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日本橋のアートギャラリーを巡って街歩き

東西線で辿り着いた日本橋駅。ここに降り立つのは久しぶりだった。

昔から、この周辺はアートギャラリーが密集しているらしい。古美術、絵画、現代アートまで。2020年には、美しい金魚の展示が好評だったアートアクアリウム美術館が開業しているから、現在に至るまでその土地柄は受け継がれているように思う。

飽き飽きする毎日、うんざりする日々——というほど疲弊してもいないけれど、ちょっと退屈しのぎに外を歩きたくなった。アートが見たい。種類は問わない、何でもいい——
それなら日本橋かな、半日で駅周辺を一周するには丁度いいんじゃない?
それくらいの、ほんのそれくらいの気分転換でカバン一つ背負って飛び出した。

トラディショナルとモダンが交錯する、東京の香り。

まず歩いてみると天宝堂、道路に面したガラスケースから骨董品が覗く。そのまま裏路地あたりを回遊していると、隠れスポットのように看板をちょこんと置いたSPC GALLERYがあった。足を踏み入れれば青い階段、ワクワクする。

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白壁に囲まれた小さなスペースは、異端な造形物がよく映える。じっと作品を眺めていると、誰かの目線に気づいた。初老のオーナーの男性。少しお話ができてよかった、また来たいな。帰り際、おもむろに展示情報の書かれたポストカードやチラシを集めてみる。

高架下、午後16時。空が青い。夏が近い。

この界隈の高層ビルは、窓がキレイだ。大きな窓はピカピカに磨かれて、きちんと縦横そろって整列している。空の狭い東京で、ビル群たちはどうにかして太陽の光を浴びたがっているように見えた。

商業施設の立ち並ぶ賑やかな通りには、西村画廊がある。日本橋高島屋S.C.の6階にある美術画廊では比較的短い会期でさまざまな作品が入れ替わり立ち替わり、展示される。その向かいには不忍画廊、隣にはKSギャラリー

あちこち見渡せば多国籍料理の店が多い。中華、イタリアン、インド&バングラディシュにブラジル料理——お隣、銀座がハイカラ都市として栄えていた影響を受けているよう。大人数の入れる居酒屋が多く、仕事終わりのビジネスパーソンたちがわいわいと訪れる風景が想像できた。

角を曲がれば上原永山堂、茶道具が並ぶ。隣には春風堂画廊の窓。

突き進んで養珠院通り、紫鴻画廊ギャラリーこちゅうきょの入っている建物がある。壺中居、と書いてこちゅうきょと読むなんて、初めて知った。お隣は一番星画廊。1987年に開廊、私が生まれるよりもっと前だ。

田中画廊のある通りを進んでいき、八重洲エリア。もう少し歩けば京橋のアーティゾン美術館も近い。

この辺りまで来れば見覚えのある店構えも多い。コンビニ、一風堂、ドトール。庶民にも入りやすい馴染み深さにどこか安心する。

Sansiao Gallery(サンショウギャラリー)は、白くすっきりとした佇まいで、しゃんと立っている。MASATAKA CONTEMPORARYと地続きになっていて、ここに来れば一度に二つの展示を楽しめるのが嬉しい。受付のチラシを手に取って、展示企画の説明を読む。締めの言葉には「ご来廊くださいませ」。ご来廊。いい言葉だなぁ。ご来場でもご来店でもない、画廊にくること。

階段を一段一段、地下空間へ。思えば小劇場やライブハウスもこんなふうに入っていくことが多い。カルチャーが生まれ育つのはいつだって、アンダーグラウンドなのかなぁ。

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「写真撮影OK」のステッカーを見て、おそるおそるカメラを構える。気に入った作品をパチリ。ファインダー越しの私の世界、だ。違う、これはミラーレス一眼レフだから、ファインダーは付いていない。だから“液晶越しの私の世界”、なんてね。

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『Codino』南花奈 - 2020年

地上に戻ると外気の涼しさを感じた。黄昏。ギャラリー白百合の向かいには日本画廊の入り口が見える。その近接にあるUNPEL GALLERYは、あいおいニッセイ同和損保が自社で所蔵しているコレクションを展示するために作ったのだそう。

最後に、絵画の販売専門画廊のトライアンフギャラリーに立ち寄ってみる。常連らしい男性が高価な絵を買っていた。それとは対照的な、入り口の「どれでも一つ千円」と書いてある箱から手に取った一枚を抱えて待っていると、店主らしいお爺ちゃんが近くに来てくれた。「これはね、カシニョール。有名な絵ですよ。」絵を飾るのに使える金具もサービスでいただいた。ご夫人と思しき方もお見えになって、いそいそと梱包や領収書発行をされていた。「よかったらまた来てください」老夫婦はにこやかに見送ってくれた。素敵な絵だ。どこに飾ろうかな。部屋の風景を頭の中に描いてみる。あそこの壁かな。それか、あの棚の上にしようかな。

ジャン=ピエール・カシニョールの『あじさい』。鉢植えで大輪の花を咲かせる濃いピンク色のあじさいを、美しい横顔の女性が眺めている。花を飾るように絵を飾りたい。そんな思いから、私はこの絵に惹かれたのかもしれない。

もうじき6月だ。梅雨どき、しとしとと降雨。緑色の葉の茂りに、まもなく青やピンクの紫陽花が咲き始めるだろう。そんな折にきっと私は、ケトルでお湯を沸かして甘い紅茶を淹れているにちがいない。

目線のすこし上、季節の花を眺めながら。

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