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tsunami

 丘の上から遠く凪いだ海を見ている。沖に船が浮かんでいる。日差しは暖かだ。丘の下にはのどかな農村が広がっている。小川で婆ちゃんが野菜を洗っている。爺ちゃんは野良仕事。ゆっくり鍬をふるっている。と、空と繋がった水平線あたりに雪山が出来る。雪山はどんどん大きくなる。沖に浮かんだ船を飲み込む。船長さんたちが叫んでいる。波を透かして無人島が見える。無人島にはバナナがいっぱいなっている。他にも果実がたくさん実っているけれど、バナナしか名前を知らない。猿がうれしそうに喰っている。船からは大急ぎで乗客が逃げている。立った波は水族館のようにきれいに魚たちを見せている。ウミガメが気持よく横切る。タコやイカは透き通って自在だ。そのまま船を飲み込んで雪山はますます高くなる。空がカーンと青い。波頭によっちゃんが笑って乗っている。よっちゃーん。自転車はもう乗れるようになったかい。よっちゃんは右目が不具だ。緑色をして何も見ていない。よっちゃんが近づく。よっちゃんは二年生の時バイクにひかれて死んだ。買って貰ったばかりの自転車を練習していて、死角の右側から飛び出した「陸王」にはねられひかれた。雪山は浜に迫る。浜は山に吸い上げられて遠くまで干上がっている。蟹が腕を振る。砂穴から這い出し、あとからあとから出てくる。防波堤に寝そべった猫が興味なさそうにそれを眺めている。猫に魚たちが迫る。猫は片耳ひとつ動かさない。野の爺は菜の花に囲まれて幸せそうだ。いつか生まれていつか死ぬ。そうして季節や日々が移ろうことが腑に落ちる。掘り取った土の香に誘われたヒキガエルが、のそのそ爺の影を踏んでゆく。婆は小川の水が温んだのが嬉しい。娘のような気持だ。蝶が婆のまわりを舞っている。一匹はさっき羽化したばかりだ。津波は蟹も猫も爺も婆もヒキガエルも、そして羽化したばかりの蝶も飲み込んできみに迫ってくる。空がカーン!  

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