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監査役の在り方 Part.03 - 普段業務の積み重ねで差がつく -

 2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が改訂されました。この改訂に伴い、監査役/監査等委員の役割の重要性が上がっています。
 今回はこれについて考えてみましょう。



監査役の役割の変化

 監査役/監査等委員(以下総じて「監査役」といいます)の役割は、会社法に定められている役割と、J-SOXにおいて求められている役割があります。

 まず、会社法に定められている役割について、公益社団法人日本監査役協会「監査役制度」に簡潔にまとめられている記述がありますのでご紹介します。
(*同協会サイトに「日本の監査役制度(図解)」ページもありますので、併せてご参照ください。)。

 

 監査役は株主総会で選任され、取締役の職務の執行を監査することと監査報告を作成することがその職務である。監査には、業務監査と会計監査とが含まれる。業務監査は、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することで、一般に適法性監査と呼ばれている。

(出典:日本監査役協会サイト「監査役とは」ページ


 上の引用のとおり、監査役の役割は、取締役の職務の執行を業務監査と会計監査の両面から監査し、監査報告を作成することです。これに加えて、J-SOXにおいて求められている役割があります。こちらは以前の記事「監査役/監査等委員の在り方 Part.01 - 観点・知識と実務経験 -」でもご紹介した2023改訂版「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会・金融庁)(*以下「J-SOX2023改訂版」といいます)の実施基準にその説明があります。

(3)監査役等
(略)
 監査役等は取締役等の職務の執行を監査する(会社法第381 条第1項、第399 条の2第3項第1号及び第404 条第2項第1号)。また、監査役等は、会計監査を含む、業務監査を行う。監査役等は、内部統制の整備及び運用に関して、経営者が不当な目的のために内部統制を無視又は無効ならしめる場合があることに留意する必要がある。監査役等は、その役割・責務を実効的に果たすために、内部監査人や監査人等と連携し、能動的に情報を入手することが重要である。

 監査役等は、業務監査の一環として、財務報告の信頼性を確保するための体制を含め、内部統制が適切に整備及び運用されているかを監視する。また、会社法上、監査役等は、会計監査人が計算書類について実施した会計監査の方法と結果の相当性を評価することとされている。

 一方、本基準で示す内部統制監査において、監査人は、監査役等が行った業務監査の中身自体を検討するものではないが、財務報告に係る全社的な内部統制の評価の妥当性を検討するに当たり、監査役等の活動を含めた経営レベルにおける内部統制の整備及び運用状況を、統制環境、モニタリング等の一部として考慮する。

(出典:実施基準57ページ/「内部統制に関係を有する者の役割と責任」項)


 監査役の役割には、会社法に定められている役割とJ-SOXにおいて求められている役割の2つの役割がありますが、その2つはまったく別のものではありません。ただし、それらの役割を遂行することで、生み出される成果物が違うという点があります。例えば、監査役が実施する会計監査は、会社法に定められている役割を通して生み出される成果物としては株主総会招集通知に添付される監査報告となります。一方、J-SOXにおいて求められている役割を通して生み出される成果物は、今までは具体的にこれというものはありませんでしたが、今回の2023J-SOX改訂版には「監査役等は、業務監査の一環として、財務報告の信頼性を確保するための体制を含め、内部統制が適切に整備及び運用されているかを監視する」とありますので、内部統制体制の整備及び運用状況を監査役監査として監査し、その監査報告を作成することなど成果物が求められると推察します。

 このように、監査役の役割は変化し、これに伴う成果物を求められるようです。
 では、内部統制体制の整備及び運用状況を監査役監査として監査することについて、いったいどのようにしたら良いでしょうか。



監査役は普段業務の積み重ねが重要

 監査役の役割に「会計監査を含む、業務監査を行う」とありますが、常日頃から大きなテーマを挙げて監査を四六時中行っているわけではありません。例えば、社内で行われている会議体への参加・出席や、取締役のほか各部門の部門長などへのヒアリング、稟議書監査など、社内業務について普段から情報収集を行うことや定例業務監査を行うなどの細かい業務で積み重ねを行います。特に稟議書監査は、普段からの積み重ねが重要になります。これは、稟議書の決裁が社内規定のうち決裁権限に関する規程の定めに基づいて実施されているものであり、この決裁の実施状況は、会社の事業運営の根幹にあたるものだと考えているからです。

