第26回 農と福祉の繋げ方-どのように進めればよいのか?

2019.01.11
中本英里
農研機構 西日本農業研究センター


概要
農業と福祉,あまり関係のないように思うこの二つですが,相互に補完しあうことで新たな価値を生み出す可能性を秘めています。
「農福連携」とも呼ばれるこの動きですが,どのように考えればよいのか,何から始めればよいのか,分からないことがたくさんあります。農はそもそも福祉(厚生)的な側面をもちますし,様々な立場の人々が農をとおして協働することは,これからの地域社会,地域資源管理において重要だと思っています。

そこで,今回は,農福連携の取組に詳しい,中本英里さんに,広島から来ていただき,「農福連携」にどのように向き合い,どのように進めることが出来るのか,課題は何か,などについて,みんなで考えていきたいと思います。


農業には、農業労働力の確保や耕作放棄地といった「農における課題」があり、福祉には、障がい者の雇用の場の確保や一般就労のための訓練が必要といった「福祉(障がい者等)における課題」があります。

そんな2つの課題を解決に導いてくれる可能性があるのが「農福連携」
です。

そこで、農作業の福祉的効果や、ニートやひきこもり支援における農業や園芸活動の役割、農業分野で就労する障がい者のための作業環境等について研究を行っている中本さんに、福祉の基礎知識から農福連携の事例まで幅広く紹介していただきました。

まず福祉の話では、障がい者の雇用形態は、一般就労と福祉的就労があり、民間企業等において一般就労できる方はほんの一部に限られているということでした。

一方福祉的就労では、十分な収入が得られないという課題があるということでした。そこで、これらの課題解決方法として農福連携に期待が寄せられているようです。実際に農業分野での障がい者の一般就労は他産業に比べて伸び率が大きく、福祉的就労においても、農業活動を行っている事業所は多いとのことでした。

農業分野での一般就労の事例紹介では、「誰でも100点満点の作業ができる」ように作業工程を細分化し、新たな機械や器具の開発を行うといった工夫をしているということでした。

福祉的就労では、作業工程において職員が障がい者をしっかりフォローし、根気強く作業を教えるといった体制や、障がい者の保護者や医療機関と連絡を取り、生活面までサポートするといった体制をとることで、継続的な就労につながっているということでした。

障がい者の方が就労するためには、作業環境や生活面でのきめ細かなサポートが必要ということを学びました。

ところが、やはり農福連携にも課題はあります

農業者からは、障がい者の方に付ききりで作業することは困るということや、障がい者を雇用する際の相談機関や制度を知らない、障がい者のための環境整備や業務の特定・開発が課題として上がっています。
福祉サイドからは、障がい者の支援者に農業経験がないことや、就労事業としての確立方法がわからないといった意見があります。

これらの課題に対応するためには、両者の聞き役・相談役や、作業現場での指導役の確保と人材育成が必要ということでした。その対策として、農業者や福祉法人、NPO法人等と、障がい者やその家族を繋ぐ農業ジョブトレーナー育成に取り組む県等があるとのことでした。

中本さんから障がい者雇用や農福連携の現状や課題を紹介していただいた後は、参加者同士で農福連携を実施するための疑問や、何が必要かということを話し合いました。

ここでは、農業者と福祉の「相互理解を生む場を作る」や、雇用した障がい者に対して「焦燥感や強迫感を生じさせないようにする」、「川下(消費者)の開発に注力するべきではないか?消費者運動が有機栽培を拡大させたように」等、多くの意見が出されました。

中本さんから農福連携について詳しくお話していただき、障がい者の方が農業分野で就労するには、就労面だけではなく生活面においても手厚いサポートが必要であるため、実施するにはハードルが高いように感じました。

しかし、今回のセミナーには、福祉関係者、農業関係者に加え、地域づくり全般に関心のある方たちが多く参加してくださったため、今後地域全体で農福連携について考え、進めていけることを期待します。

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