草刈する男
空き地で草刈しているどこかのオジさんが、うおうお声を出している。
エンジン音に紛らせて、自分の世界に入っているのか、地声を震わせ、能の謡のようだ。
ときおりエンジンを止めては、水を飲み、クルマの陰で小便をしている。
空き地は一反歩ほどある。
外周から右回りに周って、しだいに内周を攻めている。
何かの道行のようだ。
刈り取って薙ぎ倒された草の上を、ふとキジが横切った。
とっと、とっととキジは走り抜ける。
オジさんは気付かない。
うおうお声を出しながら、ずっと何かと闘っている。