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マッサージ初体験はNYのチャイナタウンで……


チャイナタウン この街を行けば
お前との思い出が 風のように頬を打つ


YAZAWAに明るい方ではない。

「チャイナタウン」と聞いて思い出すのは、ヨコハマではなく、NEW YORK CITY の方だ。

そう、私のマッサージ初体験の地だ。


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私は、旭川と函館のハーフということを除けば、生粋の日本人であり道産子だ。

カツオ節の効いた旭川しょうゆというよりは、あっさり過ぎるくらいの函館しおラーメン顔でもある。

Twitterのアイコンは健康的に見えるように、ガラでもないハワイで調子に乗ってこんがり灼けた写真を載せてはいるが、これが限界値だ。

放っておけば、冬には Winter, again のTERUさんばりに顔面蒼白になる。

どーでもよい前置きだが、まぁ、こんなバリカタもとい、バリバリ日本人の私が、なぜNYのチャイナタウンで初めてのマッサージを受けることになったのか、、

そして、なぜマッサージを仕事にしようと思うに至ったのかを、滔々(とうとう)と白い雪のように語っていく。


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アメリカの大学に通っていたのは、親が外交官であったり貿易会社勤務だったという、エリート帰国子女的な経緯(いきさつ)ではない。

高校までほぼ勉強もせずに野球に打ち込んでいたにもかかわらず、大学のスポーツ推薦を獲得するほどの選手になれなかったことが一番の要因だ。

正直言うと、中学まではまずまず勉強はできた。

浪人して1年間必死に勉強すれば、ある程度の大学には入れたのかもしれないが、高校3年間で計3時間ほどしか勉強していない私に、1年間という月日は永遠のように感じた。

ならば、テキトーに入れるアメリカの大学を卒業すれば、「ナントカなるんじゃね?」的な、イージーゴーイングなノリでアメリカ行きを決めた。

無論、テキトーな気持ちで過ごした4年間で英語力が飛躍的に伸びるはずもなく、帰国後にナントカなるだろうという当ても外れた。

目標もなくアメリカに行ったところで、身につくのは多少の筋肉と日本社会では生きづらい根拠のない自信だけだということを、夢ある若者諸君に伝えたい。

女子はこれに、たっぷりとした脂肪とそれを気にしないアバクロ的ファッション感覚が加わる。←否定ではなく、むしろ推奨している


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ロブスターとハチミツとL.L.Beanが有名な州の大学では、スポーツ経営学を学んだ。

スポーツトレーニングやスポーツ心理学を学びたかったのだが、"つぶし"が効くように経営学を選んだ。

そもそも、スポーツ系の学科を選んだのも、今までの人生でスポーツばかりやってきたので、それ以外の選択肢を勝手に除外していたからだ。

「つぶしが効くなんて考えるな、大学の経営学なんてたかが知れている」

「どうせ夢なんて変わるから、まずは好きなことで突き抜けろ」

と、時空を旅して伝えてやりたい。


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そんなこんなで、大学4年の頃、NYのお隣のニュージャージーの大学にトランスファーしていった友人のところへ遊びに行くことになった。