 決裁権限に関する規程の中には、株主総会、取締役会など各機関の決裁権限も入っている会社があると思いますが、多くの場合稟議の決裁権限に関する項目(例:販売金額に応じて決裁権限者を定めている)が大半を占めていると思います。この規程に基づいて月に数百件、申請等を含めると1000件近い量となる会社もあるでしょう。監査役が行う稟議書監査では、よくある例として決裁権限上で取締役以上(取締役会を含む)が決裁する稟議書を監査対象として監査を行うことがあります。これも有効だと考えますが取締役以上に決裁を上申する稟議書の数は少ないかと思います。これですとその会社の稟議制度が有効に運用されているかを確認することは難しいでしょう。できれば数か月に一度でも良いので、全件を網羅的に確認することをお勧めします。これのメリットとしては、次のとおりです。

  • その会社の稟議制度が有効に運用されているかを確認できる。

  • 取締役以上(取締役会を含む)が決裁する稟議書だけにリスクが存在するわけではなく、全体をムラなく確認することができる。

  • 稟議制度の運用状況だけでなく、運用方法の正確性と信頼性も確認することができる。

 監査役の役割は、単に業務監査を行うことだけではありません。J-SOXにおいて求められている役割のとおり、内部統制が適切に整備及び運用されているかを監視することも重要です。
 この整備及び運用状況を把握するためにまず押さえておく社内制度は、稟議制度であると考えます。ただし、前述のとおり会社によっては毎月1000件に近い量になる場合もありますので、毎月全件を確認するのは大変な作業となりますが、要点を押さえたうえで普段業務として稟議書監査を丁寧に行うことで、大きなトラブルになる前に小さなリスクとして検出することが可能です。また、最近では稟議フローをアプリケーションやSaaS等外部のサービスを利用して行うことが多いと思いますので、この場合、例えば人事異動や組織再編に伴って決裁権限者や組織の改訂が正しく行われているかを確認することも大切です。決裁権限者や組織の改訂が誤ったままで稟議フローが運用されていたら大変なことです。これも内部統制が適切に整備及び運用されているかを確認するポイントになりますので、ご検討ください。

 また、稟議書監査は業務のボリュームが多いので、内部監査の皆さんと連携して稟議書監査を行うという方法も良いかと考えます。整備状況を監査役が、運用状況を内部監査が監査する等の役割分担で行う方法もありますので、合わせてご検討ください。


 このほかにも、監査役が行う普段業務がありますが、役割として必要な業務とはいえ業務量が多いです。どのくらいの範囲でどのくらいの深度(程度)で行うかは監査役の皆さんの判断になります。公益社団法人日本監査役協会では、テーマ等で分かれた分科会がありますので、そこでお知り合いになった他社の監査役の皆さんと情報交換することも良い方法です。ぜひ積極的に交流してみることをお勧めします。



積み重ねることで大きな差がつきます

 監査役の普段業務は、ただ業務量をこなしていくだけではありません。この普段業務で積み重ねた情報から、会社に存在する可能性のある不正行為等業務の正確性と信頼性を損なう事案や、業務の正確性と信頼性をさらに向上させるための改善の余地見つけることなど、会社に存在するリスクはたくさんありますが、このリスクを見つけだすことは容易ではありません。また、たった1回の監査でそのリスクを見つけだすことは、さらに難しいことと思います。そのために社内の業務を定点観察するなどの普段業務がその効果を発揮します。また、普段業務によって得られる情報は、社内に顕在化しているリスクの温床を洗い出す際に有効・有益な情報です。逆に、これが無ければリスクの根本的な解決は難しいでしょう。

 また、監査役の普段業務を内部監査の皆さんと連携・共同して行うことはとても有効ですが、その業務のほとんどを内部監査の皆さんにお任せしてしまうことはお勧めしません。なぜなら、監査役自身が社内の有効・有益な情報に普段から接してその情報を元に普段業務を遂行し、その普段業務で得た材料を元に監査役監査を行うことが会社法、J-SOXで求められている監査役の役割であり、その監査役監査の結果は会社存亡の危機を救う、または会社の企業価値向上につながる結果につながるものだと考えます。監査役の役割がこのような結果をもたらすものであるならば、監査役の存在価値は大いに上がります。勿体ないことですので、ぜひ監査役ご自身で普段業務を積み重ねていくことをお勧めします。


 監査役が担う業務の量は多く、その職責はとても重いですが、監査役の存在意義はとても高く、やりがいのある役割です。これはアメリカの監査委員会制度(独立取締役)とは違う役割です。この違いについては後日ご紹介しますが、日本の監査役制度は良い/悪いはともかく海外から注目されています。この際、日本の監査役制度の良い点を大いに活かして、皆さんの会社の企業価値向上につなげましょう。



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