目的を表すto不定詞とfor+動名詞について

数カ月前のある時,目的を表すto不定詞とfor+動名詞は何が違うのかという話題をもらった。たまたま調べる機会があったので,ここにまとめておこうと思う。

両者の例をそれぞれ(1)-(2)に挙げる。目的を表すto不定詞とは,「するために」と訳されるいわゆるto不定詞の副詞的用法のこと。
(1) I went into the kitchen to wash the dishes. (Murphy (2018: 124))
(2) The mug had been used for mixing flour and water. (Hands (2019: 219))

まず単にこれらは書き換えられるかと言うと,答えはノー。
(3) I went to London { to learn English / *for learning English }. (デクラーク (1994: 664))

では何が違うのか,というところでポピュラーな文法書・語法書を見ていくことにする。まずマイケルスワンのPEU。これによれば,for+動名詞はモノの目的(何のために使われるか)を表すのに使われ,特にそれが主語になるという。(4)-(6)は同書のSec. 468から。
(4) Is that cake for eating or just for looking at?
(5) An altimeter is used for measuring height above sea level.

確かにどちらも補語のfor+動名詞が主語の目的を言っている。そして,主語に人を取っている時は,モノの目的を表すのによくto不定詞を使うという。
(6) We use altimeters to measure height above sea level. (Cf. (5))

次にCOBUILDのUsageから。これはモノ・動作・活動の目的を言うのにfor+動名詞を使うと書いていて,一見Swanより守備範囲が広い。
(7) The mug had been used for mixing flour and water. (=(2)) (Hands (2019: 219))

その上で,「ある人があることをする理由」を言う時にはfor+動名詞が使えないという。
(8) He went to the city { (in order) to find work / *for finding work }. (adapted from Hands (2019: 220))

次にマーフィーのGrammar in Use。これによれば,for+動名詞は「モノが何のために使われるのか」を言う時に使う一方,「ある人が何かをする理由」を言う時には使えないという。(9)-(10)はMurphy (2018: 124)から。
(9) This brush is for washing the dishes.
(10) I went into the kitchen { to wash the dishes / *for washing the dishes }. (=(10))

ちょっと余計なくらい例を引いたが,3者の主張はほぼ同じとみてよさそうである。ここで「行為の目的にはto不定詞,モノの目的にはfor+動名詞」という一般化ができそうだが,そんなに簡単という訳でもない。

ここでPEGを見ると,次の例と共に,特定の目的の場合はto不定詞を,一般的な目的の場合はfor+動名詞を使うと説明されている。例文は同書p. 295から。
(11) I want a case to keep my records in.
(12) This is a case for keeping records in.
(13) I need a corkscrew to open this bottle with.
(14) A corkscrew is a tool for opening bottles.

つまり,モノの目的であっても,目的が特定的であればto不定詞を使うということになる。初めて目的が特定的・一般的という基準が生じたが,Murphy (2018: 124)の例文を見ると興味深い事実に気付く。同書は,forとtoの比較で次の例文を出している。
(15) We stopped for gas. / I had to run for the bus.
(16) We stopped to get gas. / I had to run to catch the bus.

(15)のfor the busは明らかに特定の目的を指しているので,forに続くのが「動」名詞でなければ,一般的な目的でなくてもよいことになる。

事実観察としてはここまでとして,教育に絡めれば,Swanが(6)で示しているように,モノの目的であっても We use X to V … のようにパラフレーズできるわけだから,アウトプットまで持って行かせたい知識という意味では,基本的には行為の目的の言い方(=to不定詞)さえ知っていれば良いと言えるかもしれない。

個人的な興味としては,なぜfor+動名詞は一般的な目的を表すためにしか使われないのだろうか。
(17) I went to London { to learn English / *for learning English }. (=(3))

1つ言えるのは,to不定詞を使うと特定の目的として解釈されるのは,to不定詞・動名詞の主語が関係していそうであるということ。

ざっくり言うと,to不定詞・動名詞は明示されない限り,目に見える主語を持たない(明示される場合,前者ではfor+名詞で,後者では名詞の目的格・所有格で表される)。その場合,文自体の主語を意味上の主語として読み込んだり,あるいは主語を一般の人として解釈することになる。(18)では太字部分の主語は「私」で,(19)では一般の人(誰と特定しない)と解釈される。
(18) I want a case to keep my records in. (=(11))
(19) This is a case for keeping records in. (=(12))

人主語の場合,それを目的表現の主語としてそのまま解釈することはできるだろうが,モノ主語ではその解釈はふつう避けられるだろう。

一般に,to不定詞は具体性が強く,動名詞は一般性・抽象性が強いと言われている(例えば My hobby is + 動名詞 はよくても + to不定詞だと不自然)。目的表現にその主語まで読み込めれば具体性が強くなり,それだけ特定的になる。対して情報が与えられなければそれだけ一般的(抽象的)な言い方になる。

