- 上場会社の発生事実で内部監査は・・・ _具体事例での内部監査の扱い-
上場会社で起こる出来事に対し、内部監査の体制/業務状況を取り上げられることがあります。それは、会社にとっては、あまり芳しくない出来事の際に、取り上げられるのですが・・・
いったい、なぜ? どのように取り上げられるのか?
これを具体事例を挙げて、説明します。
(約5分程度でお読みいただけます。)
上場会社の " 発生事実 " とは?
会社では、いつ何時にも、いろいろな出来事が発生します。良いこともあれば、芳しく無いことも・・・。特に上場会社では、会社内で発生した事実の内容によっては、証券取引所の「開示基準」に則ってTDNET、会社のコーポレートサイト上においてリリース(開示)する義務があります。これを " 適時開示 " と言いますが、その出来事のすべてを開示するのではなく、開示基準に従って開示の要/不要、開示項目等が定められています。この開示基準は、各証券取引所の " 有価証券上場規程 " にそれぞれその定めがありますが、今回は東京証券取引所の有価証券上場規程(以下「上場規程」と言います)の定めから説明を進めていきます。
適時開示の定めは、上場規程第4章上場管理・第2節 会社情報の適時開示等からはじまりますが、かなりの長文になりますので引用は割愛させていただきますが、かなり詳細に開示すべき事項が定められています。この理由(目的)は、上場規程の第401条に定められています。
このように、適時開示の目的は「公正な株価等の形成および投資者保護」であり、これに資する情報であることが必要なのです。
なかでも、この適時開示で目につく情報があります。それは「発生事実」です。この発生事実のなかでも、特に会社にとって芳しくない出来事が発生したときに開示するものとして、次のような項目があります。
この記事の冒頭「内部監査の体制/業務状況を取り上げられることがあります」と申しあげました。普段の上場会社は、自社の内部監査の体制や業務状況について、その内容を対外的に開示することはありません。しかし、発生事実に該当するような事案が発生した場合、特に会社の不祥事が発生した時には必ず「当社の内部監査体制は・・・」と文章に表れます。
適時開示に出てくる「内部監査」について(事例から)
先のとおり、上場会社で不祥事が発生したときは、開示基準に従って適時開示の必要があれば開示を行います。これにしばしば登場するのが内部監査なのですが、あまり良いことで取り上げられておりません。
参考資料として、金融庁が公開している「開示検査事例集」をご覧ください。
<ご注意>
以下にご紹介する引用は、「開示検査事例集」の文章のままです。
事例集にある事例は、過去・古い時期のものですので、直近の法令・商習慣等に合っていないものがあるかもしれません。ご注意ください。
この事例で、内部監査に関する記述があります。
上の(1)背景・原因 を見ますと、内部監査として監査業務を行なっていたのですが、業務監査の監査手順と証憑収集(書面監査)とその読み込み具合、およびどこまで深めて監査するか、のところを見誤っていたように見受けられます。おそらく、内部監査としては、いわゆる " できる範囲 " を見たと思いますが、先般私の記事にもご紹介したように、内部監査が監査する際は、内部監査の領域だけでなく、経理・会計の領域、法律の領域、営業・事業の領域を、その目線と知識、経験をもって監査する必要があります。この点を理解している内部監査でしたら、見逃すことはなかった、と推察します。
そのため、とても残念ですが、是正の項目に「内部監査の質的・量的な充実」と記載されることになってしまうのです。
もうひとつ事例を挙げましょう。
この事例は、子会社での事案に対する上場会社である親会社のものです。
*この事例では、背景・原因の項に、内部監査は登場しません。しかし、次の「是正に向けた当社の対応」項には、手厳しい内容の記載があります。
背景・原因の項では内部監査に言及は無いにもかかわらず、是正する項目に「内部監査室監査の実効性のある運用」とあります。推測ですが、当該会社のお考えとしては、内部監査で見つけてもらうべき事項であり、これは上場していない子会社とはいえ、上場会社と同様のレベルで監査を実施すべきあるので、内部監査室監査の実効性ある運用を求める、ということかと思います。
なお、この「内部監査室監査の実効性のある運用」について、上場会社によってはいくつかのケースがあります。
子会社への業務監査を、親会社内部監査が実施するケース
子会社に内部監査室があり、親会社内部監査が子会社内部監査と連携して内部監査を実施するケース
子会社の監査役と親会社内部監査が連携して業務監査を実施するケース
いろいろ会社のお考えや状況が違いますので、それぞれのケースによって、この「実効性のある運用」の体制構築内容が変わってきます。これらの「どれが最良」というものではありません。まさに、それぞれの会社のお考え(ポリシー)や状況によって、会社が「最適解」を見つけるしかありません。
このように事例を見ますと、このような不祥事等が発生した際(発生事実)に内部監査が取り上げられるのか、がお分かりになるかと思います。
そうです!
普段の業務(監査業務)において、内部監査は重い責任を負っているのです。そのため、不祥事が起こった場合の適時開示の内容に、槍玉に挙がるもののひとつとして、内部監査が挙げられるのです。
なお、今回の参考資料である開示検査事例集には無いのですが、ごく稀なケースとして、内部監査による業務監査によって不祥事を検出して適時開示となった事例があったと記憶しています。ただしこの場合においても、是正対応策に、人員増員、レポートラインの変更など「内部監査の業務体制の強化」等が挙げられるのです。
(*ここでは、その上場会社は良い意味で「強化」を記載していると考えますが、適時開示にはその詳細が書かれているわけではないので、読み手としては芳しくない印象が残るかもしれません。)
内部監査の " 飽くなき戦い " は続きます。
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