
内部監査に向き合う Part.02 - 姿勢② -
内部監査は会社・従業員にとってとても大切な働き・役割です。その働き・役割を遂行するためには、知識と経験と心構えが大切だと思います。それらをいったん振り返って整理し、さらに実践に役立つ戦略・戦術として活かすことを皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
今回は内部監査としての姿勢②です。
「なぜ内部監査をするのか?」を考えてみる
いきなりそもそも論のお話しで大変恐縮です。ただ、これを内部監査の皆さんだけでなく、会社の経営者層や従業員の皆さんも一緒に考えていただく必要があると思っております。前回の記事「内部監査に向き合う Part.01 - 姿勢 -」でもご紹介しました内部監査基準(日本内部監査協会)にあるとおり、
第1章 内部監査の本質
1.0.1 内部監査とは、組織体の経営目標の効果的な達成に役立つことを目的として、合法性と合理性の観点から公正かつ独立の立場で、ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールに関連する経営諸活動の遂行状況を、内部監査人としての規律遵守の態度をもって評価し、これに基づいて客観的意見を述べ、助言・勧告を行うアシュアランス業務、および特定の経営諸活動の支援を行うアドバイザリー業務である。
まずはこれを内部監査の皆さん、会社の経営者層、従業員の皆さんが共有していることが、会社にとってとても大切なことだと思います。
話は少々ズレますが、トヨタ自動車株式会社の「トヨタイムズ」で「【認証問題】トヨタグループで何が起き、今、何をしているのか?」の映像を拝見しました。ここでは2022年からトヨタグループで相次いだ認証問題に対してトヨタグループ各社が正しく仕事をしていくための試みをされている様子が収録されていました。この中で佐藤恒治代表取締役社長が「我々が反省すべきことは2つある」と話し、①法規認証の全体像に対する認識が甘かった②エビデンスの残し方、この2つを挙げていました。私はこの2つのうち②に注目しました。佐藤社長のお話では、「現場での業務への努力は非常に強く払われているが、その業務を第三者が見たときに(エビデンスが)しっかりとわかりやすい形で残っているのか、体系的に残せているのかという点で十分な状態ではなかった。」と話されています。私の見方ですが、ここに「なぜ内部監査をするのか?」の大きな理由があると考えています。営業・事業部門では、日々業績と企業価値の向上のために細心の注意を払って日常業務を遂行しています。相手方がお客様なのですから、しっかりとした内容の営業資料や契約書類(総じてエビデンス)を用意して業務を進めているはずです。その「しっかりと業務を進めている状況」(=組織体の経営目標の効果的な達成)を評価しアシュアランス(保証)するのが、内部監査の業務であると内部監査基準は示しています。ですから前回の記事の繰り返しとなりますが、内部監査の業務は「仕事の間違い探し/粗探し」だけではありません。各部門・部署での業務が正確かつ効率的に遂行されていることを確認し報告することも大切な業務です。ここまで考えると、「なぜ内部監査をするのか?」の回答は一つではなく、その会社の規模や状況等によっていろいろな回答が出てくるのではないかと考えます。
「やはり内部監査は必要か?」を考えてみる
内部監査は会社の業績の向上に直接携わることができません。そのため内部監査の皆さんの中には内部監査を実施しているときに部門・部署の皆さんから「内部監査は現場を知らないクセに」と言われてしまったり、「内部監査のおかげで仕事が止まった」と言われてしまった経験があると思います。もちろん、部門・部署の皆さんは悪意を持ってこう言っているわけではないでしょうし、内部監査の皆さんも悪意を持って内部監査を実施しているわけではありません。特にIPO準備期の会社では、「会社がIPOするから内部監査が必要となる → 内部監査の対応をする業務が増える」と思われてしまうことで部門・部署の皆さんから敬遠されてしまい、経営者層の中にもその雰囲気が伝わってしまうことが多いです。
このような状態でお困りの会社に私がお話しすることは、「内部監査はチェック部門ではなく、アシュアランス部門である。そのため、会社にとって内部監査は必要です。」です。会社がIPOしたり各種の認証(Pマーク、ISMS等)を取得するから内部監査が必要となる、わけではありません。どのような会社にも内部監査は必要です。内部統制・業務プロセスの「フローチャート(業務フロー)」を思い出してください。各部門・部署で正しい業務遂行が行われているかどうかをチェックするのは各部門・部署の上長です。内部統制では評価担当者がそのチェック機能が正しく整備され運用されているかを確認し評価するのです。チェックは日常業務の中で行われていることが重要で、そのチェックが正しく行われていなかった場合はその日常業務の中で正され改められなければなりません。内部監査の業務に「継続的モニタリング」(内部監査基準5ページ/第4章「内部監査の品質管理」・第2節「品質管理プログラムによる評価の実施」参照)があります。ただ、これによって内部監査が日常業務のすべてをモニタリングすることは難しいですし、人員数(マンパワー)と業務時間/業務量の関係からモニタリングできる部分も限定的でしょう。しかし現在の社会・ビジネス環境では、会社の事業・運営は各部門・部署のチェック機能だけで足りるとは考えていません。チェック機能の有効性・妥当性・効果性等を確認し評価し保証する機能を必要としています。ですから「やはり内部監査は必要」と言えると考えるのです。
もし皆さんの会社で内部監査の人員数や業務時間/業務量に多少の余裕があるときは、継続的モニタリングの要素を取り入れた業務監査やテーマ監査の継続的(毎期)実施を検討することをお勧めします。また、内部監査にそのような余裕が無いときは、外部委託(アウトソーシング)を検討することもとても有効です。これらの取り組みを実施することで、会社の企業価値の向上に寄与することができますし、従業員の皆さんも安心して業務に専念できる環境が整います。また、顧客やその他のステークホルダーにとっても安心材料となります。このような一つ一つの積み重ねが企業価値の向上につながるため、ぜひ検討していただくことをお勧めします。