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Starting Out: Grand Archive TCG Vol. 26 - 禁止改定について

いわゆるソシャゲとTCGは、基本的にビジネスモデルからそのゲーム環境規定の基本ロジックまで含めてかなり似ているのですが、その最も大きな相違点といってもいいかもしれないものが、TCG側にある禁止改定です。
ソシャゲならマスターデータ等をいじってバランスを変えることができますが、印刷物であるTCGではそうもいきません。
したがって、一度印刷してしまったカードで構成される環境を(公式が考える)適正な環境とするための方法として、多くのTCGでは禁止/制限改定というものを用いて行うことがほとんどです。

Grand Archiveも、前々回紹介のProxia's Vaultという仕組みを使っても制御しきれない部分があり、他のゲームの例に漏れず禁止改定の制度を採用しています。
が。
このゲーム、禁止改定も"なんかヘン"なんです!
もちろん、ここでいうヘンは誉め言葉。
そのヘンな禁止改定、解説します。

禁止改定の大枠

Grand Archiveの禁止改定は、だいたい以下の感じで制定されます。

  • 1ヶ月~2ヶ月程度の周期で更新(タイミングとしては、ReginalやAscent等の国際大型大会後で実施)

  • 公式サイトに記事という形で発表される

  • 禁止改定の記事で、同時にProxia's Vaultの更新も(ある場合は)発表される

  • 改定内容は公開と同時に即時有効

  • 次回の改定更新日が予告される

まあ、ここまでは他のゲームとあんまり変わらないですね。
せいぜい、常に即時適用というのがちょっと珍しいことと、以前書いたProxia's Vaultなる存在があるくらいかと。
あと、禁止/制限というページではなく、いわゆるお知らせ記事のみで処理している、というのは珍しいかも、くらい。

実際の禁止改定記事

というわけで、実際の禁止改定記事を見ていきましょう。

↑は、本記事執筆時点の最新記事です。
で、↓はその冒頭スクリーンショットです。

記事冒頭は毎回こんな感じ。

毎回こんな感じで、SummaryセクションにEffective Date(有効日)とNext B&R(次回禁止改定日)が記載されています。
で、その後今回の変更内容の要点が書かれて、禁止カード一覧へのリンクが張られます。
では、今回の内容を見てみましょう。

Creative Shock is removed from the watch list. Corhazi Outlook moves to Category 2. Stonescale Band receives an errata in Proxia's Vault and is put into Category 1. The prior version of Stonescale Band will not be allowed in tournament play.
拙訳:Creative Shockはwatch listから除外されます。Corhazi OutlookはCategory 2に移動します。Stonescale BandはProxia's Vaultとしてエラッタを受け、Category 1に追加されます。旧バージョンのStonescale Bandはトーナメントプレイにて許可されません。

https://www.gatcg.com/article/ban-and-restricted-update-august-5th-2024

……
…………
Categoryとかいう、今まで一連の記事で見慣れないテキストが登場しました
いったんおいておくとして、今回の内容は以下の通り。

  • Creative Shockはwatch listから除外

  • Corhazi OutlookはCategory 2に移動

  • Stonescale Bandはテキストエラッタの上Category 1に追加

  • エラッタ前のStonescale Bandは失効(使用不可)

……うん。
やっぱり"Category"というワードをちゃんと見ないと何もわかりませんね。
ということで、ここからがこの記事の本題です。

Categoryという仕組み

このゲームの禁止/制限は、Categoryという表現の仕方をしています。
先にとてもざっくりと結論だけ書くと、実際に禁止/制限が適用されるのはCategory 3のみです(そして、現状いわゆる"制限"という状態のカードはありません)。
Category 1と2は特に禁止や制限には影響を与えないものの、Ban & Restrictionの更新で発表されています。

……
…………
………………え?
「それならCategory 1と2っていらない」って?
そんなことはありません。
この仕組み自体こそ、このゲームの特徴のひとつとも言えます

Categoryそれぞれの定義を確認しましょう。
まずはCategory 3から。

This category will contain all cards that are banned and restricted, proving to be too powerful or too impactful and limiting tournament deck diversity and meta health.
拙訳:このカテゴリーは、強力すぎ/影響が大きすぎてトーナメントデッキの多様性とメタの健全性を損ねていると証明された、全ての禁止/制限されるカードを含みます。

