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" 発生事実(不祥事/不正行為) " が発生しない上場会社の内部監査 Part. 17 - M&A -

 上場会社での発生事実(不祥事/不正行為)が跡を絶たない昨今、内部監査はその責務を果たすため、どのようにしたら良いでしょうか。
 直近事例を内部監査の目線でみていきます。 



 今回の直近事例は上場会社の海外子会社において発生した贈収賄事案ですが、この事案をを題材にもしM&Aした海外子会社においてこのような事案が発生した場合を想定して、具体的なアイデアを皆さんと考えてみたいと思います。想定した状況は、上場会社(またはIPO準備前および準備中)がM&Aした海外子会社で、当該子会社の役員に親会社従業員および役員等が入っている/入っていないは問わないものとします。

 この想定を踏まえて、今回の直近事例のポイントを挙げますと次のようになります。

  • 海外子会社での不正行為のリスク洗い出し

  • M&A案件への内部監査の関わり方

  • 海外子会社に対するアプローチの仕方

 これらを内部監査の目線でみていきます。


直近事例から - 概要説明 -

【事案の概要】

 当該上場会社の海外子会社において、取引先に対し不適切な支払いがなされ、それが現地の法令違反となる可能性が認識されたため、当該上場会社は特別調査委員会を設置した。当該事案発覚の経緯は、当該子会社の従業員からの内部通報である。

 この内部通報を受け、特別調査委員会が調査を行ったところ、当該事案のほか複数の不正行為が行われていることが判明。さらに当該子会社は、このような不正行為を当該上場会社によるM&Aがなされる以前から組織的に行なっていたことが判明している。当該子会社の内部監査は現在のところ当該上場会社の監査室が行なっているが、M&A前は現地の外部監査人が行なっていた。

 特別調査委員会の報告によれば、当該上場会社は当該子会社に対する出資を行う際に、法務・財務・事業の各デューデリジェンス(以下「DD」といいます)を行なっている(*人事・ITに関するデューデリジェンスは行っていない)。ただしそのDDは出資規模が小さいこと等を踏まえて限定的なDDが実施され、贈賄リスクを認識・評価するためのDD実施されておらず、DD以外の契約上の対応などを含め、贈賄リスクについて特段の検討は行われなかった。贈賄リスクを認識・評価するための役職員へのインタビュー等がDDの過程で実施されていれば、出資の判断に影響する重要なリスクとして把握された可能性は否定できない。 

(出典:TDNETに掲載の某社リリースより要約)



M&AのポイントはDDへの理解と認識

 以前の記事「IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.14 - M&A - 」でもご紹介しましたが、DDを実施後の報告書はとても重要です。どの程度重要かといえば、次の3点を挙げます。

  1. (M&A前に)M&A先をよく知るための資料であること。

  2. M&Aの可否判断を行う際の材料であること。

  3. (M&A後に)M&A先の管理・成長のために必要な資料であること。


 この中で最も重要なのは3と考えます。
 2のM&A可否判断の際、おそらくそのM&A対象先に問題が1つでも存在するからといってただちに否と判断することは無いでしょう。多少問題があったとしても出資を決めるパターンが少なからずあると思います。そのときの可否判断の決め手は①「多少の問題」が解消・改善できるかどうか。②同時に「多少の問題」の解消・改善するロードマップを描けるかどうかが。③その問題の解消・改善へのロードマップが描けるとしても、次に投資対効果や解消・改善にかかる時間的な問題、担当する従業員等のリソースの問題などの各問題を解決できるか。さらにこの他の問題を解消・改善するに伴って発生する問題をも解決しなければなりません。そのため、1や2のときだけでなく3のときにもDD報告書はとても重要だと考えます。

 DD報告書はM&A前から後のM&A先の管理・成長のために必要な資料ですので、どのような内容なのかという理解を深めることと指摘されている問題点の内容の理解と問題点の深さを認識することが、M&Aのポイントです。ですから、単にM&A可否の判断材料ではなく、M&A先をよく知り今後の管理・成長のために必要な資料であることをご理解ください。



M&Aは問題の解消・改善完了でクロージング

 M&Aを経験されている皆さんはすでにご存知だと思いますが、M&AはM&A先に出資した時点で完了ではありません。その親会社のグループ経営方針としてM&A先の経営管理体制を構築して問題なく運用し、M&A時に定めたゴール(目標)に到達することで本来は完了となります。ただ、その完了までの工程でやるべきこととこれに携わる従業員等の皆さんは、ある時点で替わります。その「ある時点」とは、DDで洗い出された問題点の解消・改善が完了された時です。

