監査役の在り方 Part.07 - 組織編成 -
2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が改訂され、これに伴って監査役/監査等委員の役割の重要性が上がっています。
今回は監査役/監査等委員が見る組織編成について考えてみたいと思います。
監査役として組織編成を見ること
組織編成についての掲載を続けておりますが、とても重要な点でありますのでお許しください。その理由は、組織編成は会社のガバナンスが体系的に示されるものであり、監査役(監査等委員を含み、総じて「監査役」といいます)には代表取締役、取締役会等と同様、会社のガバナンスについての責任があるからです。
今回の記事では、皆さんの会社で行われている人事異動・組織の再編など組織編成に関して監査役として見ることについて考えて見たいと思います。そう言っても、ほとんどの監査役の皆さんは会社の組織編成について意見を述べることは少ないかもしれません。横から口を出して(意見して)、その言い方によっては「越権行為だ」と思われるかもしれないからです。その意見が異動対象となる人物や事業活動に関するもの等個別的なものであってはならないことはもちろんですが、ガバナンスの観点で意見をするとしたら話は別です。組織編成自体に問題点がある場合(例:牽制機能が失われる組織再編など)や今後発生しうるリスクへの対応等を考えたとき、あくまでガバナンスの観点での監査役からの意見はとても大切だと考えます。
会社が飛躍的な成長・企業価値の向上を考えるとき、組織編成の見直しは必要不可欠です。新規事業立ち上げ、子会社の新設又はM&A、業務の効率向上に伴うもの等がそれにあたりますが、このような状況の場合、ついガバナンスや内部統制の観点の確認を見落とす傾向があります。適時開示情報閲覧サービス(TDNET)をみると見落としたために不祥事等に発展した事例が出てきます。そうすると特別調査委員会等の最終報告にはガバナンス、内部統制の観点の確認を見落としていたという結論になっているのをご覧になれると思います。そのような結果になる前に、監査役におかれては組織編成を見て他の監査役と協議のうえで意見することをお勧めします。
それでは具体例を挙げながら、監査役としてどのように組織編成を見るかを考えてみたいと思います。なお以下の具体例は、上場して間もない会社、IPO準備中の会社を想定しております。また会社の規模等背景によっても事業施策の取り方が違ってくると思いますので、その点はご了承ださい。
【ケース1】新規事業立ち上げに伴う事業部新設のケース
ケースのシナリオは、以下を想定しております。
業績拡大を図るため新規事業を立ち上げることとした。
新規事業は予算規模等大きなものになると考え、事業部として新設した。
事業部の責任者は他社の責任者クラスを採用した。
この場合、監査役の皆さんが組織編成に関する意見として、どこのポイントを挙げられるでしょうか。すぐに挙げられるポイントは、おそらくリスクの観点ではないでしょうか。
<考えられるポイントの例>
新規事業に関するリスク:許認可の要否など。
部門新設に関するリスク:決裁権限、内部統制上のキーコントロール(以下「KC」といいます)の置き所、牽制機能となる部門・部署の有無など。
情報管理に関するリスク:新規採用した従業員の前職会社からの機密情報持込みなど。
リスクはいろいろ挙げられると思いますが、このうち今回のテーマである組織編成の点では部門新設に関するリスクに注目します。この点は監査役としては内部統制、ガバナンスに関するもので守備範囲となるものと考えられます。加えて、事業部門新設よって考えられるリスクはTDNETで不祥事事例でよく見られるケースですので、ご参考にしていただけたらと思います。
