" 発生事実(不祥事) " が発生しない上場会社の内部監査 Part. 03 - 営業拠点での不適切会計処理 -
前回まで「管理系部門がIPO準備でやること」について、部署ごと・業務ごとにご紹介しました。まだご紹介しきれていない業務がありますが、今回は上場会社の発生事実(不祥事)を参考に、内部監査の在り方について説明します。
(*約8分程度でお読みいただけます。)
最近多発している上場会社の発生事実
皆さんは、適時開示情報閲覧サービス(TDNET)をご覧になっているでしょうか。
最近、特に「過年度の有価証券報告書の訂正報告書の提出に関するお知らせ」の表題や、特別委員会、第三者委員会の表記が掲出される頻度が高くなっています。内容(原因、経過)はさまざまですが、内部監査、内部統制の評価(監査)において検出されたものではなく、外部からの指摘が圧倒的に多いです。
今回、私がなぜ発生事実の具体事例の記事を復活させたのかという理由は、最近の発生事実のどれもが、通常の内部監査で検出することが可能であったこと。検出後に指摘事項として挙げ、その後のフォローアップ監査で改善することが可能であった事案であったこと。そうすると、どのようにすれば品質の高い内部監査ができるのかを、皆さんも一緒に考えていただきたいと思ったためです。
以前の記事でも説明しましたが、どのような上場会社でも、発生事実はあります。
ただし、故意または重過失の行為が発端となっている悪質な発生事実はとても残念なことで、会社としても防止・抑止の対策をとっていただきたいと思いつつ、内部監査の立場から、どのようなことができるかを考え、ご提案したいと思います。
先のとおり、どの会社でも、悪質な発生事実に対する防止・抑止の対策を検討していることと思います。また、防止・抑止の対策を検討すると並行して、社内の内部監査担当においても、内部監査による監査テーマの挙げ方や監査項目、監査手法等の十分な検討を行い、いままで以上に多面的かつ精度の高い内部監査を追求していることでしょう。
直近事例から - “ 営業拠点における不適切会計処理 ” -
上記の事案についての感想はさまざまあると思いますが、今回の記事の趣旨である内部監査の目線で、この事案について見て考えたいと思います。
まず、この事案の発覚の端緒は、国税局の定例調査によって「原価の付け替え」事案が発見されたことでした。営業拠点における定例調査ですので、内部統制・業務プロセスのうち、販売管理プロセスと原価管理プロセスの業務フローと業務記述の範囲が調査対象となっていると推察します。
調査委員会の調査報告によりますと、不正事案件数は90件弱。水増し請求/架空請求に加担した仕入元は40社余り。大きく分けると「原価の付け替え」と「資金のプール」の2つですが、各事案の内容はバラバラです。
販売先へ見積提示後に受注。当該会社の営業担当者は、この受注に基づいて仕入元に発注すべきところ、仕入元からの見積にはない物品を加えて発注書を作成して仕入元へ発注し、仕入元に上乗せ請求(架空請求)させた。
(*当該会社の調査報告によれば、この「見積にはない物品」とは、この営業担当者について当該会社内では「(この営業担当者)氏に言えば、無料でエアコンを設置してくれる」との噂があり、この噂が事案発覚の発端となったとのこと。)当該会社の営業担当者は、仕入元(工事業者)から工事発注に対するキックバック(金員、商品券等物品)を受領していた。このことを知った他の営業担当者は、当該営業担当者に依頼または直接仕入元に依頼して同様のキックバックを受領していた。
上の2つをみて、内部監査を担当している皆さんまたは「気づき力」の鋭い皆さんはもうお気づきかと思います。当該会社で発生した悪質な事案の「気づきポイント」は、次のとおりです。
原価管理プロセスにおける仕入元からの見積書
当該仕入元からの見積書の仕入原価についての、購買担当・部門による原価の承認
当該販売案件の仕入、利益等を含めたプロジェクト管理(コスト管理)
気づきポイントについて概要のみ説明します。
