栗花落
「今日は部屋の掃除をしようと思っていたのになぁ」
しとしと ぴちゃん
だるい体、心音と雨音
体温計は37度、微熱
少し肌寒い部屋、体温を蓄積した布団を剥いで
ぐらつきながら起き上がると、軋む体とベッド
ピントの合わない目をこすり、カーテンを少し開ける
二日目のグレーのパーカーは、鉛色の空を取り込んだようだ
同期する鼓動と秒針。
冷蔵庫をあけ、ボトルの水を飲み
引力に逆らわずソファに体をあずけると
「情けない人ね」
と、あの子の声が聞こえた気がする。
四畳半の城は僕を守る
弱音と共に吐いた紫煙が部屋を満たす頃
夕日が差し込む、すでに飽和寸前の部屋
換気扇をまわし、リモコンを手にとる
電源を入れたテレビはいつも同じチャンネル
「そう、ただの微熱さ」
擡げた首を戻し、瞼を閉じる
「私、栗の花の香りって苦手なの」
またあの子の声だ。
つけっぱなしのテレビ
路上の若い娘は傘を差す
小柄なキャスターの横
天気予報士は梅雨入りをつげる。
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