 M&A先は、親会社の傘下に入った時点(またはその直前)で親会社従業員等がM&A先に出向、移籍等で中に入ったりするなどして親会社の経営管理体制に組み込まれることとなりますが、この親会社従業員等の皆さんは、あくまでグループ経営・企業経営に携わる皆さんです。日常の通常業務に専念されますので、M&A前の諸問題を解決しながら通常業務を遂行することは困難です。M&A先に蓄積した問題点の解消・改善は、M&Aに携わった従業員等の皆さんが携わることをお勧めします。なぜなら、M&Aに携わった従業員等の皆さんはDDで問題点として挙がった原因・経緯・理由等をDD報告書で十分に理解・認識していますし、DD報告書は会社の機密情報に相当しますので必要最低限の関係者に限定したいところです。そのような情報をM&A後に通常業務に携わる従業員の皆さんに共有することは、情報漏えいの原因になりやすいので避けた方が良いでしょう。そのように考えても、やはりM&Aに携わった従業員等の皆さんが携わることをお勧めします。
 また、このDDで洗い出された問題点の解消・改善の際に、内部監査の皆さんのお働きが重要になります。



M&A案件への内部監査の関わり方

 M&A案件への内部監査の関わり方として、まず関わるタイミングとしては直接M&Aの各業務に携わることはできませんので、親会社傘下に入ったタイミングからになると思います。内部監査としては業務管理体制の状況、規程整備状況、機関設計状況等を監査したり、内部統制としては全社統制(CLC)・決算財務プロセス統制(FCRP)・業務プロセス統制(PLC)・IT統制(ITGC、ITAC)の各整備状況の確認を行うことが思いつくと思います。これにもうひとつ大切な監査があります。それは、このM&A案件に関する業務監査です。

 M&A案件に関する業務監査のポイントは、次のとおりです。

  1. M&A案件の一連の経緯(検討から意思決定まで)に関する法令(規程を含む)遵守状況

  2. M&A案件の機密情報管理状況

  3. DDによって洗い出された問題点とその解消・改善状況


 上のポイントのうち1と2は親会社傘下に入ったタイミングで着手可能な業務監査となりますが、3は問題点を解消・改善する担当者たちと並行して業務監査を行いつつ片方で解消・改善に向けたアドバイザリー業務となります。業務監査とアドバイザリー業務の両方が同時進行となりますので業務量が多くなると思いますが、しかし解消・改善にあまり時間をかけられない事情もあると思いますのでゆっくりしていられません。当該M&A先を含めた連結決算をお考えの場合は、すぐに四半期・半期・年次決算のいずれかを迎えることになりますので尚更です。そのため、どちらかというとアドバイザリー業務が先行することも考えられます。ここでお勧めする方法としては、内部監査は直接M&Aの各業務に携わることができませんが、親会社傘下に入るタイミングの前にはM&A案件の各種資料特にDD報告書をまず入手することは可能だと思いますので、これをお勧めします。先行して各種資料を入手することで、いざ業務監査を行えるタイミングですぐに着手することができるからです。もし問題点の解消・改善の担当者が親会社傘下に入るタイミングの前から解消・改善に向けた業務を進めている場合は、できる限り積極的に連携をとることも大切です。内部監査が後出し/出遅れでアドバイザリーを行ったら問題点の解消・改善の担当者の業務に迷惑をかけてしまうこともあるからです。このようなことにならないよう、十分な配慮が必要だと考えます。また今回の直近事例は海外子会社での贈収賄事案ですが、このような事案を防ぐためには当該子会社の現地国の法令を把握し日本法との差異等を理解することが重要です。これは事前に着手することができるものです。事前に着手可能なことは日を待たずに準備を行い、着手可能なタイミングになったらすぐに内部監査に着手できるよう計画することをお勧めします。


 M&AはIPO前・準備期の会社、上場直後の会社で比較的身近なものとなりました。そのため直近事例のような事案が頻度高く発生している状況です。これはM&A経験を積んでいる会社でも起こりうるもので、経験数の多少で語ることはできません。突然の不祥事発覚で慌てることがないよう、M&Aはぜひしっかりとした準備と着実な手続きを進めていただくようお勧めします。



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