原文はhttps://www.gatcg.com/article/ban-and-restricted-update-august-5th-2024

この文言から、公式が「トーナメントデッキの多様性とメタの健全性」を大事にしていることがわかります。
当たり前に感じるかもしれませんが、ちゃんと基準が示されているということは大きなポイントです。
また、その多様性と健全性の主たる影響要素は、カードパワーと影響力であることも明言されています。

次に、Category 2。

This category contains cards that we consider very problematic and are heavily watched for potential future legality changes and category shifts.
拙訳:このカテゴリーは、我々が大いに問題があると考えており、将来の禁止改定とカテゴリー変更に向けて特に注視しているカードを含みます。

原文はhttps://www.gatcg.com/article/ban-and-restricted-update-august-5th-2024

このゲームの禁止/制限において特徴的なのは、このカテゴリーの存在こそ最大のものでしょう。
カテゴリーの定義を言い換えれば、「これらのカードは禁止が秒読みなくらいに問題があると考えているので、皆様いつ禁止されても仕方ないという覚悟の上で遊んで/取り扱ってください」という意思表示です。
プレイヤーからすれば、次にいつ改定されるかもわかっていて、何が禁止されそうかもわかっている状態でプレイできるので、「今使っているこのカード、禁止されたらどうしよう……」といった不安をかなりの程度払拭してくれます。
禁止改定前に使っているデッキの根幹をなすカードであるなら、もし禁止されたら何を代わりに入れて大会にもっていこうか、ということを事前に考えることもできます。
まだ組み始めていないデッキのパーツであれば、そのカードを買うかどうか、それを含むデッキをこれから組むかどうかを検討する材料ともできます。

最後はCategory 1。

This category consists of cards that we don’t consider problematic in the current environment, but are unhealthy for future balance and game design space.
拙訳:このカテゴリーは、現時点で特別問題だと考えてはいないが、将来のバランスやゲームのデザインスペースとして不健全となる要素をもつと考えているカードが含まれます。

原文はhttps://www.gatcg.com/article/ban-and-restricted-update-august-5th-2024

このカテゴリーは、まさに開発との対話が実現しているカテゴリーともいえ、私はこのカテゴリーの存在そのものが一番好きです。
開発が現在何を問題視しているかを明言してくれているため、次にどのようなカードが開発されそうか、あるいは問題になりそうだと考えている効果やデザインは何か、ということを推測できます。
したがって、将来的にこのゲームがどのような遊びに至るかを間接的に説明していると言えます。
ゲームの、特に遊び部分の、面白さが何であるかを定義し言語化することは、ゲームの開発において最重要な要素です。
市場にそれを公言する必要性はありませんが、それでもそれが明らかであるなら明らかであるほど、ユーザからすれば公式が何を楽しんでもらいたいのかわかり、すなわちこのゲームが自分にとってほしいと思っている体験なのかどうかを判断しやすくなるといえます。
特に日本には数百のTCGが跋扈していて、全てのトーナメントプレイのレベルでやるのは不可能です(全て最低限さわるのすらかなりしんどいって思いながらさわってるんじゃないでしょうか、皆様)。
限りあるリソースを、無駄なくやりたい娯楽に投入できるその下地こそ、面白さの言語化に他なりません。
もちろん、(開発として)提供したい面白さを一言、1文で全て表すのは無理があります。
それでも、数百枚~千枚をこえるカードから禁止にしないまでも何が問題かを宣言することは、その面白さの言語化を最大限助ける開発とユーザのコミュニケーションといえるのではないでしょうか。

……
…………
演説はこのへんにして、制度としてのBan & Restriction(禁止改定)をまとめます。
これらの3つのCategoryをまとめて、"Watch list"という表現で禁止/制限を発表するのが、Grand Archive流の禁止改定です。
突拍子もない禁止が出てカード資産価値がいきなり消える、ということを予防している仕組みでもあるので、ユーザにとってなかなかうれしくて面白い仕組み、じゃないですか??