だから,Swanが指摘しているように,上の例文の「人主語かモノ主語か」という選択と,「to不定詞かfor+動名詞か」の選択は関連しているんだろうと思う。PEGが特定の目的,と言って例に出している(11),(13)はいずれも人主語でto不定詞を使っている。

for+名詞句は別に特定の目的であってもいいわけだから,目的表現に動詞の意味を読み込むとto不定詞と動名詞で役割分担がされているということになる。動名詞は名詞としての性質がずいぶん強いことが言われているけど,それも無関係ではないような気がする。

to不定詞と動名詞とで意味の棲み分けがされていくにつれて「X is for 動名詞」とか「X is used for 動名詞」といった形で慣習的に方法を表す一種の構文として定着していったのかも知れない。史的なものも含めデータが足りないので,ここで結論は出せないが。

出すタイミングを逃した高校の教科書の実例を1つ。ここでも「モノ主語 be used for+動名詞」である。
(20) No one knows for sure what the purpose of these circles could have been, or how they were built. Because they are low and lack openings, it is believed that they were not used for keeping animals. (CROWN English Communication II, p. 39.)

せっかくなので,この目的を表す表現について追加でいくつかメモ。
目的を表すto不定詞はいわゆる形容詞的用法・副詞的用法の間であいまいになる時がある。(21)-(23)はHuddleston and Pullum (2002: 729)から。
(21) Two other books to read on holiday were lent to me by Fay.[形容詞的]
(22) She lent me them to read on holiday.[副詞的]
(23) She lent me two books to read on holiday.[ambiguous]

ぼくが高校生の頃は「副詞的用法では空所が無いもんだ」と思ってので,これを知った時はなかなか衝撃であった。(22)は副詞的用法なのにガッツリ空所がある。実は教科書的な副詞的用法には2つあり,目的節と理由節と呼ばれている。まず目的節から。
(24) John bought it to play with. (中村・金子 (2002: 169))

withの後ろに空所があるが,形容詞的用法と読もうとしても代名詞のitは修飾できない。このように空所がある副詞的用法のことだが,不定詞の動詞には取引・移動・創造など意味上の制限があるという。

続いて理由節で,これはおなじみのタイプの副詞的用法。to不定詞以下に空所が存在せず,in orderを付けられる(目的節では不可)。
(25) They brought John along (in order) to talk to him. (中村・金子 (2002: 169))

他にいくつか統語的な振る舞いに差異があるが,1つ挙げるとto不定詞以下を文頭に移動させることができるのは理由節の場合のみ。
(26) In order to talk to him, they brought John along. (中村・金子 (2002: 170))
(27) *To talk to, they brought John along. (Ibid.)

空所つながりで,to不定詞だけではなく,同じく目的を表すfor+動名詞でも空所が現れることがある(実はすでに出ている)。
(28) This is a case for keeping records in. (=(12))
(29) This knife isn’t very good for cutting meat with. (Huddleston and Pullum (2002: 1246))
(30) Other people were shadows, were laps for my sitting on, were … (山崎 (2022: 291))

ところで,目的を表すto不定詞では,本来あるはずの前置詞が消えることがある。(13)であれば,open this bottle with a corkscrew という意味だから,落とすなとさえ指導されることもある。しかし,実際は(32)のような例が見つかる。
(31) I need a corkscrew to open this bottle with. (=(13))
(32) Performance synthesizers can be used as a tool to teach music synthesis, but … (COCA)

八木 (2022: 215)はこれを前置詞削除構文と呼んで解説している。
この構文は何もto不定詞に限った話ではない。既に挙げた例で,for+動名詞でも同じ現象が見られる。(31)と比較されたい。
(33) A corkscrew is a tool for opening bottles. (=(14))

統語的にもなかなか似た面白いふるまいをするもんだな,と思う。
なお,目的節(空所があるタイプの副詞的用法)およびfor+動名詞の類似構文については山崎 (2022)で詳しく扱われている。ぼくが知っている限り高校生の手に届きそうな本でここまで扱っているのは見たことがない。

追記(2022/11/5)
大修館の『英語教育』2015年7月号QBに「目的を表すto不定詞の代わりにfor doingを使える場合」というタイトルで真野先生の解説記事がありました。

References
COCA: The Corpus of Contemporary American English (https://www.english-corpora.org/coca/)
Declerck, R. 著, 安井稔訳 (1994)『現代英文法総論』開拓社.
Hands, P. (ed.) (2019) COBUILD English Usage, 4th ed., Collins.
Huddleston, R. and G. Pullum (2002) The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge Univ. Press.
Murphy, R. (2018) Grammar in Use Intermediate, 3rd ed., Cambridge Univ. Press.
中村捷・金子義明 (2002)『英語の主要構文』研究社.
Swan, M. (2016) Practical English Usage, 4th ed., Oxford Univ. Press.
Thomson, A. J. and A. V. Martinet (1986) Practical English Grammar, Oxford Univ. Press.
八木克正 (2022)『現代高等英文法: 学習文法から科学文法へ』開拓社.
山崎竜成 (2022)『知られざる英語の素顔: 入試問題が教えてくれた言語事実47』プレイス.


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