SVO+to不定詞は第何文型?

最近「want 人 to doみたいな構文のto不定詞って何用法?」という相談を受けた。個人的にもこのパターンの学校文法での扱いには引っかかるところがあるので,せっかくの機会とみて専門書と学習参考書を行ったり来たりしつつ,特に5文型との関係について簡単にまとめておく。

まず次のようなパターンを指して「SVO+to不定詞」と言う。
(1) I expected the President to resign soon. (稲田 (1989: 49))
(2) Fred forced his daughter to marry Max. (稲田 (1989: 50))
(3) I want him to do what is right. (稲田 (1989: 54))

このSVO+to不定詞というパターンは,例えば(1)ならば,I(S) expected(V) the President(O) to resign ... というように,「述語動詞の目的語+to不定詞」という構造を持っているのが特徴で(より専門的には「不定詞付き対格」と呼ばれる),およそ「Oが(に)...することをVする」という意味になる。

専門的にはSVO+to不定詞も更に細分化されるが,ひとまず1つのパターンと考えて,まずは高校生が使っているであろう総合英語系の学習参考書9冊でSVO+to不定詞がどの文型として扱われているのかざっと見てみる(略号についてはReferencesを参照)。なお,各書の「文型」と「不定詞」の章を参照し,どちらかでSVO+to不定詞をSVOCと記述していれば(A)と分類した。

(A) SVO+to不定詞をSVOCとしているもの
2冊(C,SW)
(B) SVO+to不定詞をSVOCとせず独立したパターンとしているもの
7冊(O,G,VQ,F,BT,able,CC)

以上に見たように,SVO+to不定詞を5文型に当てはめず,「VO+不定詞」(One),「SVO+to不定詞」(G,VQ,F),「SVO+to-V」(BT)などと独立したパターンとしてしているものが多い。ただし,(B)においても例えばOneの「Oと不定詞の動詞は意味の上ではSVの関係となる」(p. 236.)のように,7冊すべてが述語動詞の目的語が意味上,to不定詞の主語となることを記述している。

一方で,英文解釈・英語構文系の参考書を眺めてみると,桑原・杉野(2008: 12-13)は(4)の解説を踏まえて(5)を(6)のように解説している。
(4)<SVOX>の型の文から O X を抜き出して,Oを主格に変えて,<O is X>が文として成立するとき(Xが不定詞なら時制を持たせて文が成立するとき),Xを「Oに対するC=目的格補語」と呼びます。

(5) ..., we do not expect them to have their portraits made and presented to a church in thanksgiving for a victory achieved in the latest march.

(6) ここでのポイントは,expectのOであるthemとto haveの間にS[ubject]とP[redicate]の関係が,またhaveのOであるportraitsと過去分詞madeとpresentedの間にもやはりSとPの関係があることを見抜くことです。[...] このようにOを中心に意味を考えたときに,Oと意味上のSとPの関係を持つ語・句・節(X)をOに対するCと考えてよいのです。

竹岡(2014: 268)も「第5文型(SVOC)は『OがCである』,『OがCする』というのが基本です」とし,(7)について(8)のように解説している。
(7) Books enable us to learn about various things.
(8) We are to learn about various things.「我々はこれから様々なことを学ぶ方向にある」の関係が成立。

戸澤(2015)も,SVO+to不定詞自体を扱ったp. 50ではSVOCという記述をしていないが,目次およびp. 15の「Introduction」の項でSVO+to不定詞がSVOCにあたるという記述をしている。

以上ざっと学習参考書の記述を眺めただけだが,書籍によってSVO+to不定詞の扱いは様々であることが分かる。

今更ながらぼくは高校生の頃,SVO+to不定詞をSVOCとする分析が全く納得できなかった。SVOCでは「O=C」の関係があると教わっていたから,例えば(7)でus=to learn about various thingsの関係にはならないじゃないか,とプンスカしていた。

いったんCをどのように捉えるかという問題に立ち返ると,馬場(2008: 32)は,S is C. という文において,Cが名詞の場合に成り立つのは「S⊆C」という関係であり(The prime minister of Japan is Kishida Fumio. ではSとCが交換可だが This is a pen. では不可),Cが形容詞の場合はSの状態や性質を描写する,と述べている。

いわゆる「イコールで結べる」というのは意味上beで結べることを指すとすれば,やはりSVO+to不定詞をSVOCと分類すると不都合が生じる。OにあたるNPと,Cとされるto不定詞(句)の間には「O⊆C」という関係も存在しないし,CがOの状態や性質を描写しているわけではないからである。なお馬場(1987)は独自の8文型に基づいて,SVO+to不定詞をSVOV'と分類している。

ここから先は完全に経験則に基づく持論だが,「SVO+to不定詞」は1つのパターンとして教える・覚えるのが手っ取り早いと考えている。理由としては3つある。
(あ) SVOCと解釈すると不都合が生じること
上記のように,例えば I found the movie interesting.(V NP AP)や Please call me Susan.(V NP NP)といった典型的なSVOC型の文と比較した時に,OC間の意味関係の整合性が取れない。少なくとも,(4)のようにCにto不定詞が入る場合について別個に記述が無くては,学習者の混乱を招く可能性がある。

