対話するリーダーシップ #12 名詞といのち
あるグローバル企業のアジア太平洋地域のリーダーシッププログラムを担当することにあたって学んでいることをお伝えしてみたいと思います。学んでいること、そこに関する問いをここで共有することでビジネスパーソンの方々のご参考になったらと思っています。
今回のテーマは「名詞といのち」です。
昨日までの2日間、U理論のGlobal Summitが開かれていました。このPodcastでも第二回に取り上げた、オットー・シャーマーさんのシステムの変容のモデル、その実践をされている方々が世界中から集まる場でした。アジアでは夜遅くの時間帯ではありましたが、全体のセッションでも、U-SchoolというU理論の学校を新たにバリ島に開校されるという予定もあって、インドネシア、オーストラリア、ベトナムの方からのセッションもありました。特にインドネシアの方からは、政変による私有資産の国有化などを経験された後に、U理論に出会い、どのように国の仕組みを変えていくのか、変容を推進する政財界のリーダーを20年近くにわたって育成されてきた方々のお話は、とても感動的でした。皆さんが経験を語ってくださるセッションの前後には、U理論のスタート地点と言ってもよいPresencingという考え方、いまここにあることを感じることの実践のセッションもありました。
その中で、カナダの先住民のルーツを持たれているMelanie Goodchildさんという方が、祖先からの智慧を語ってくださるセッションもありました。その中で、Noun-fication、名詞化という概念を知りました。言語による画一化、生きとし生けるものをどのように言葉にするべきかということを考えさせられました。
例えば、レジリエンスという言葉、最近このカタカナ語でそのまま聞くことも多いと思います。英語をそのまま日本語にすると、復元力となる言葉で、ビジネスの上では、大変な状況、負荷のかかる状況でもやり抜くというか、しなやかに仕事をするというような意味で捉えられていると思います。この言葉を、Melanieさんが、先住民の長老(智慧を伝える方々)に先住民の言葉ではどう表現されるのかを聞いてみたところ、このような答えが帰ってきたそうです。
この例を示して、Melanieさんは、英語の単語になってしまうと、本来は人間のレジリエンスという、人が生きているからこそ可能な復元力といった、いのちのはたらきのようなものが感じられない言葉になっていることを指摘します。確かに、まるで体重を測るように、何かの機器で測定できるもののように感じられます。
ここから発展して、自然の中でも、Treeというと、生きているものというよりも、単なるもの、という印象になってしまうということ、さらには資源という見方にも繋がる。これをNoun-fication 名詞化と説明されました。人間も木も、同じく、いきとしいけるものであるのに、その共通性が失われてしまうという、言葉、あるいは、言葉によって客観視することで、自と他の区別を作る怖さもあることを改めて認識させられました。
Melanieさんは、このNoun-ficationを体験するためのジャーナリング(書いてみること)の実践を紹介してくれました。自分がここ一年ほど経験したことを一つの単語でまず表してみて、その言葉がなかったらどう表現するのかを書いてみるというものです。一つの言葉にすることで、失われるものの大きさを考えさせられる実践でした。
今回は、少しビジネスの文脈からは離れていると感じられた方もいらっしゃるかもしれません。企業や組織の中の人を表す言葉には、人材という言葉もあります。人はもっと大切に扱われるべきということで、人財という言葉を使われる方もいらっしゃいます。それでも、生きとし生けるものとして、人を捉えられているでしょうか。年度ごとに、組織の人数を決定していく過程が、どんな企業でも当たり前のように行われているのではないかと思います。かけがえのない存在としての人を捉えることができていたのかと、考えさせられました。それが、本当に一人一人を尊重するという職場につながるのではないでしょうか。
日本の仏教には、山川草木悉有成仏という考え方があります。文字通りには、山も、川も、草も、木も、全て仏になることができるという考え方です。仏教の教えに触れ、実践できる人に限ることなく、いきとしいけるものには全て、仏になる道が開かれているという考え方です。自然に対してもこのようなまなざしを持ってきた祖先の元に生まれた私たちは、まず周りにいる人にも、こういうまなざしを向けてみてはどうでしょうか。
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