【論文レビュー】松本訓枝,2004,「母親たちの家族再構築の試み―「不登校」児の親の会を手がかりにして―」
不登校の子どもを持つ親の会への参与観察とインタビューにもとづいて書かれた論文です。
教育社会学では近年不登校研究はあまり流行っていない上に保護者を対象としたものは非常に少なく,貴重な文献のひとつと言えるかもしれません。
論文概要
研究の目的
「不登校」という事態に,一家族員である母親がいかに対処したのかについて,その他の家族員に対する意味づけの仕方から検討を試みる
研究上の問い
1 「不登校」児の親の会での学習は参加者個々人にいかに内面化されているか
2 親の会での学習効果は母親から見て家族内(特に対夫)にいかに影響を及ぼしているか
調査方法
1 大阪で活動する「登校拒否を克服する会」での参与観察
2 「克服する会」に参加する母親20名に対して2001年9月~11月に聞き取り調査を実施
調査結果
大別して
1 子どもへの認識の変化
2 夫への認識の変化
が明らかになった
考察
1 母親たちは,否定的子ども観から肯定的子ども観へと変化していた
2 母親自らも反省的に過去の生き方を回顧し,新たな「自立」への道を模索していた
3 1,2から,既存の価値規範のもとで子どもに接していこうとする父親(夫)と対立,またはあきらめが生じていた
4 近代家族の特徴とされる子ども中心主義は,「不登校」状態にある子どもを受容することを通して,より強調される
5 既存の価値規範からの解放,「自立した個人」を追求している母親たちにとって,既存の価値規範から成立している夫婦関係はさらに解体を促進することにもなりかねない
今後の課題
1 親の会へ参加せず個々人で対処を行っている親たちについて明らかにできていない
2 本研究で取り上げた「克服する会」は数ある親の会の1つであり,会の性格は個々に異なるため,この知見をもって全体を言うことは不可能である
3 父親や「不登校」児たちの対処様式について明らかにできていない
自分の研究関心に照らして
感想
参与観察とインタビューという質的調査からオーソドックスに組み立てられた研究で,かなり読みやすかったです。最初読んだときは「親の会に参加する母親の価値観の変容を記録したもの」といった程度の理解の仕方でしたが、改めて読み直してみて、「子ども中心主義」に言及するあたり、近代家族論を意識しているんだということが分かりました。
※この論文の前に書かれた「母親が語る「不登校」問題と対処:「親の会」における学習と相互作用過程」の方が、近代家族論により踏み込んだ記述がなされている印象です
なるほどど思ったところ
やはり
の部分でしょうか。
実際、私が見聞きしている範囲でも、不登校の子どもが昼夜逆転する、適応指導教室やフリースクール、フリースペースなどに通うことで送迎の必要が生じることから生活時間を子どもに合わせざるを得ない家庭が多いと感じます。子どもが不登校になることで、「仕事を辞めるべきか」と悩む母親も少なくないようです。
イマイチ納得できなかったところ
たしかにそうだとは思うのですが、不登校の子どもを持つ親の手記などを読んでみると、必ずしもそうでもないのかな、という気もします。
ただし、夫婦間の危機がないからこそそのような場に寄稿できるわけであり、親の会に参加している母親とそうでない母親との間の「乖離」と同じように、個々の家庭によってだいぶ差があるんでしょうね。
自分の研究テーマに近い論文をきちんと読み直してみて、自分自身の「問い」(Research Question)をもっと精緻化した方が良いと感じています。