1について、重要なのは仕入元からの見積書です。見積書は法人税法施行規則では「帳簿書類」のひとつであり、整理・保存が義務付けられていることをご存知でしょう。見積書も帳簿書類ですので、保存年限は7年間です。
国税局の定例調査も、この条文に基づいて帳簿書類の全部、もちろん見積書も含めて調査したのでしょう。
2について、一般的な会社ではもちろん、仕入原価に対するチェック機能として購買担当・部門が設置されていれば、行われている業務です。また仮に、購買担当・部門が設置されていない会社であっても、会社は利益を考えるべきですので、営業部門内で売上と仕入原価について営業部門上長、部門長などの責任者がこれをチェックして承認していることでしょう。
3について、一般的な管理方法であるプロジェクト管理は、営業部門という大きな枠組みで損益を見るのではなく、個々の案件ごとに損益をしっかりと管理してプロジェクト案件を成功に導くことができます。また、販売管理・原価管理のプロセスを総合して管理していくことで、会社の業績向上をシステマティックにサポートしていく管理手法(ツール)です。
並行して、個々の営業担当者ほか当該プロジェクトに携わる社員それぞれの働き具合や進捗状況も把握することができるので、人事考課の資料の一つとして利用されることがあります。
上の気づきポイントで重要なところは、今回のような悪質な事案では、仕入原価に対する購買に対するチェック機能と、そのチェック機能はある時点の1回ではなくプロジェクト管理のように継続的にモニタリングを行っていくことで、防止と抑止が可能であると考えられます。
さて、それでは内部監査はどのようにしたら良いでしょうか?
内部監査の本分は “ 社内の通常業務への関心とモニタリング ”
内部監査の本分として、業務監査、通常業務へのモニタリング等が挙げられます。ただ、内部監査はそれだけが業務範囲ではありません。
当該委員会の調査報告では、内部監査の業務の大変さをこのように記述しています。
内部監査の業務範囲は広く、多忙であることは事実ですが、やはり本分は忠実に、しっかりと業務遂行していきたいと考えます。
また、この項のテーマに挙げていますが、内部監査の本分で特に重要なのは「社内通常業務への “ 関心 ” 」です。内部監査担当は内部統制の評価担当にもなっている方が多いと思います。そのため、普段から業務フロー、業務記述をご覧になっていることから、業務の流れについて十分に把握していると思います。しかし重要なのは、その把握だけではなく、コンサルティング業務の観点から社内通常業務への “ 関心 ” を持っていただき、例えば、業務フローと実務との差分は無いか、もし差分があったとして、その差分について業務の効率化等につながるのか、などを考えましょう。
そして、もしその差分が業務フローにある業務工程よりも工数が増えていたとしても、当該工数増により会社の財務報告の正確性、網羅性、適合性の観点から必要かつ重要な工数であるとすれば、諸状況を考慮して業務フローの改訂を当該部門に提案してみることも必要だと考えます。いずれの場合においても、社内通常業務への “ 関心 ” が無ければ行うことができません。
当該会社で発生した悪質な事案のケースで、内部監査としては、社内通常業務への関心と日々のモニタリングを通して、業務の変化や部内の雰囲気の変化を肌で感じ、これを業務監査等で観察・解明していくことが必要です。また最近では国内外問わず営業/事業拠点を持ち、その拠点がコワーキングスペースやシェアオフィスであるケースがあるでしょう。そうであっても、必ず定期的に往査を行ってください。理由は、重要な拠点であれば内部統制の評価範囲に選定されますが、そうでなければその拠点が評価・監査の対象になることは僅少です。このことがのちに監査の抜け漏れとなり、不正への抑止ができていない状況になりかねないためです。
内部監査担当の毎日が、ただ書類作成の忙しさで終わってしまうのは少し寂しいかもしれません。内部監査の皆さんが、社内通常業務へ少し関心を持つだけで、悪質な事案の防止・抑止につながりますので、実践していただくことをお勧めします。
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