現在の禁止カードについて

せっかくなので、現在の禁止カードを紹介します。
本記事公開時点(2024年8月)で、(最初からドラフト用にデザインされた2枚と)3枚の禁止カード(Category 3のカード)があります
その3枚を紹介します。
画像はあいかわらずのhttps://www.shoutatyourdecks.com からのスクリーンショットです。

スターターに入ってる禁止カード。Raiスターターを1回使えば、その異常な強さがわかるはず。

現時点で最後にCategory 3に追加されたカードです(といっても、Category 3にカード追加されたこと3回しかないんですけど)。
2024年2月16日に禁止されました。

Crystal of Empowerment has been a mainstay in the competitive meta persistently. While the intention was to provide a cog in the strategy of level manipulation primarily for Mage and Cleric, it has proved to affect the game in more facets than intended, warping the tempo of the game. It limits design in other classes where it should be much harder to modulate levels compared to Mage and Cleric. However, an additional reason to ban it now rather than later, is that Crystal has been overperforming in the current meta even when used for its intended purpose.
拙訳:Crystal of Empowermentは現在のトーナメントシーンでメタの主力に居続けています。開発の意図としては主にMageとClericを対象にレベルを操作する戦略の歯車となるカードを提供することでしたが、意図している以上の部分でゲームに影響を与え、ゲームのテンポを歪めていることが示されてきました。MageやCleric以外のClassではlevel操作は非常に難しく、そういったClassのデザインを困難にします。また、他でもない今禁止するべきという追加的な理由は、Crystalが意図通りの用途であっても現在のメタで意図以上のパフォーマンスを出しているためです。

https://www.gatcg.com/article/ban-and-restricted-announcement-february-16th-2024

端的にいって、他にレベルを上げるカードはないという前提で、MerlinがIncarnate Majestyをプレイするために正味10ターンかけてレベル12を目指すところを、8ターンでOKにしているカードだったわけです。
ちなみに、Tome of Knowledge等の(コストを払った上で)レベルを上げるカードがあるため、そもそももっとはやくレベル(というか軽減可能コスト)は12に到達します。
しかもその状態で、Fireballは1+レベルでダメージを与えるため、相手の手札が2枚ならBauble of Abundanceといった相手にもドローさせるカードをも殺すカードになっています。
まあ、これだけでも当然かな、という禁止理由だと思います。

なお、このゲームの禁止について、現状スターターそのままならOK、といった制約の仕方はしていません。
そのため、スターターでOrganized Play(レーティング戦等)に出る場合、Raiのスターターだけは使用不可になるのでご注意ください

Cruxだからダメ、って言われたカード。単体だと禁止するほどか、と思いたくなるっちゃなる。

残りの2枚は同時に禁止収録です。
2023年10月16日に追加されました。

Sword of Avarice has been part of the two-card linchpin of almost every competitive Crux deck, providing a large degree of card advantage when combined with Ascensions. In turn, this enables very explosive turns that typically take longer to finish as well as making some "feels bad" experiences for the opponents. The overall effect can't be done without having both Ascension and Sword of Avarice. Between the two, we believe removing Ascension would have too many side effect for Crux decks compared to just removing Sword of Avarice. In addition, the power level of Sword of Avarice pushes the limits of how much power we want Regalia cards to have, which currently limits the design space of flicker type effects such as Ascension and Zephyr.
拙訳:Sword of Avariceは2枚一組の片割れとして、ほとんどすべてのCruxのデッキに搭載され、Ascensionsと一緒に使った際大きなカードアドバンテージを提供していました。これにより、通常なら完了までにかなり時間がかかる爆発的なターンを可能にすると同時に、相手に"不快"な経験を作っています。この効果は、AscensionsとSword of Avariceの双方がそろって初めて実行可能なものです。それら2枚のうち、Ascensionを除外するのは、単にSword of Avariceを除外するよりもCruxデッキへの副作用が多すぎると想定しています。また、Sword of AvariceのパワーレベルはRegaliaに求めるパワーレベルの限界を突き付けており、それにより現時点で、AscensionやZephyrのような、いわゆるブリンクするタイプの効果のデザイン領域を狭めています。

https://www.gatcg.com/article/ban-and-restricted-update-october-16th-2023b

ここで言及されるAscension(s)というのは、

これも単体でなかなかヤってる1枚。でもこれは禁止watch listにはいません

のことで、AscensionでAvariceを場に出すと、コストを支払わずに着地させて2ドロー、というコンボです。
手札2枚+任意のSword regaliaだけで完成するコンボで、もちろんただ単純に破格の低コスト爆発ドローソース扱いです。
手札が多い=それだけ大きく多く立ち回れるこのゲームで、ドローソースの開発は慎重にならなきゃいけないところで、ただ単純に引きすぎです。
Creative Shockですら2枚引いて1枚捨てる(またはFloating Memoryを捨てるから実質デメリットなしで、Classにより2点のおまけつき)ために3コスト払うのに、ただ2枚引くだけで事実上1コストはまあだめだよね、というところ。

