封印されたもの
音楽を聴くと、いろいろなことが溢れ出す。
よく聴いていたのに、すっかり聴かなくなったバンドの曲を久しぶりに聴きながら歩いた。最初のうちは『あ、懐かしいな』と思ったけれど、そのうち感情が暴れ出した。忘れていた強い感情がよみがえってきた。
8年くらい前にも通勤時に聴いていたのだ。このバンドの曲を。とても辛い時期だった。自宅を出て会社に少しずつ近づくにつれ涙が勝手に出てくる。そんなときに、ずっと聴いていた曲。
聴いているうちに涙が溢れた。私は知らず知らずのうちに避けていた。あの頃のことを。もう大丈夫、と思っていたけれど、なかったことにしていただけだった。
そのことに気づいて、動揺した。
『聴かなくなったのは、あまり魅力を感じなくなったから』と思っていたけれど、それは違っていた。私が私とともに封印しただけだった。
日々の暮らしは、音楽とともにある。子どもの頃からそうだった。ずっと何かを聴いたり、演奏していた。けれど時々、思い出せない、思い出したくないものがある。そこに、何かがある。
『もうすっかり大丈夫 私は強くなった』と思っていたけれど、目を逸らしていただけだったことに気がついた。
音楽は、私を包み込む。しばらく聴かなかったものでも、聴けば、聴いていたあの頃に連れ去ってしまう。何でこんなに一瞬で全てを思い出してしまうのか。
幼少時、レコードやカセットテープで聴いた童謡。大好きだったドラマやアニメの主題歌。初めて好きになったアイドルのシングルレコード。夢中になって聴き続けたバンドのアルバム。音楽に触れると、その当時が丸ごとよみがえる。それが辛いときもある。
と、言いながら、今も音楽を聴いている。
ああ、やっぱり音楽が好きだ。グッと私に迫ってくる。だから記憶と強く紐付けられるのだろう。
封印された私の存在を思い出すきっかけとなったのは、あの頃聴いていた曲。あの頃の涙は辛い涙だったけれど今日の涙は違う。今の私があの頃の私の存在を認め、溢れ出た涙だ。
まだ他にも心当たりがある。置き去りにしてきたものを、音楽の力を借りれば、取り戻せるような気がする。
あったことをなかったことにするのは、あんまりだ。大好きだったものを帳消しにして、避けて過ごすのはもうやめよう。
そんなことに気づけた一日だった。