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黄金期

年金を全部パチンコに使ってしまう83歳の母は、
家事一切をやっている88歳の父に、金をせびり、
父が諌めると、「オレなんか死んでしまえばいいんだ」とふてくされる。
山(飯舘村)育ちの母は自分を「オレ」という。

母は震災後すぐ睡眠薬で自殺未遂している。
枕元に下手くそな遺書があった。
何の感慨もわかないありきたりな遺書。

胃洗浄した市民病院で、今晩またやるかもしれないからと看護婦に言われ、
隣の簡易ベットで一晩過ごした。
外は津波にやられた集落が手付かずだった。

原発が爆発し、30km圏内にいた両親を、ぎりぎりのガソリンで迎えに行くとき、
母は「あとひとつ爆発すれば終わりだから、オレは行がね」と駄々をこねた。
あとひとつとは何号機のことか。

避難していた水戸の妹の家で、「下着買う金ねえんだ」と嘘を言って金をせびり、
パチンコに行っていた母。
パチンコをやっている時だけ、生きている辛さを忘れられるんだという。
最近は認知症がでて、パチンコ屋によく自転車を忘れてくる。
歩いて帰るあいだ一体何を考えているのだろう。

いつだったか「お前は堕ろすはずの子どもだったんだ」と面と向かって言われたことがある。自分に酔った口ぶりだった。
それだけ貧しく子育てが大変だったと言いたいようだった。

母は子供のころ、よく爺さんの引く荷車に乗って開墾場から帰った。
その時遠く西の空に、UFOを見たのだという。
「それからしばらくオレの記憶はねえんだ」
遠くを見るように言う。

夕焼け染まる風景に、
母の黄金期が見つかればいいのに。
そのとき母の生が、
祝福されればいいのに。

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