IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.15 - 組織編成 -
IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
今回は、組織編成についてのひと工夫です。
組織編成の気になるところ
組織編成は上場会社やIPO準備期の会社等どのステージの会社に関わらず、とても大切ですし悩みどころの多いものです。なぜなら組織編成は、会社の経営方針と成長過程を具現化するための設計図の一部であり、会社の今を現すだけでなく今後進む方向をも現すものであるからです(*「管理系部門がIPO準備でやること Part.12 - 組織編成編 -」をご参照ください)。また、内部統制の観点では会社のガバナンス体制の点で気になるところですし、内部監査の観点では不祥事・不正行為を未然に防ぐための日常的モニタリングの対象として気になるところです。
今回は、上場会社・IPO準備期の会社での組織編成のひと工夫について内部統制と内部監査の観点で皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
【内部統制の観点】業務分掌と職務権限
内部統制の観点で組織編成を見るとき、業務分掌と職務権限が気になるところです。例えば、業務分掌では牽制機能の有効性が、職務権限では兼務の有無と決裁権限の権限設定が気になるところです。会社が益々大きく成長していく過程で組織が大きく変化したり、複雑化することももちろんあるでしょう。どのように変化するのはその会社の判断ですし、組織編成の固定概念に捉われずに変化させることも問題ないと考えます。ただしその際に特に注意していただきたいのは、J-SOX(企業会計審議会・財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準。以下総じて「J-SOX」といいます)にある内部統制の6つの基本的要素(以下「基本的要素」といいます)を満たしているのかが問われるところです。
おさらいになってしまいますが、J-SOXでは内部統制の4つの目的を掲げています。上場会社はこの4つの目的を達成するため、達成に必要とされる内部統制の構成部分を満たすことが必要不可欠なのですが、この内部統制の構成部分が基本的要素であり、内部統制の有効性の判断の規準となります。今回は組織編成に関係するものをご紹介します。
内部統制の観点で組織編成を考えるとき、すぐに思いつくのは「統制環境」と「統制活動」です。J-SOXでは、統制環境は他の基本的要素の基礎・基盤になるものと説明しています。以下はJ-SOXの2023年改訂版(以下「2023J-SOX改訂版」といいます)統制環境の説明部分です。
組織編成を考える際に、昔からの固定概念に基づいて検討したり、新事業を立ち上げるからといって安易に新たに部門・部署を設置するのは避けた方が良いでしょう。まず考えることとしては上記引用部分のうち⑤組織構造及び慣行⑥権限及び職責⑦人的資源に対する方針と管理の3点を念頭に考えることをお勧めします。統制環境で忘れてはならないものは、組織の情報と伝達の有効性を確保すること、事業活動の目的に適合した権限及び職責が設けられていること、組織の目的を達成していくための人的資源の確保と人材育成の環境と精度の確保です。上記引用部分の①から④については会社法等関係法令に定められているので見逃すことはありませんが、⑤から⑦はそれぞれの会社の経営方針・社風・会社の規模等がまったく違うのですからそれぞれの会社でいろいろと考えその会社なりに構築することができます。しかしそれぞれの会社で自由にして良いとなると、構築の手順として後回しになったり迷ったりなおざりにされがちな部分ですが、例えば不正行為など不祥事の発生した場合、原因として真っ先に挙げられるのはこの⑤から⑦の点です。つまり組織構造及び慣行、権限及び職責、人的資源に対する方針と管理をなおざりにしたときから、その会社のリスク・コントロールの面で黄色信号が点灯することになるのです。そのため組織編成を検討する際、ぜひ内部統制の観点を考慮に入れて検討することをお勧めします。
【内部監査の観点】職務権限と牽制機能
内部監査の観点で組織編成を見るとき、職務権限と牽制機能が気になるところです。これは内部統制の観点と似ていますが、見る側面がガバナンスとリスク・マネジメントの妥当性と有効性を念頭においたものであることをご理解ください(参照:内部監査人協会(IIA)「3ラインモデル」3ページ)。