NYには、先に卒業し日系の会社に勤めている友人もいたし、何度か行ったことがあった。

車でI-95(メインからフロリダまで続く高速道路)を南に8時間ぶっ飛ばすと、自由の女神が見えてくる。

スタンドバイミーに出てくるような景色の直線がほぼ8時間続くわけだから、ハチャメチャに眠くなる。

眠たい中の80mph(130km/h)は、永遠の眠りとも表裏一体だ。

轢かれたスカンクの爆臭と、途中で通過するボストンの Red Sox の敗戦にイカれ狂ったドライバーが、眠気覚ましの代わりだ。

※スカンクを轢いてしまった車は、その強烈な悪臭が何ヵ月もしみついて、最悪、廃車になることもあるという。

NYC周辺もマジでヤバい。

ロバート・デ・ニーロばりに正気の沙汰とは思えないようなドライバーに何度か遭遇し、その度に死を覚悟した。

だが、途中のサービスエリアで食べる Quiznos Sub(クイズノーズサブ)と Cinnabon(シナボン)は、なぜだか異様に美味い。

※Quiznosは、個人的にはSUBWAYより圧倒的に美味しい。


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NYCに訪れると必ず行くところがある。

チャイナタウンにある「Joe's Shanghai 」だ。

上海ハニーのいるマッサージ屋ではない。

ショウロンポウが美味しい上海料理レストランだ。

誰が言ったか不明だが、「世界三大小籠包」の1つである、「蟹肉入り小籠包」が抜群だ。

日本の有名店が偽物かと思えるほど、本当に美味しい。そして安い。

実は、日本にも「ジョーズ上海」の支店がある。

値段も高く、高級感を出すためにサイズも大きくしているのか、本場の味とは若干異なるが、それでも still 美味しい。

ランチは安くなっているので、銀座・池袋・大阪に近い方は、ぜひ。


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いつものように小籠包をたらふく食べた後、Canal St(カナルストリート)の路地裏 ーウォン・カーウァイの「花様年華」に出てきそうー を友人と3人で歩いていると、錆びれた"いかにも"な「Chinese Massage」の看板が目に留まった。

角の割れた電飾スタンド看板には、「推拿」の文字が怪しげに点滅していた。

ここで初めて「推拿」という言葉を知ったのだが、中国のマッサージらしきものであることは容易に想像できた。


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推拿をご存じない方は、【推拿(すいな)とは?】中国伝統マッサージを徹底解説をご覧頂きたい。

日本の指圧やあん摩マッサージの元になった、中国の伝統マッサージだ。

巷で見かける「もみほぐし」の手技が推拿に少し近い。


3人ともスポーツマンであったため、マッサージには多少の興味があったし、怪しいヤツに絡まれたとしても、ジャッキー・チェンでも出てこない限り、ぶっ飛ばされる心配はなかった。

なにせ、1人はバスケ部の195cm、もう1人はバレー部の184cmだ。

2人に挟まれると男としての尊厳が破壊されるが、私も176cmと、アメリカでも割と平均な方だ。

周りを見渡しても、ジャッキー・チェンが吹っ飛んでいくような段ボール箱やビールケースの塊は見当たらないので、たぶん映画の撮影もない。


アメリカでは当時も今も、法律で買春は禁止されている。

日本のような風俗店も存在しない。

表向きにはそうなのだが、「call girl」がいたり、こっそりと「Happy Ending」のあるマッサージ店があるのは人伝えに聞いていた。

大概が、中華系のHappy Ending店と、「Sakura」や「Geisha」という名の韓国・朝鮮系のガッツリ店だ。

チャイナタウンに堂々と看板を掲げていることから、健全なマッサージ店だとは想像していた。

ただ、22歳の健全な男だ、なにかが起こりそうな淡い期待を抱いていたことは否定しない。


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店内に入ると、狭く薄汚い受付兼待合室の、四角く茶色いスツールソファに座らされた。

スツールの裂け目を隠すScotchのガムテープが、不安を煽る。

案内係は165cmほどのフツーの小柄な中国人のおっちゃんだった。

だが、油断は禁物だ。

チャイニーズマフィア・蛇頭(じゃとう)の一味である可能性もある。

※蛇頭=中国福建省を拠点とする密入国斡旋ブローカー(通称:スネークヘッド)

