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秘密の不眠症
昨日までは
喜びをまとった眠りへと誘ってくれる善き友だった夜の光は
今夜突然その性質を豹変させ
瞼を下ろす事を禁じ始めた
夜は私を深みへと落とそうと躍起になる
平均して22時までにはあるはずの夜のメッセージ
待受画面はただただじっとしたまま
川の字が振り下ろされた寝室
窓際と真ん中に父と子が並ぶ
入り口側にたたずむのは
昼間の役割から逃れた深夜の三画目
その縦棒の
寝具との接地面は
深淵へと嵌まる入り口のよう
2時間後には目覚まし時計が鳴る
あなたとのこれまでの日々の中で
時に深夜に 時に明け方に
秘密の着信があった事を経験し
可能性が24時間開かれている事を学習してしまったがために
この闇の助長もあって
もしかしたら起きてるかも
そして
代わり映えのない待受画面を見ては置く動作は執拗に繰り返される
1時間後には目覚ましが鳴るというのに
この裏切り者!
深淵へと突き落とす
そんな夜なら失せてしまえ!
*
やがて闇の色は薄さを増し
白々と遠退いていく
腰の重い微睡みがやっとその半歩を踏み出そうとした時
設定時刻の0時間後
部屋に響き渡る起きろの叫び
ああ
ここから今日という日が始まるのか
裏切り者の夜は明けた
この不眠症は
あなたにしか治せないから
あなたに送ろうSOS
送信ボタンを押そうとしたその時
通知画面に表示されるその名前といつものアイコン
その微細な動きが
胸の内になだれ込んで
深淵から這い上がる力が漲り始める
空が白んできてやっと
ここにあってしかるべきものが戻ってきた
それを噛み締める
言い訳を聞いて恨み言を言うのは
その後だ
川の字の左二本は
未だ 寝息を立てたまま