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内部監査の在り方 Part. 09 - テーマ監査④ -

 前回に引き続き、今回もテーマ監査の仕方を通して内部監査の在り方を考えて見たいと思っております。 


テーマ監査の重要性④

 今回もテーマ監査について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。以前の記事「内部監査の在り方 Part. 07 - テーマ監査② -」「内部監査の在り方 Part. 08 - テーマ監査③ -」も合わせてご覧いただけますと幸いです。


 このテーマ監査について継続してご紹介していると、テーマ監査の仕方や取り組み方等学べば学ぶほど奥深さを感じます。テーマ監査はその会社がリスク・インシデントと認識している点だけでなく、その会社の隠れた強み・秘めた実力を見出したり引き出したりできるなど、テーマ監査の仕方や取り組み方でどこにポイントを置くのか、結論としてどのような結果を期待するか(*「結論ありき」ではありません)で方法は千差万別です。業務の誤りを正すことも内部監査の役割ですが、企業価値の向上を引き立たせる・促進するのも内部監査の役割です。これは前回の記事でもご紹介しましたが、内部監査基準(一般社団法人 日本内部監査協会)にもそのように示しています。

 内部監査は、ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールの妥当性と有効性とを評価し、改善に貢献する。経営環境の変化に迅速に適応するように、必要に応じて、組織体の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告するとともに、その実現を支援する。

(引用:内部監査基準1ページ「1. 内部監査の必要」より)

 そのため、内部監査の皆さんとしては被監査部門・業務の不正行為や是正・指摘だけでなく、良好な状況にも目を止めてその良好である要因や担当する従業員の姿勢等を評価して監査報告に記録することをお勧めします。また是正・指摘に関する改善策の助言等は、社内からの要望に応じて計画・実施することをお勧めします。
 それでは今回も、次の3点を踏まえながらこれらについてのアイデアをご紹介したいと考えております。

  • どのように監査するのか(監査方法など)

  • どの観点で監査するのか(整備状況の確認、リスク管理など)

  • どの程度監査するのか(監査範囲、規模、深掘り度など)



【アイデア1】監査範囲は広めに実施する

 監査範囲を広めに実施することとは、設定したテーマにおいて対象となる範囲(被監査部門・業務)より広めに範囲をとって監査を実施することです。例えば、不正行為の兆しのある業務やインシデントと認識している業務を監査対象としてテーマ監査を実施するときは、その対象となる業務に隣接又は連携する業務や部門・部署も監査範囲に設定することです。よく聞くお話しとして、監査対象の業務を十分に監査したところ、問題点は監査対象の業務自体ではなく業務上連携している部門・部署又は業務にあったとか、そもそも規程や業務マニュアルが不十分であったとか、本来監査対象の業務を現在担当している部門・部署がやるべきではなかった等があります。これらはテーマ監査の範囲を広めに設定して実施していれば容易に発見できますし、テーマを設定する時点で予測可能な結論でもあります。ですから、監査範囲を広めに実施するにしても監査対象に隣接又は連携する業務や部門・部署あたりが妥当かと思います。

 この監査範囲を広めに実施するという考えは、前回の記事「内部監査の在り方 Part. 08 - テーマ監査③ -」でご紹介した「【アイデア2】業務資料をできる限り集める」につながります。業務資料をできる限り広く集めることで、監査対象に隣接又は連携する業務や部門・部署とのつながり具合の深さ・重さが理解・把握できますし、業務マニュアル等に無い業務存在やその煩雑さが発見できるかもしれません。内部監査はそれら業務資料から知り得た、理解・把握できた情報を元にヒアリングを行うことで、会社がリスク・インシデントと認識している以上にリスク・インシデントのレベルが高かったり、別のリスク・インシデントを発見できるかもしれません。内部監査が独立性を保つ必要があるのは、単に他部門・業務との利害関係を無くすためではなく、公正不偏な態度で監査を行うことと「組織体の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告するとともに、その実現を支援する」使命があるためだと考えます。その使命を果たすためにも、業務量は多くなりますがぜひ業務資料等の情報収集と監査範囲を広めに実施することをお勧めします。



【アイデア2】「気づき力」が改善策助言のカギ

 内部監査の業務に必要なスキルは何か?と聞かれるとき、私は「気づき力です」とお答えします。この気づき力は、おそらく内部監査の業務だけでなく他の業務にも必要なスキルかもしれません。この気づき力の前提として、最も有効な改善策を考える対象となる部門・業務について自分が担当しているのではなく他の従業員が担当している部門・業務であることです。自分が担当している部門・業務であれば、改善策を講じることで自分が担当している部門・業務の業務効率がUPし、企業価値の向上に直結するので、やりがいや達成感を味わうことができるのですが、他の従業員が担当している部門・業務である場合は少々物足りないと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。内部監査の皆さんは、その物足りなさを感じない又はその物足りなさを傍に置いて会社と他の従業員の側に立って、親身に懇切丁寧に改善策を助言・勧告することができる方々です。また、このような業務を行うことができる内部監査の業務は、とても素晴らしいと思います。気づき力のスキルを持っている方々はたくさんいらっしゃいます。そのスキルを自分のためだけでなく、使命として会社と他の従業員にとって最も有効な改善策を助言・勧告し改善に貢献するためにそのスキルを活かすことができるのが内部監査の仕事だと考えます。

 テーマ監査の話を戻して、監査範囲を広めに実施する際にはこの気づき力を活かして、まずは監査範囲をどの程度まで広げる必要があるかに気づくことです。また、収集した業務資料を確認して理解・把握する際に不明点やヒアリング時に聞きたい質問事項等に気づくことです。ただし、熟練した内部監査の皆さんはこれらに気づくことですでに改善策まで気づいてしまうことがあるかもしれませんが、ここではその改善策の気づきは傍に置いておきましょう。内部監査に改善策を助言・勧告する使命があるといっても、改善策自体を検討して実施する主体はその部門と業務を担当する従業員の皆さんです。その主体が自ら改善策を発案し検討して実施するのが会社にとって最高の収穫ですし、業務効率の達成度合いひいては企業価値の向上度合いも格段に高いものとなります。その実現を支援するのが内部監査の最大の使命でしょう。これこそが内部監査の一番の醍醐味かもしれません。


 今回の記事では、テーマ監査実施の段階で考えるポイントを中心に考えてみました。前回の記事ではテーマ監査の実施前で考えるポイントが多いと気づきましたが、実施の段階でも同様であることに気づかされます。これらの気づきを元に、丁寧な監査を実施することで内部監査の目的(内部監査基準をご参照ください)を十分に達成することをお勧めします。



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