内部監査は第3ラインとして、第1・第2ラインの機能が妥当であり有効に機能しているかどうかを監査します。第1・第2ラインにおける機能とは、職務権限と牽制機能を指すと考えます。組織編成を検討する際は、第1・第2ラインにおいてどのように・どの程度職務権限と牽制機能を有効にするのかなど、効果的かつ効率的に有効性を考慮しそれぞれの会社に必要としている職務権限と牽制機能を踏まえて妥当性を考えることが求められると思います。ただ、このように言うのは簡単ですが、実際は組織編成の検討段階でこのようなことを踏まえて検討しても、編成後に不具合が発覚することが多いです。検討段階で100点満点な組織編成は非常に難しいです。むしろ100点満点を求める必要はありません。なぜなら、そのために第3ラインである内部監査がモニタリングを行い、定期的又は必要に応じて業務監査を行うからです。ですから内部監査は組織として独立性を確保することとなっていますが、内部監査業務を行うにあたっては社内の全部門・部署と日頃から密接に連携を取る必要があると思います。一方、組織図上で職務権限と牽制機能が有効に機能する形になっていても実務でその機能が無効化されるケースがあります。これは組織編成の検討段階で判明するものではなく、後発的な事情により判明するものです。例としてはタテ兼務・ヨコ兼務です。
会社がIPO準備をするとき、主幹事証券会社又は監査法人からタテ・ヨコ兼務の解消を指摘されることが多いと思います。内部管理体制として管理(チェック)機能と牽制機能が無効化される恐れがあるためです。IPO準備会社は成長期であり業績向上に邁進する状況ですが、そのために部門新設や従業員の入社・退職等人員配置に大変なご苦労があるでしょう。そうなると一時的にタテ・ヨコ兼務にせざるを得ない状況になります。皆さんは「タテ兼務はOK・ヨコ兼務はNG」と聞いたことがあるかと思いますが、これをそのまま鵜呑みにするのはお勧めできません。皆さんすでにお気付きのとおり、ヨコ兼務NGは牽制機能を無効化する代表例ですが、タテ兼務は職務権限の無効化につながる代表例だからです。ただし、タテ・ヨコ兼務がすべて悪いとは言いません。兼務をするにはまずその理由が必要ですし、兼務によって生じる不祥事・不正行為リスクを低減する等の対策があることが前提になります。例えばタテ兼務によって生じる不祥事・不正行為リスクとは、3ラインモデルのうち第1・第2ラインにおいて職務権限が無効化される恐れがある点です。そうなるとリスク・コントロールとしては第1・第2ライン牽制機能と第3ラインである内部監査の2点でしか不祥事・不正行為等の未然防止ができないことになります。3ラインの機能が低下してしまうのです。それでも会社のリスク管理上不祥事・不正行為等の未然防止を求めるのであれば牽制機能と内部監査を強化するために業務負担(量)が増加し増員しなくてはならない状況になりますが、昨今の労働環境・採用市場を見れば業務負担増加と人員採用を簡単に行うことは非常に困難です。ですから、なんらかの事情ですぐにタテ・ヨコ兼務を考える前に、まずは組織編成を見直すことをお勧めします。
見直す際は、組織図上で職務権限と牽制機能が有効に機能する形が必要であることが前提となり、その上でタテ兼務が必要な場合は職務権限を見直して、例えば職務権限上では最終決裁権限が部長にある場合でその部長が課長職を兼務するときは最終決裁権限を部長より上位者に引き上げたり、又は牽制機能を持つ部門の部門長の承認も必要とする2つの承認をもって決裁とする形も考えられます。内部監査は監査する立場であると同時にアドバイスする立場でもあります。タテ・ヨコ兼務及びこれ以外にも職務権限と牽制機能が無効化されている状態が無いように、その状態があればすみやかに改善する指摘を行いながら改善に向けたアドバイスを行うことをお勧めします。
組織編成に関しては、内部統制・内部監査の観点で語られることが少ないかもしれません。会社によっては業績向上やIPO準備、上場維持を大きく重視するあまりに内部統制・内部監査の観点をなおざりにしてしまうことがあるかもしれませんが、そのときはいったん立ち止まって振り返ってみてください。そして周りを見渡してください。周りの会社では職務権限と牽制機能が有効に機能しているからこそ会社が成長することができ、職務権限と牽制機能が有効に機能していないために悲しい現実を迎えた会社が多いことに気付かれるはずです。
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