今日の夢
美しい2人の姉妹がいた。
姉は長い黒髪の美しい大学生。妹は茶髪で髪を短くボブカットにした高校生。2人は大きな一軒家に、基本的には2人で生活をしている。
姉は清楚な見た目の割にガサツな性格をしていて、家事ができない。代わりに車の運転がうまく、妹が遠出する時はいつでもどこまでも連れて行った。大学では吹奏楽サークルに所属していて、車にチューバを乗せてよくコンサート会場まで運転していた。友達も多かった。
妹は対照的に掃除、洗濯、料理などの家事を要領よくこなす気の利く働き者だった。白く清められたシーツも、煮物に入った飾り切りされたにんじんも、姉と自分自身のためと思えば楽しく作り上げてしまうような、そういう健気な妹だった。
2人の生活は澄んだ湖のように穏やかだったが、時折、しかし定期的に、旋風に荒らされることがあった。
姉妹の父親が家に訪れた時である。
姉妹の父親は暴力的な人間だった。
姉妹の美しい髪を握り、ひっぱり、振り回す。
端正な顔を拳で殴り、細く伸びた足を踏みつける。暴力を振りかざす時は大きな声で、威嚇するように騒ぎ立てる。何を言っているのかはわからない。吐き出された息からは、いつもアルコールの匂いがしていた。
父親が、姉妹の家に訪れない間の生活をどこで過ごしているのかは、誰も知らない。姉妹の母親がどこで何をしているのかも、誰も知らない。
ただ、幸せな姉妹の生活が暴力的な父親に踏み荒らされているという事実だけが、青空を翳らせる雲のように、そこに横たわっていた。
ある日、姉の所属する吹奏楽サークルが、コンサートで賞をとった。ずっと目指していた賞だ。
サークルのメンバーは各々に涙を流したり、大きな笑顔で天を仰いだり、互いにハグをしあったり、幸福な青春の絶頂だった。
「家で呑もうよ」
と誰かが言った。
彼らは嬉しいことがあると、姉の車に乗って姉妹の家へ行き、そこでお酒を飲むのだった。酒を買い込み、車の中ですでにアルコールを飲み始め、姉妹の家に着く頃には全員が幸せなほろ酔いになっていた。
姉が手慣れた様子で家の鍵を回す。
鍵は回らなかった。妹がすでに帰宅しているのだろう。不用心だなと笑いながら部屋に入っていく。
埃のない清潔な部屋を、何人もがわらわらと歩く。手を洗おうと洗面所に入ると、洗面所の中にある浴室から湯気が出ていた。浴室の扉は開け放たれていたから、シャワーを浴びているわけではなさそうだ。姉が「どうしたの?」と浴室を覗き込んだ。
サークルのメンバーも、後を追いかけるように浴室を覗き込む。
そこにはシャワーの湯が服へ染み込んでいくのも気にしないまま、熱心に浴室の床を擦っている妹がいた。妹が姉を、そしてサークルのメンバーを見上げる。その瞳には驚きと怯えが揺れている。
浴室の床には赤黒いものがこびりついていた。なぜか、それが何かを、誰もが瞬間的に理解した。
「何もないよ」
何も聞かれていないのに、妹が言った。
その瞬間に、浴槽からスマホの着信音がした。その着信音は、姉妹の父親が持つスマホがいつも奏でるものだった。
妹は慌てて浴槽に手を突っ込み、しばらくして音が止まった。なぜか浴槽は覗き込まなかった。
「何もないよ」
妹はもう一度言った。
その声が激しく震えていた。妹の顔を濡らしているものが、シャワーの飛沫なのか、彼女の汗なのかわからなかった。
「何もないよ」
今度そう言ったのは、姉だった。
凛とした、けれど冷たい声が浴室に響いている。その顔を見ると、瞳の表面に闇を載せたまま、微笑んでいた。本当に「何もない」ということに決めたのだとわかった。
こんなものを目撃してしまった自分たちはどうしたら良いんだ、と思いながら姉妹の家の玄関から出た。
その時、その家が私の家だと気づいた。と、同時に部屋の中から我が家で飼っている白い猫が爆速で駆け抜けてきた。弾丸のような勢いだった。
そして勢いよく玄関から外へ脱走した。
「あ!!!!!こら!!!!!!」
名前を呼ぶと、白い猫は急に方向転換をした。
キュキュキュイッッッ‼️‼️‼️🚗💥とバカみたいな音をさせて方向転換をした猫は、これまた爆速で玄関から家の中へ戻って行った。玄関の外では私の妹(茶髪でもないし高校生でもないし家事もしない)が「あー‼️お姉ちゃん猫逃したでしょ😠‼️」と言っている。
家の中を振り返ると、白い猫はなぜかクソデカかたつむり🐌へと変化しており、妹が「あーもう❗️お姉ちゃんが逃すから‼️💢😡」と怒っている。
この辺りで、ああ夢だ、と気づいて目を覚ました。10:00から予定があって、10:00なら目覚ましなしでも起きられるでしょと思っていたのに、時計を見たらもう9:45で、焦った。