小説家になりたかった女の伏線回収
書くことを仕事にしたいと初めに思ったのは、高校生
の頃だ。
当時、単純に本が好きで、出版社に勤めることが憧れだったけれど、父親が何千万円かの借金と書き置きを残してトンズラするという、しょうもない出来事が起こるような家庭に育ったので、自分が大学に行けるという考えがまるでなかった。
(借金を悪のように思っていて、大学に行くために金を借りることすらまっぴらごめんだと思っていたのだ)
出版社に勤めて本を作るのは憧れだったけど、私の現状では無理だろう。
それじゃあ、本に関する仕事…なんだったら出来るかなあ? なんて考えて、小説家という考えに行き着いたんだと思う。
お金を持ってなくてもなれそうだから、という安直な理由で。
そんなわけで、10代のうちに一度、小説の公募に応募をした。
けれど、特にいい結果が出るわけもなく、当時流行っていた自費出版の営業メールが届いた。
ただの落選より、自費出版の営業対象者にされたのが、その頃の幼い心になんだかグサッと刺さった。
はあ、無理か…とあっさり諦めた私は、二十歳を過ぎると、今度はシナリオライターのスクールに通うと理由で上京することになった。
上京の資金は祖父母に理由を話し、40万円ほどを出してもらった。
けれど、初めての慣れない東京。ほぼ無計画な上京。派遣の仕事を探し、うまくいったり、いかなかったりしている間に、資金は生活費の支払いですぐに無くなり、スクールの授業料を払う分すらも足りなくなった。
それで、結局シナリオライターのスクールには通わず、東京で知り合った人に誘われて、ラジオ番組の制作の仕事をすることになった。
◯木賞作家さんや名の通った役者さんなどとも仕事をし、現場で使われる生のシナリオも見られたし、シナリオを使った実際の作品作りに携われたので、自分としてはこの方向に流れてよかったんじゃないかなと、今でも思っている。
ただその仕事は、十分な生活をするには給料が安かった。いつも手持ちのお金はギリギリ。
なにかいい副業はないかと求人情報を検索していた私は、ライターのアルバイトを見つけた。
『学歴不問・未経験可』
と、条件のハードルがめちゃくちゃに低い。
その上、具体的な仕事内容が全くわからなかった。
が、やっぱり書く仕事やってみたいと思った私は、どきどきしながらそれに応募した。
場所はどこだったかな、あれ。
たしか代々木あたりの住宅地が事務所の所在地だった。地図を頼りにたどり着いたのは、少し風変わりなデザインのアパートの一室。
インターホンを鳴らし、「面接に来ました」と言えば、中から男の人が出てきた。
スッとした、物静かな文系ですという雰囲気の男性だった。
「ああ、どうぞ」
通されたのは青いカーペットが敷き詰められたワンルームだった。ロッカーと事務机が2台置かれただけのシンプルな部屋だった。
椅子を勧められて座る。
すると男の人が言った。
「仕事はライターなんだけど、書く内容が成人向けなのは大丈夫?」
「はい?」
はて、成人向けとは?
と首を傾げていると、男の人はロッカーから具体的な本を持ってきてくれた。
「コンビニとかに並んでるの見たことあるかもしれないけど。こんなの」
官能小説だった。
この部屋で、官能小説の内容を書いて、この人にチェックしてもらうとかいうような仕事の流れになるのだろうか……?
うん、無理だ。
「すみません、大丈夫じゃないです」
「だよね。じゃあ、来てもらって申し訳ないけど」
面接が無駄足になってトボトボと帰りながら、(最初から求人内容に書いておけよ!大事だろ!そこんところ!)と思った。
大手求人サイトの規定云々で、アダルトな内容では通らないから黙っておくのだろうし(知らんけど)、こういう内容の詳細がわからない求人に応募してくる人の中には、案外さらっと官能小説を書くということに対応できちゃう人もいるのかもしれない。
けれど、それができなかった私は、(はあ〜、電車代もったいなかったなあ)と、ただひたすらガッカリした。
それが、書くことを仕事にしたいなと思って私が行動した、最後だったと思う。
さて、それから約15年。今に至る。
今の私は趣味で小説を書いていて、個人販売までしている。内容は成人向け描写を主とした18禁作品も多数ある。
出版社勤務も小説家もライターも叶わなかった。
けれど、小説は書いているし、それを人に売ってもいる。
当時は無理だとお断りした成人向け小説を、今では「私、割と得意かも」なんて言いながら書いている始末だ。
自分の人生の伏線の回収でもしてるのか?
と、過去と今に思い馳せると、ケラケラ笑いが込み上げてしまうのだった。