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信頼か無関心か

アイルランドは安全な国だ。
よく海外旅行をする人はどこの国が危険だとか、観光地ではスリが多いだとか、露店ではぼったくりされるというような話をする。
でも日本で囁かれているヨーロッパのイメージとは裏腹に、少なくともわたしが暮らすゴールウェイは日本と同等か、もしかしたらそれ以上に治安の良い場所だと感じる。
街の中心部を夜に一人で歩くことを危険だとは思わないし、午前3時など深夜か早朝なのかわからないような時間に1時間ほど歩いたことが何度もあるが、一度も怖い思いをしたことがない。
もちろんこれは個人の体験で、悪い人は必ずいるはずだから100%鵜呑みにはしてほしくないので、"比較的"安全だと言い直しておく。


パブ(バー)で酒を注文、先に渡すのは金か酒か

「キャッシュオンデリバリー」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
イギリスやアイルランド独特の文化で、パブ(バー)のカウンターで酒を注文したらその場で代金を支払い、酒を受け取って適当な席を見つけて座る(アイルランドの場合は結局パブ内の人が多すぎたり、多くの人と話しやすいように立ちっぱなしの人が多い)。
伝票をつけて最後に支払いではないので、自由に机を移動したり、テラス席に動いたりしても店員は困ることがない。また食い逃げならぬ飲み逃げのようなことも心配ない。人がごった返すアイルランドのパブにはぴったりのシステムだと思う。

でも、わたしはこのシステムの中に不安を見つけた。
アイルランドのパブでは商品(=酒)を客に渡してからお金のやり取りをする。夏祭りの出店のように商品と代金のやり取りがほぼ同時ならまだしも、酒をカウンターに置いてから客に背を向けてスクリーンを操作し、合計金額を確認してカード用の機械を操作するような無防備さが目立つ。
もちろんこんなことはしないが、バーテンダーがスクリーンやカードマシーンを操作している間に酒を盗むことは容易だと思う。
わたしはカナダのバーで働いていた経験があるのだが、正直このやり方はカナダ(特に都市部)では成り立たないと思った。

どうやら酒を先に渡してから代金を受け取るのはこの国のルールなようで、知らなかったわたしは一度、客に文句を言われた嫌な思い出がある。
その客は一杯目をカードで支払い、二杯目のギネスビールの注文をした際もカードを目の前のカウンターに置いていた。ギネスビールは2度に分けて注ぐ特殊なビールで、一度ビールを注いだらしばらく待ってから2度目を注ぐ。そのため、1度目のビールをグラスに入れて「あなたのビールを準備中ですよ」ということをアピールするとともに、その待ち時間に代金を貰おうとカードマシーンを渡した。そこで「酒を先に渡せ」と嫌味ったらしく言われたわけだ。
まあ、その客は不機嫌な老人で、そもそもカウンターに来た時点で不機嫌だったので、不満の原因は別にあったのかもしれないけれど。

スーパーで買い物、自分のカバンを買い物かごとして使っても良いのか

特に年配の方に多いのだが、スーパーマーケットでの買い物中に商品を持参のエコバックに入れていく。
え、これって万引きに間違われるんじゃないの?
初めて目撃した時は思わず二度見してしまった。こんな堂々と万引きする人はなかなかいないだろうが、それでもレジを通過していない商品を持参のカバンに入れるのはいかがなものか。
しかし、何度もスーパーに行くうちに、この場所では"普通のこと"なのだと知った。誰も咎める人はいない。

払ったつもりだったのか、食事の後はそのまま退店

先ほど説明したキャッシュオンデリバリーは飲み屋だけの話で、レストランやカフェは基本的に伝票つけていって最後に会計というシステム。だけれど、代金を支払わずに退店していく人をごまんとみた。これも特に年配の方に多い。
その度に店側も「またかよ〜」くらいな感じで終わり。
え、それだけでいいんですか?
€30ほどの食事の後にトイレに行くことをスタッフに伝えて、そのまま戻って来なかった人もいた。
これがもし日本だったら警察沙汰だと思うのだけど。立派な食い逃げだし、監視カメラもあるわけだし。そもそも代金を支払わずに商品だけ取っていったって、万引きと変わらないと思うのだけど。
たまに本当に忘れていたような様子の人がいて、しっかり挨拶して堂々と退店していったり、出口直前で気がついて引き返してきたり。
故意的だとしてもそうでなくても、どちらにせよ日本の飲食店ではこんな客たち滅多にいないけどな…(笑)

鍵のない荷物置き場

今までにゴールウェイの飲食店計4箇所で働いて、3箇所はスタッフエリアが完全開放されていた。一応鍵があってもかかっていなかったり、酷いときには鍵穴に鍵が刺さった状態で放置されていた。

ホテル内の飲食施設で働いていた頃、メインキッチンの隣にある休憩室で休憩していたら客が迷い込んできたこともある。わたしがあの場所にいなかったらきっとあの客はもう一つの扉を開けてキッチンに侵入していたと思う。
このときの客はホテル内で迷子になったようで(確かに迷路みたいな建物ではある)帰り道を教えてあげたのだけど、多分あの休憩室の扉は夜中でも鍵なんてしない。
マネージャーたちに客が休憩室に入ってきたことを伝えたのだけど、笑い話になって終わりだった。確かに面白いんだけど、この人たち人を疑うことを知らないのかもって本気で思った出来事だった。


他にもたくさんのエピソードがあるのだけど、一つ一つが濃厚すぎるのでこの辺で。
アイルランド人がそれほど他人を信頼しているのか。信頼しあっているから治安がいいのか、治安がいいから信頼し合っているのか。
ゴールウェイは第三都市といってもアイルランドなので、規模は小さい。大学や仕事のために別の県から引っ越してくるアイルランド人や、外国人も多いのに、どこか田舎の感覚で街が動いているように感じる。

半年以上住んでいて、まだこの感覚の正体がわからない。

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