(い) そもそもSVOCと解釈する必要性が希薄であること
SVO+to不定詞がおよそ「Oが(に)...することをVする」の意味のパターンであると捉えておけば,少なくとも意味解釈に当たっては支障が無い。また,中にはtellやaskなどふつうSVOOタイプで使われる動詞もあるが,やはり意味解釈上expectやwant同様「SVO+to不定詞」というだけの認識で十分であるように思われ,to不定詞(句)をOないしCと解釈することが意味解釈にどの程度寄与するのかは疑問である。もちろん,例えばmakeやfindといった動詞では,NP V NP1 NP2の連鎖を見てSVOO・SVOCのどちらか(つまりNP1-NP2の連鎖が節構造を成しているか否か)を判断するためSVOC型の用法を意識させる必要もあると思われるが,SVO+to不定詞を取る動詞においてはその必要性も希薄である。なお「SVO+that節」のパターンについてもおよそ同じことが言える。

(う) 意味的にSVOC以外で解釈すべきパターンが存在すること
これまでSVO+to不定詞の細分化は避けてきたが,掘り下げるとSVO+to不定詞にはSVOC以外で解釈されるべきパターンもある。

まず「O+to不定詞」全体が述語動詞の目的語(つまり全体でSVO)になる場合もある。
(8) I want him to do what is right. (=(3))
(9) I expected the President to resign soon. (=(1))
(10) I believe him to be guilty. (安藤 (2008: 95))

安藤(2008: 97)が観察している通り,(8)-(10)においてwant/expect/believeの目的語はhim/the Presidentではなく,太字部分の節全体である。(9)-(10)をthat節を使って次のようにパラフレーズできることが裏付けとなる(S want that節のパターンは不可)。
(11) I expected that the President would resign soon. (稲田 (1989: 49))
(12) I believe that he is guilty.

一方で,3項述語となる場合(つまり全体でSVOO)もある。that節を使ったパラフレーズ(11)-(12)と(14)を比較すると違いがはっきりする。giveやtellといった3項述語をSVOOと分類するなら,(13)はSVOCでなくSVOOとなるはずである。しかしながら,学習者の負担を考えてもやはり新たに分類を細分化するのは無用であると考えられる。
(13) I persuaded the President to resign. (Ibid.)
(14) I persuaded the President that he should resign. (稲田 (1989: 51))


以上ざっと見てきたように,SVO+to不定詞は学校文法の立場からするとかなり厄介な存在である。現状,教育上問題となるのは参考書によってその分類が異なること(SVOC or 5文型に分類しない)であろう。

今回はSVOCと分類することの問題点を簡単に指摘するにとどまったが,仮の代案はSVO+to不定詞を5文型に分類せずに,(SV A with B や SV A over B のように)1つの独立したパターンとして提示することである。
馬場(1987, 2008)のSVOV(')分析も興味深いが,現状広く浸透している5文型に新たな区分を設けることによる学習者への負担,また提示のタイミング等は考慮されねばならない。なお,SVO+to不定詞の下位分類についてはとっつきやすいものでは稲田(1989),中村(2009)が詳しい。

最後に,冒頭の「want 人 to doみたいな構文のto不定詞って何用法?」に対する答えとしては,「SVO+to不定詞をSVOCと分類するなら名詞的用法」ということになる(SVCパターンのCに入るto不定詞が名詞的用法という理屈だから)。
(15) My dream is to be a novelist. (SW, p. 120.)

まあ,そう答えておいてもいいのかも知れないけど,ぼくとしてはそう質問した生徒を褒めた上であえて答えを出さないでおきたい。

References
専門書・論文
安藤貞雄 (2008)『英語の文型』開拓社.
馬場哲生 (1987)「体系としての教育英文法の再整理―文型と品詞体系の見直し―」『Leo』16, 1-20.
馬場哲生 (2008)「文型指導で自律的言語学習を支援」『英語教育』56, 30-32.
稲田俊明 (1989)『補文の構造』大修館書店.
中村捷 (2009)『実例解説英文法』開拓社.

学習参考書
able: 赤野一郎監修 (2014)『総合英語able』第一学習社.
BT: 吉波和彦・北村博一・上野隆男・本郷泰弘編 (2011)『ブレイクスルー総合英語』改訂二版, 美誠社.
C: 高橋潔・根岸雅史 (2013)『チャート式 基礎からの新々総合英語』数研出版.
CC: 井上永幸監修・和泉爾編 (2021)『コーパス・クラウン総合英語』三省堂.
F: 石黒昭博監修 (2009)『総合英語Forest』第6版, 桐原書店.
G: 中邑光男・山岡憲史・柏野健次編 (2022)『ジーニアス総合英語』第2版, 大修館書店.
One: 金谷憲総合監修・馬場哲夫・高山芳樹編 (2015)『総合英語One』アルク出版.
SW: 佐藤誠司 (2022)『SKYWARD総合英語』桐原書店.
VQ: 野村恵三監修 (2017)『Vision Quest総合英語』第2版, 啓林館.

桑原信淑・杉野隆 (2008)『基礎英文解釈の技術100』桐原書店.
竹岡広信 (2014)『英文解釈の原則125』駿台文庫.
戸澤全崇 (2015)『リンケージ英語構文150』旺文社.

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