監査役の在り方 Part.04 - 監査役と監査等委員の未来像 -
2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が改訂されました。この改訂に伴い、監査役/監査等委員の役割の重要性が上がっています。この改訂は今後も続くそうですが、監査役と監査等委員の役割もさらに変わっていくでしょう。
今回は監査役/監査等委員の将来像について考えてみましょう。
監査役と監査等委員の役割の違いから
前回の記事「監査役の在り方 Part.03 - 普段業務の積み重ねで差がつく -」でご紹介しましたが、監査役/監査等委員(以下総じて「監査役」といいます)の役割は会社法/J-SOXに示されています。以下、会社法から引用します。
まず、会社法で示している「取締役の職務の執行を監査する」とは、「監査には、業務監査と会計監査とが含まれる。業務監査は、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することで、一般に適法性監査と呼ばれている。」(出典:公益社団法人 日本監査役協会サイト「監査役とは」)つまり、取締役の職務の執行が適法に行われているかを調査・監査することです。ただ、これだけですと会社法上では監査役と監査等委員の役割の違いは無いように見受けられます。しかし、これを監査役と監査等委員の立場の違いから見ると、その役割の違いがハッキリとします。
監査役と監査等委員の大きな違いは、取締役会の決議事項についての議決権の有無です。
監査役は取締役ではありませんので取締役会の決議事項についての議決権はありません(出席義務はあります)。監査等委員は取締役ですので取締役会の決議事項についての議決権があります。まずこれを元に考えると、取締役会の決議事項についての議決権を持つ監査等委員が「取締役の職務の執行が適法に行われているかを調査・監査すること」だけで議決権を行使することができるのかという点に疑問が残ります。そこで注目するポイントは、監査等委員は取締役会のメンバーである点です。
ここで、いったん取締役会の権限を確認します。
つまり、監査等委員は取締役の職務の執行を監査する権限と取締役の職務の執行を監督する権限を持っていることとなります。監査と監督の言葉の違いですが、会社法等関係法令にその説明はありません。ただし、学説上で監査とは、業務の適法性の監査のことを指し、対して監督とは、業務執行の妥当性の監督のことを指すとしています(参考:江頭憲治郎著・株式会社法(第8版)/有斐閣)。
妥当性の監督については、監査等委員は前述のとおり取締役会の決議事項について議決権を持っており、議決権を行使する際にその決議事項の内容や提案理由、趣旨を十分に理解し妥当性を考えたうえで行使することです。これは監査役には無い権限になります。この点は会社法第399条の2第1項には示されていないのですが、監査等委員が取締役であり、取締役会の決議事項についての決裁権限があることを踏まえるとわかりやすいかと思います。
なぜ「委員会」なのか?
そもそもの話ですが、監査等委員会(委員会設置会社の場合は「監査委員会」)はなぜ「委員」なのか。皆さんは不思議に感じませんか?
委員会設置会社は2003年4月施行の「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法)」の改正によって導入されました(*、当時、委員会設置会社は「委員会等設置会社」と言いました)。この導入のきっかけとなったのが、アメリカの委員会制度(監査委員会、指名委員会、報酬委員会設置の原則)と言われています。この「委員会=Committee 」がそのままの言葉で日本に導入されています。
日本の監査等委員会とアメリカの監査委員会の役割には、少し違いがあります。またその他の海外各国の監査委員会もだいぶ違います。日本と海外各国との監査委員会制度の違いについては、経産省の産業経済研究委託調査事業「コーポレートガバナンス改革に係る内外実態調査」最終報告資料(2022年03月)に詳しく報告されていますので、ぜひご参照ください。
日本の監査等委員会とアメリカの監査委員会の役割には少し違いがあるものの、2023年04月J-SOX改訂によって内部統制の整備・運用状況の監視も加わるなど、その差はだいぶ縮まり、アメリカの監査委員会制度に近づいています。J-SOXは今後も少しずつ改訂するそうで、さらに近づくことでしょう。次の改訂ポイントとしては。①会計監査人(外部監査人)の選任・再任・解任の権限(現在は取締役会の権限)、②監査委員会と内部監査部門との直接のレポートライン確立、③評価範囲に関する基準の撤廃かと推察します。特に監査等委員会と内部監査部門との直接のレポートラインを確立することは、代表取締役と内部監査部門のレポートラインが無くなることにつながりますので、経営者に対するより一層の監査・監督機能強化となり、監査役等は以前にも増して実効的に職責を果たすことできることになります。この点はとても興味深いです。
監査役にもその良さがありますが、日本が監査等委員会を導入することとなった意図と今後の方向をみていくと監査等委員会にもその良さがあり、その良さを踏まえて導入する会社が今後も増えていくのではと考えます。
監査役と監査等委員会の将来像
2023年04月J-SOXの改訂は先般の記事「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.01 - 改訂の概要から - 」や「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.04 - 監査役の重要性 - 」でご紹介しましたが、2013年05月COSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)の内部統制の基本的枠組みに関する報告書(以下「COSO報告書」)が発表されたことがきっかけとなっています。ただし、完全に移行しているわけではなく、今後もJ-SOXの改訂は続くものと考えます。特に監査委員会制度は、アメリカ以外の海外各国のその制度も、例えばイギリスの監査委員会の役割には監査のほかに危機管理、内部統制に関する業務を管理することとなっており、とても興味深いです。
監査役と監査等委員会の役割は、関係法令とJ-SOXの改訂によって変わりつつありますが、株主等ステークホルダーが監査役と監査等委員会に求める役割はさらにハードルが上がるでしょう。そうなると、関係法令やJ-SOXで求められている役割よりも、皆さんの会社が「監査役/監査等委員にはこの職責を果たしてもらう」という明確な方針(ポリシー)を持つ必要があるのではないでしょうか。これを明確に示す場所は皆さんの会社の「内部統制システム基本方針」になります。内部統制に積極的な会社は、この内部統制システム基本方針をその会社独自の文章にしたり、コーポレート・ガバナンス、コンプライアンス体制自体をその会社独自のかたちにしているところも見受けられます。監査役と監査等委員会の将来像を想像している、または将来的な展望を見据えている会社が、すでにあるのです。
海外投資家が日本の株式市場に大きな興味と期待を寄せている現在、海外各国の法令、制度や海外企業のコーポレート・ガバナンス、コンプライアンス体制をよく研究し、これらを材料として皆さんの会社独自の「The 我が社の監査役/監査等委員」を表明して実践することで、企業価値の向上を目指して結果を出していく時代になっていくのではないかと想像します。
ぜひこの流れに乗って、企業価値の向上を目指しましょう。
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