第20回 中山間地の耕作放棄地を解消させる新たな挑戦ーマイハニーの事例からー
2017.09.06
西辻一真
マイファーム 代表取締役
概要
「自産自消ができる社会」の実現に向けて、耕作放棄地の解消をミッションに事業を拡大しているマイファーム。いまや貸し農園である体験農園マイファームの管理・運営だけでなく、新規就農希望者に向けて農業研修を提供するアグリイノベーション大学校の運営など、事業は多岐にわたります。
そうした中、貸し農園事業等の展開を通じて都市部へのアクセスが比較的良い農地であれば放棄地解消の道筋がみえてきたと語る西辻代表。次なる課題は中山間地域の耕作放棄地――ということで、中山間地での放棄地解消を目指した新たな挑戦として養蜂を通じた事業を展開しているマイハニーの取組みを事例に、これからの中山間地での持続的な農業のあり方について考えます。
農業って楽しい!を生み出し、広げていく
前半はマイファームの事業内容から耕作放棄地解消にかける思いについて。
マイファームの強みは「農業や自然のもつ新たな側面を見つけ出し、翻訳して、世の中に提供しなおすこと」。
「農業って楽しい!」を生み出し広げていくことで「自産自消のできる社会」をつくることを経営理念に、2007年から、野菜づくりを楽しむ場として体験農園、貸し農園事業を展開し、2011年からは農業に関する学びと出会いの場としてアグリイノベーション大学校を、その後2015年から農業の楽しい産業化として新発想で次代の農業に取組む農業家を増やすことを目的に事業内容を拡大しています。
”故郷である福井でみた耕作放棄地を直したい”という思いが原点
西辻さんの地元福井県三国町でみた広がる耕作放棄地が取組みに至る原点だといいます。マイファームでは事業領域をこれからの農業分野における成長領域と合わせて整理しています。
一つは自然サービス業、もう一つは耕作放棄地でしかできない新農業。
前者はたとえば、観光×農業、福祉×農業といった領域で、人と自然を近づける事業として「自然サービス業」と名付けています。この領域はこれからの農業の展開を考えたときに成長市場とも重なるだろうといいます。
その意味で、後者の耕作放棄地での新農業は成長領域とはかけ離れた事業領域。
しかし、だからこそ面白いしやる意味があるといいます。
耕作放棄地とは「需要のなくなった土地」
耕作放棄地にはそうなっただけの理由があり、以前と同じものを栽培しても経済的に成り立たない。いくら補助を入れて復活・再生させても根本的に”直した”ことにはならない。まさに本質的な投げかけがあり、その上でそこでしかできないものを考えるべきで、 それは何か、という問いが設定されます。
①いかに金銭的にも労働力的にも投入を少なく簡単に事業を開始・継続するか、また、②中山間地域のもつ不利な条件の一つである輸送コストをいかに下げるか、つまり軽くて小さいものをつくるかがポイントになるということ、またアイデアを考える上で「東京でやったら怒られそうなこと」というお題を持つと考えが出やすいという発想に関するヒントもいただきました。
中山間地域の耕作放棄地を解消させるには
グループディスカッションでは、西辻さんからのヒントを参考に今回のテーマである中山間地域の耕作放棄地を解消するためにできること、やっていることについて参加者同士でいくつかのグループに分かれ話しました。
議論は活発で、各グループから興味深い提案や情報共有ができました。会場には実際に山間部での養蜂に取組んでいる方もおり、後半の話題に続きます。
耕作放棄地でしかできない新農業
後半は本題であるマイハニーの取組みについて。
耕作放棄地でしかできない新農業を考え、実践する上で、これまでのやり方の中に答えはないといいます。
マイハニーが事業展開の足がかりとする養父市では「たくさん失敗してほしい」と言われたといいます。「失敗を恐れず挑戦することでその中から新しいビジネスモデルが生まれる。逆にいま挑戦しておかないとあとでもっとどうしようもなくなってしまう」という危機意識があり、そうしたビジョンが同じだったことがそこで挑戦する大きな理由だったと言います。
新農業に関するアイデアの実践と展開
新しいアイデアを発想したら、やってみる。その上でうまくいったものを展開する。もともとそのつもりなのでノウハウを隠すつもりはないと、今うまくいっている、あるいは軌道に乗りつつある新事業の内容について詳しくお話いただきました。
テーマになっている養蜂のほかに、すでに実践例のある養鶏、また目をつけている事業として金魚養殖を例にあげて説明いただきました。
ときに「西辻さんってアツい思いを持ってますけど結構ドライですね」と言われることもあるそうです。これはうまくいかないと判断した事業をあっさりやめたり、軌道に乗った事業をすぐに後継に譲り、新事業に取組んだりする姿勢をみて言われるそうです。こうした行動は一事業の成功よりもう一つ大きな耕作放棄地の解消が目的であり、貸し農園や養鶏、養蜂もまた一つのソリューションでしかない、鶏が大好きだったり蜂が大好きだったりするわけではなく、事業自体が手段でしかなく内容に執着していないからだろうといいます。
数ある挑戦のうち、うまくいったものを隠すことなく公開し、展開することで社会に普及させていく、これこそ新農業に関するイノベーションを生み出す秘訣ではないでしょうか。
終わってからも参加者のあいだで熱い議論が交わされました。
市内外問わず県外からも参加いただき、このような場がこれからの農業を考え、実践していくための機会の一つとなったのであれば幸いです。
記事:衛藤彬史