疑似SVC/SVOC(描写構文と結果構文)とその主語
いわゆるSVC/SVOCのパターンでは,Cには「S/Oがどうであるか」を表わす役割があると教えられる。要するに,(1)のSVCではSとC,(2)のSVOCではOとCの間に主語・述語の関係がある。
(1) He looks sleepy.
(2) I found the movie interesting.
そう考えると,次の(3)-(4)もそれぞれSVC,SVOCと一見考えられそうである。drunk は He,raw は the oyster の述語とそれぞれ解釈されるからである。
(3) He drove drunk.
(4) He ate the oyster raw.
しかし,(1)-(2)と(3)-(4)では太字の述語を削除した時に文法性に違いが出る。(1)-(2)では太字部分を削除すると文が成り立たないが,(3)-(4)では太字部分を削除しても(意味は変わるが)文法的に問題ない。よって,(1)-(2)は正真正銘のSVC/SVOCだが,(3)-(4)は見かけ上似ているものの異なる構文ということになる。
より専門的には,(3)-(4)のように随意的な述語が(Vが開始・進行する時の)主語・目的語の状態について叙述するものは描写構文と呼ばれる。学習英文法では取り上げられることがあまりないと思われるが,割とお目にかかる表現である。いくつか例を挙げる。
(5) Children learn languages from the people around them. If they are exposed to multiple languages, they may grow up bilingual or multilingual. (The New York Times)
(6) Unsure what to say next, I told him that I was there to read the meters. (Paul Auster, I Thought My Father Was God)
(7) I thought I’d go to sleep and I’d wake up a part of Russia. (Time)
(8) I knew that he would pass along the envelope unopened, no matter how much he might not want to. (Nicholas Sparks, Dear John)
ちなみに,描写構文では述語が un- で始まる形容詞(過去分詞)で始まる例によく出くわす気がする(既に先行研究があるのかも知れないが)。コロナが流行してからは unmasked なんかも見かけるようになった。
学習英文法の枠組みでは,主語の述語の(5)-(7)のような例であれば分詞構文から being を削除したものと教えられるのかも知れないが,さすがに(8)みたく目的語の述語になる例ではそれは無理だろう。
さらに学習英文法の枠組みで扱いきれない例として,次のような例がある。
(9) The jelly froze solid.
(10) She froze the jelly solid.
先に見た描写構文とは異なり,これらの例では主語・目的語がVした結果どうなったかというのを随意的な述語が表している。これは専門的には結果構文と呼ばれている。なお,結果構文は基本的には(10)のように目的語の結果状態を述べる場合に用いられる。例をいくつか挙げるが,描写構文では述語に名詞句・形容詞句が多く現れるのに対し,結果構文では形容詞句・前置詞句が多く現れる。
(11) The screen smashed into a hundred fragments, the rain drops seeped into the cracks and the screen faded to black. (Dolly Alderton, Everything I Know About Love)
(12) I walked around school in a complete daze and cried myself to sleep every night. (Jack Canfield et al., Chicken Soup for the Teenage Soul)
(13) And self-awareness kills a self-titled party girl stone-cold dead. (Dolly Alderton, Everything I Know About Love)
(14) By far the biggest test of Ardern’s leadership arrived on March 15 last year, when an Australian gunman shot dead 51 worshippers at two mosques in Christchurch. (Time)
ちなみに結果構文が基本的には目的語の結果状態を表すという性質上,(12)のように本来許されない再帰代名詞を無理矢理目的語として置いて主語=目的語の結果状態を表すということがある(I cried myself は不可)。
ここまでは割と様々な本や論文で言われていることだが,ここで描写構文・結果構文の述語に着目すると,それらの主語は明示的に表れていない(主節の主語・目的語と同じと解釈される)。主語が明示されない,という現象は to不定詞や動名詞,分詞構文などでも見られるが,これらの場合 for+目的格名詞,目的格・所有格名詞などで明示的に主語を表すこともできる。
(15) It is important (for us) to eat fruits and vegetables.