正確な料金は覚えていないが、推拿60分で$40(約5千円)ほどの安さだったと記憶している。

まもなくすると、バスケ部の195cmが、破壊力抜群の二の腕をした女性に呼ばれて、薄緑色のカーテンで仕切られた半個室の部屋に連れていかれた。

それにしても、白衣の半袖がきつそうだ。

なんとなく想像通りの配役ではあったが、バレー部と私の2人は、目を合わせて少し吹いた。

カーテンに囲まれた狭い通路の奥で後片付けをしている女性が、チャン・ツィーに見えなくもない。

片付けを終えたチャン・ツィーが、奥から案内係のおっちゃんに何やら声をかけた。

北京語だろうか、広東語だろうか、よくわからない。

少し怒っているようにも聞こえるが、中国語や韓国語の語気の強さには慣れていたので、あまり気にはならない。

おっちゃんは、英語で184cmのバレー部に話しかけ、奥のチャン・ツィイーの部屋に行くよう促した。

バレー部はまんざらでもない顔をしている。

Aクイックで顔面をアタックしてやりたい。

にしても、率先して受付をしたのは私なのに、呼ばれるのは身長序列なのだろうか。

まぁ良い。

チャン・ツィイーはそれほどタイプではない。

タイミングによってはビビアン・スーに呼ばれるかもしれない。

フシギなチカラを信じよう。


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案内係のおっちゃんに空室を案内され、そこで着替えるよう指示された。

確かに、私だけタイトなジーンズを履いていたので、着替えが必要だったようだ。

国は変わるが、Boaちゃんという選択肢もあったか……と頭に浮かぶ。

戦うBODYには仕上げてある。

「OK, I'm all set.」

これまた薄緑色のハーフパンツに着替えて声をかけると、シャーっと開くカーテンの隙間から、目を奪われるほどの絶世の中国美女……ではなく、目を疑いたくなるほどのフツーの小柄なおっちゃんの顔が覗いた。

『Kidding me! Are you fuckin' kidding me!?』

心のスクリームもむなしく、硬すぎる施術ベッドにうつ伏せにされ、案内係のおっちゃんがマッサージを始めた。


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何がフシギなチカラだ。

ズレた間のワルさがまわりまわってコレか。

たまに運命のいたずらを思うことがある。

あの時、左足から玄関をくぐっていれば、今頃チャン・ツィイーと淡いグリーン・デスティニーを謳歌していたのだろうか。

それとも、小籠包を食べる個数を間違えてしまったのか、185cmに成長しなかったDNAを恨むべきなのか。

たとえば今、「あっ、女性がイイですぅ」と言えば、1人のアフリカ少年の命を救うことができるのだろうか。

まぁ、そんなことを考えても状況が好転するわけでもない。

自分の引きの弱さと運命を呪って、蛇頭かもしれない小柄なおっちゃんにただ身を委ねよう。


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"諦め"によって余計な緊張が取れ、感覚が研ぎ澄まされたのかもしれない。

期待値が極限まで萎んだことで、感動の膨らみが上昇気流に乗りやすくなったのかもしれない。

おっちゃんのマッサージは、想像を超える気持ち良さだった。

こちらの要望を聞かずとも、流れるようなリズムからの絶妙な力加減で、ピンポイントに求める箇所を溶きほぐしていく。

テレビで観ていた、痛そうなだけの指圧や足つぼは一体なんだったのか。

高校時代に腰をヘルっていたので、整形外科で幾度となくマッサージをしてもらった経験はあったが、わりと業務的な感覚だった。

だが、このマッサージは何かが違う。

これが推拿なのか?

それとも、おっちゃんのゴッドハンドの成せる業なのか?

ただ、あまりの気持ち良さに感動すら覚えていた。

60分の施術が終わり顔を上げると、決して愛想が良いとはいえない小柄なおっちゃんが、少しだけ大きく見えた。

通常なら5ドル程度のチップで良い値段だ。

満足したら10ドルでも良いだろう。

私は自然と20ドル札を渡していた。


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これが、私が本格的なマッサージを初めて受けた時の話だ。

この時の記憶がずっと頭の片隅に残っていたのであろう。

大学を卒業して帰国後、やりたいことがなくフラフラしていた時に、「あっ、マッサージやりたいかも!」とその道に進むことになる。

「諦める」「期待を捨てる」ことで、空っぽになったスペースに心を動かす何かがスーっと入ってくることを、このとき学んだ気がする。


チャイナタウン 空のポケットに
夢ばかり詰め込んで

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