でも、Banの説明にある通り、Ascension、いわゆるブリンクのカードは生き残らせたというところが公式の意思表示です。
こういったデザインを殺さないために、この凶悪コンボの実現時の問題になる主要因のみがBanで、もう一方はCategory 1にも追加なし、というのは楽しい判断でしょう。

「2枚memoryに引いて4枚除外のSlowが問題なのなんで?」って一瞬思うんだけど、次の行見ながらよく考えたら、当然だめでした。

最後の1枚は、Avariceと一緒に禁止されました。

Reckless Conversion has a similar function and effect for Arcane decks that result in explosive turns that take a while to complete while making opponents feel bad. We felt we could not dismantle the Sword of Avarice and Ascension engine without also touching Reckless Conversion since they are analogous across the advanced elements. For this reason, Reckless Conversion is also being banned.
拙訳:Reckless Conversionは、(Sword of Avariceと)同様の機能と効果をArcaneデッキに提供しており、結果相手を不快にする完了まで時間のかかる爆発的なターンをもたらします。私たちは、上級色全体で類似しているため、Reckless Conversionに触れずにSword of AvariceとAscensionとによるエンジンを解体することはできないと感じました。これにより、Reckless Conversionについても禁止されます。

https://www.gatcg.com/article/ban-and-restricted-update-october-16th-2023b

ArcaneをLv3から使うことになるRaiって、このカードなしのWaterでも8ターン目くらいに「Influence 15かつレベル15」とかいうことを気軽に実現できるデッキなんですよ。
「Erratic Boltで15点与えて、Peer into Manaでenlightenカウンターを爆発的にためて、enlightenカウンターでドローして、0コストに軽減されたArcane Blastで11点与えて、というだけでほとんどゲームは終わり(ちなみに、FireだとこれにFireballの1+LVダメージも追加)なのに、そこに手札2枚減らすだけでもう1回同じことをやるのがOKですか」という質問、今まさにRaiを使っているその試合のプレイヤー以外、誰もOKとは言わないと思います。
しかも、このカードの効果による追放でRaiのレベルあがる可能性もあるし。

まとめ

本当はwatch listにいるいくつかのカードのlist入り理由も書こうと思ったけど……長くなりすぎるので断念。
でも、Category 1&2として、現在の環境でゲームにとって危険と考えているカードが見える、というのは、とてもよい試みだと思います。
「危険ではなくもうゲームが崩壊しているのだ」というカードがわかっているならそのカードでPremierイベントで(複数人が)結果を出せば禁止へ踏み切らせることができるし、Banの危険があるカードを買いたくない人はCategory 1&2のカードを避けて買ったり組んだりすればよいし。
ちなみに、現行最新弾のMRCでは、Category 1は結構大きく入れ替わりました。
ドローまわりだと、Creative Shock(今回Category 1からリスト外へ)とChalice of Blood(MRCシーズン中にCategory 1入り)との間に危険かどうかのラインがあると考えているようです(あくまで個人的な推測です)。
ということは、AMBで登場するドローソースは、2枚ドローするにはちょっと重たい追加コストがついているものが出てくる可能性があるかも、という予想ができたり、新登場上級色のExiaにはAvarice/Reckless級のドローソースはでないと予想できたりします。

……あくまで予想ですよ?
まだスポイラーもほとんど出てないので……
……
…………
あ、スポイラーが出そろってきたら、注目カードピックアップ、今弾もやります。

ちなみに。
次回の禁止改定は9月2日。
個人的にはCorhazi Outlookがどうなるか、常に支配的な上位使用率にあるSlimeに追加の制限はくるのか、枚数制限なる新しい制限枠が発生しないかに注目しています(予想は全部変更なし)。

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