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かたくるしくない教訓書(『十訓抄』の話)

『十訓抄』という古典をご存じでしょうか。
「じっきんしょう」もしくは「じっくんしょう」などと読む、鎌倉時代に書かれた古典です。

内容については、私が高校時代に使用していた国語便覧には「少年たちに善を進め悪を戒めるため、十箇条の主題に従って内外の多くの文献から、約280の教訓的例話を採録している」(『新修国語総覧 新版』京都書房)などと書かれていて、お世辞にもとっつきやすくはなさそうに思えます。

実際わたしも「堅苦しい内容の教訓や、坊さんの出家・成仏話ばかりの本なのかな」と思っていて、これまで手に取ることがありませんでした。
が、最近読んだ『今鏡』に『十訓抄』と重複する内容が多いことを知り、今鏡はふつうの歴史物語であるため、『十訓抄』も案外気軽に読める内容なのかなと思って、『今鏡』読了後に早速挑戦してみました。

まだ読了してないのですが、途中まで読んだ感想は「収録されているエピソードが多彩! 教訓書なのにあまり教訓くさくない! 面白い!」です。
下ネタに近いような話も収録されているし、歌物語的な説話も興味深い。
ちなみに歌物語的な部分については、歌論書として知られる『袋草紙』からとられた説話も多いそう。
『十訓抄』の次に読みたい古典作品も、早速決まってしまいました。

さて、せっかくなのでこれまでに読んだ『十訓抄』の内容から2つほど、気になったエピソードを漫画化してみました。

『十訓抄』一の十三より

こちらは『十訓抄』一の十三に収録されているお話。
登場する帝が、ジブリの『かぐや姫の物語』に登場するあの御門をめちゃくちゃ連想させる人物だったので、絵で遊んでしまいました。ごめんなさい。
『十訓抄』の巻一は「人に恵(めぐみ)を施すべき事」と題されていますが、このお話はどちらかというと、帝の準備の良さ、そのやり方の優雅さをほめたたえることに主眼を置かれている模様。
でも優雅かこれ…と突っ込まずにはいられない。

「わたくしがこうすることで…」のセリフはもちろん原典にはありませんが、帝の強引な行為の数々は全部原典どおり。
大量のクシを懐から出して、燃やして灯の代わりにしたというのも原典に出ているエピソードです。
発想についても感覚についても、現代とはまったく違っていて、そういう点もまた楽しいお話です。

続いて『十訓抄』五ノ六に収録されているお話。

『十訓抄』五ノ六より

『十訓抄』巻五のテーマは「朋友を選ぶべき事」。
ここで取り上げた作品も友情の美しさを語ったものなのでしょうが、こちらも現代の目で見ると、どう見てもストーカー(笑)。
でも相手に直接的な迷惑はかけていないので、比較的節度のあるほうのストーカーになるのでしょうか。

最初に取り上げた話の帝や女性が誰なのかは書かれていませんが、こちらのお話の忠親や成頼は実在の人物です。
忠親は、中山(藤原)忠親。『山塊記』という日記を残したことで知られます。
また、成頼は藤原(葉室)成頼。
『十訓抄』に書かれている通り若くして出家しましたが、『平家物語』巻三の十四「城南の離宮の事」では、彼が出家した事情にも軽く触れられています。
要は平家が幅を利かせた世の中が嫌になったということらしいですが、マンガの2コマ目に手書きした成頼のセリフは、『平家物語』に出てくるものです。

『十訓抄』掲載の説話はごく短いものが多く、すらすら読めるうえ、面白いエピソードが多いです。
現時点でほかにもいくつか、マンガにしたいし、しやすそう、という説話がありますので、また追々こちらでもご紹介していきたいと思います。

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