部門を新設すれば、もちろん決裁権限に関する規程の改定が必要ですし、既存の販売管理に関する規程(業務マニュアルを含む)や事業によっては購買、固定資産等に関する規程の改定も必要となるでしょう。また事業部となると、会社によっては他の部門とは扱いが違うことも考えられますので、3ラインモデル(内部監査人協会(The Institute of Internal Auditors)の3ラインモデルをご参照ください)からみると牽制機能を持つ部門・部署が第1ライン(自部門等)を飛び越えていきなり第2ラインになる可能性があります。この場合、内部統制上のKCの置き所がかなり難しくなります。業務を行うなかで積み重なるリスクをまとめて1箇所のKCでカバーするとなると、このKCに設定された部門・部署・担当者への責任と業務の負担が重くなります。KCをある程度分散させることもリスク・コントロールですし、業務上の誤りを防ぐとともに不正行為等不祥事の発生リスクを抑えることも考えられます。新規事業立ち上げに伴う事業部新設は会社にとっては大きな飛躍を第一に考えているので、事業リスクは検討していても決裁権限や内部統制に関するリスクまでは検討していないことも考えられます。ぜひご一考いただくことをお勧めします。
【ケース2】部門長クラス異動のケース
ケースのシナリオは、以下を想定しております。
部門長が退職した。
①後任は新規採用を行うこととなった。
②又は昇格人事を行った。
新規採用は時間を要するので、その上長が兼務することとなった。
昇格した従業員は部門長の経験が無い/浅いので、管理職研修を受講してもらうこととなった。
この場合でも、監査役の皆さんが組織編成に関する意見としてはおそらくリスクの観点ではないでしょうか。
<考えられるリスク>
事業・業務に関するリスク:前任から後任への引継ぎなど。
兼務に関するリスク:兼務による決裁権限の誤解、牽制機能の無効化など。
ここでは、兼務に関するリスクに注目します。
以前の記事「管理系部門がIPO準備でやること Part.12 - 組織編成編 -」で取り上げましたように、上場して間もない会社やIPO準備中の会社では成長性を考えると部門新設や人員増に伴う部門増設(例:営業部門を分けるなど)は避けて通ることができないことですし、会社の成長のためにはドンドンやるべきだと考えます。そのときによくあるのは役員・従業員の兼務で、これがあるときには十分に検討することをお勧めします。検討するポイントは、兼務によって決裁権限が混同されてしまうパターン(例:取締役等役員クラスが部門長職を兼務した場合で2段承認を1段で済ませてしまう。)や、本来牽制機能である部門の長が他部門を兼務することによって牽制機能が弱体化・無効化されてしまうパターンです。特に決裁権限が混同されてしまうパターンは、内部統制上のKCとして2つ設定しているのに実際は1つとなっていてはKCとして設定している意味が無くなります。たとえ事業年度中に新規採用する予定で実際に期末までに新規採用されたとしても、稟議・ワークフロー上に兼務した方による承認がいくつか存在することが考えられます。その一時期に限って・・・ということがないように、限定的な期間であっても兼務に関するリスクを念頭に置いたリスク管理(例:期間を限定したかたちの決裁権限を施行する、など)を、監査役からの意見として述べることをお勧めします。この点は内部監査と連携して業務監査を行うこともお薦めします。
一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)は意見書「我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について」(2006年06月20日公表、以下「経団連意見書」といいます)では次のように述べられています。
組織編成は効率性の向上・企業不祥事の防止・健全性の確保のため、会社を体系的に捉えて管理するための仕組みです。その仕組みが適正かつ公正に行われているかどうかを監視・監査するのが監査役等の役割であり、その会社のコーポレート・ガバナンス体制が適正かつ公正に行われているかどうかをステークホルダー等が確認する相手は、監査役等になります。
また、J-SOX2023改訂版の実施基準(「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」。以下「実施基準」といいます。)の中で監査役の役割の記述がありますので引用します。
ここでは監査役に、内部統制に関する留意の必要と監視する責任があることを示しています。その内部統制には組織編成も含まれます。その組織編成について監査役が持つ専門性とこれまでの経験を踏まえた意見は、会社にとって有難いものと思います。会社で組織編成に関する議案があったときは、ぜひ監査役会・監査等委員会で十分にご検討いただくことをお勧めします。