(16) Do you mind (my) opening the window?
そしてこれと同じように,描写構文・結果構文にも主語付きの例が見られるらしい。例えば(17)-(19)のような例で,それぞれ描写構文の主語叙述,目的語叙述,結果構文である(例文は梶田 2014より)。
(17) The two guys walked slowly to the door, heads up, confident.
(18) Opening a cage, she seized a rabbit and placed it on the board, belly up.
(19) He took the shirt. Pulled the sleeves right side out.
梶田によれば,こうした主語付きの述語も,描写構文や結果構文の述語と同じ振る舞いを見せるとのこと。論文ではいくつか紹介されているが,例えば主節の主語・目的語としか叙述関係を持てないとか,述語のタイプの制限が同じなどといったことがあるらしい。
言うまでもなくこれらは学習英文法でいう独立分詞構文で,比較的高頻度でお目にかかるタイプである。考えてみれば,個人的にはこの種の例で「主部+述部」の先頭に with が付いていたり,主部と述部の間にbeing が入っている例を見た記憶がほとんどない。これも分詞構文というより述語として働いていると考えれば確かに納得できる。
ただし梶田が言うには,こういった「主部+述部」は主節の主語・目的語の名詞と「部分・全体」の関係を表す時に限って,主節の名詞の述語となり得るのだという。例えば(19)なら the sleeves(全体)と right side(部分)の関係ということになる。
綿貫・ピーターセン(2006)は独立分詞構文の項で「主語の身体の一部とか持ち物が分詞の主語になることが多い」(p. 170)とほぼ近いことを言って述語が分詞の例を挙げているが,分詞が現れない例も本当に多い。以下に挙げるのは描写構文の例だが,特に小説などで多用されるのは(22)-(23)のような「セリフ, S V」にこの表現が続く形。
(20) She shuffled up the porch steps, her head down, her chin quivering, and disappeared into the house. (Paul Auster, I Thought My Father Was God)
(21) Arms spread wide, confidence radiating from her face, Megan Rapinoe celebrating at the World Cup was one of the defining images of 2019. (Time)
(22) “If I give it to you,” she said, her voice serious, “you have to promise me that you’ll read it.” (Nicholas Sparks, Dear John)
(23) “Uh-huh,” she said, her expression mischievous. (Ibid.)
(24) She surveyed my outfit, my eyes ringed with last night’s mascara dust, the cup of milk in my hand. (Dolly Alderton, Everything I Know About Love)
さて,そうなると分詞構文との兼ね合いをどう整理するか(重なる部分があるのか否か)が問題になるが,その点の議論は追えていないので一旦ここまでで。個人的にこの考察には非常に納得させられた。
ちなみに,「主部+述部」の述語で主部が主節主語の部分になっている場合には with があまり付かない気がするということを言った。明日 (1998) によると,いわゆる付帯状況の with が付く場合と付かない場合とでは,with 以下の節が表す事態について話し手がどう捉えているかの解釈が変わるらしい(例文は明日(1998: 60)より)。
(25) At that, Ken shouted with his voice rising.
(26) At that, Ken shouted, his voice rising.
例えば(25)では,実はKenは冷静なのだが相手に自分が怒っていることを分からせようと意図してそうしている,と話し手が認識しているという解釈になり,(26)では意志によらず思わず声を張り上げてしまったというような解釈ができるらしい。つまり,with を伴うと「主部+述部」が表す事態には主語の意志が関わっていると話し手が認識していることになるらしい。もちろんこの説明で全てを説明しきれないとは思うけど。。
References
明日誠一 (1998)「小節を導くwithの生起に関する一考察」『玉川大学文学部紀要』39, 47-62.
Huddleston, R. and G. Pullum(2002)The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge Univ. Press.
梶田幸栄(2014)「主語付き二次叙述」『千葉大学人文社会科学研究』28, 1-12.
綿貫洋・マーク,ピーターセン(2006)『表現のための実践ロイヤル英文法』旺文社.
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