GM Chef PKの話はやくして(Ultima Online, 1998年)
ask.fmのこの記事を加筆修正したもの。
SkRiLlA KiNgというPKがいた。名前は強引に訳せば「銭大王」ぐらいの意味だと思う。大文字と小文字をまぜこぜにする、こういう綴りの名前の奴はたいていPKで、彼もまたそうだった。
彼は常にGM Chef(グランドマスター・シェフ、料理のスキルが最高値の100を記録している称号)であり続けたPKだった。鉄仮面に薄汚いグレーのエプロン、真っ赤なロングスカートのいでたち、両手に魔法のハルバードを握り締めて獲物の前に現れる。そして地面に手作りのパンを置きこう言うのだ。「お前は俺に見つかった。この毒入りパンを食べて死ぬか、俺のハルバードに殴られて死ぬか選べ」当時のUOはしゃべるPKが大変多かった。奴らはきちんと悪党のロールプレイを行って、犠牲者に自分をアピールし、そして絶対ターゲットを殺す。
さて話をSkRiLlA KiNgに戻す。彼の"統計"では、多くの者は戦って死ぬことを選ぶのだそうだ。次に多いのが逃げようとする者。彼はGM Chefを趣味で維持してはいたが、れっきとした魔法戦士として仕上がっていたから、どちらを選んでも狙われた者は遅かれ早かれ死んだ。毒入りパンを食べて自害する人は少なかったそうだ。
ほんとうに1998年だったか自信がない。Deadly Poisonが実装された、もしくはもともとあったDeadly Poisonの威力が大幅に引き上げられた直後に奴は大活躍したと記憶している。
ある日、わたしも彼についに出くわしてしまった。「なんでこんなところにいる?」とか、「もっとリッチな人を狙ったら?」などと問いかけたが、たいした時間稼ぎにはならなかった。「お前どうする?」と聞かれたので、わたしはパンを拾い上げた。そしてちょうど通りがかった知らない人に「パンどうぞ」とプレゼントした。その人は喜んでその場で食べて、すぐ死んだ。
SkRiLlA KiNgはこれに大笑いして、「お前やるなあ。特別待遇をしなくちゃならん」と言った。次に目の前にトレードウィンドウが開いた。「地面に置いたパンなんていやだよな。ほら、手渡しだ。食って死ね」
逃げ場はなかった。食べた直後に死んだ。彼は大喜びしながら見知らぬ犠牲者とわたしの体をナイフでちょんちょんと手早くばらし(※)、首を股間に、手足は二人のものをごちゃ混ぜにしてX字に置いて遊んで帰って行った。胃だけは「記念に持って帰るわ」と戦利品と一緒にかばんにしまっていた。
(※ ダブルクリックして死体のインベントリ=棺桶を開くより、死体に刃物を使って傷つける方が戦利品の獲得が早かった。損傷した死体はコンテナの機能を失い、中に入っていた物、つまり犠牲者の持ち物は地面に露出する)