でも例えば『SKYWARD総合英語』(p. 181)は(13)を分詞構文のうち「名詞に補足説明を加えるためのもの」としている。
(13) Amazon.com, established in 1994, became an E-commerce giant in the 2010s.

さらには,「分詞句を文頭に置いた形(Established in 1994, Amazon.com became …)もある」とした上で,「Established … の形は,主題(アマゾン社)をあえて最初に出さないことで読み手の興味を高める効果を狙ったもの」との説明もある。

この点について先ほどのKortmann (1991) から関連する議論を引用しておく。
They [=free adjuncts] may either immediately follow that noun phrase in the matrix clause which controls the empty subject position in the adjunct, […] thus becoming generally indistinguishable from non-restrictive relative clauses, or … (p. 9, 下線は筆者)

要するに非制限的関係節と区別がつかなくなるというのである。
こうなると学校文法の枠組みでどのように説明するか,統一した見解に辿り着くのは容易ではないように思うけど,変にこじつけた説明(または指導書みたく過度に専門的な説明)をしないためにも,少なくともこういう現象があるという事実はもっと知られても良いような気がする。

なお上野 (2014) および 阪田 (2018) は名詞の非制限修飾について学校文法の立場から非常にまとまった議論がされていて勉強になります。

References
Huddleston, R. and G. Pullum (eds.) (2002) The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge Univ. Press.
Kortmann, B. (1991) Free Adjuncts and Absolutes in English, Routledge.
阪田卓洋 (2018)「非制限用法の指導法について」『筑波大学附属駒場論集』57, 191-201.
上野隆男 (2014)「限定・非限定についての一考」『CHART NETWORK』74, 14-17.

井上永幸監修・和泉爾編 (2022)『コーパス・クラウン総合英語』三省堂.
佐藤誠司 (2022)『SKYWARD総合英語』桐原書店.


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