見出し画像

「スクロール」暗い若者たちの青春劇を久々に見たが、救いがない状況は昔も今も変わらないということか?

北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音。この4人を集めればそれなりに面白い青春劇が撮れそうだなと思いながら観にいくが、その予想は全くあてが外れた。昔、私が学生時代には、ATGが関係して作る青春映画というのはこんなものが多かった。社会に馴染めないで、結果的には破滅的なラストを迎えるような。まあ、主人公が死なないのは良かったと思うが、出てくるキャラクターが結構身近な感じなだけに、陰鬱な空気感がたまらなくリアルといえばリアルなのだろうが、映画で観たいような世界ではなかった。結果的に映画にリズムがないから、パッションが飛び出してこないのだろう。監督も、少しクールな観念的な世界を狙ったのかもしれないが、そのシンパシーみたいなものが感じられなかったのが残念だ。気負って作って愚作になったような感じがした。

映画は細かく章立てされているが、これは原作にあることなのか?特に必要ないし、そのタイトルが邪魔な感じもした。そして、そんな中で出演者たちをパラレルに描いていることで、時間軸が散漫に見えて、その辺りも映画的には上手くない。はっきり言って、下手くそ。

話は2つに分かれている感じで、北村匠海と古川琴音の勤める会社のパワハラ問題と、中川大志と死んでいく忘れてしまった同級生の話。そして、その中川に恋する?松岡茉優。上手く、ピースをはめていけば、それなりに面白い映画ができそうなのだが、ある意味、ネットをスクロールしているうちに、何をやっているのか本質がわからなくなるように、映画自体のベクトルが見えてこないのは不満。青春映画には、「八月の濡れた砂」のように、破滅に落ちていって浮遊させてどこにいくか着地点を曖昧にするやり方はあるが、この映画はその浮遊感すらない。

北村がこの話の中心にいて、この映画で描かれていることを小説にするというのは一つの着地点として提示はされているが、その内容が最初にファンタジックに描かれているために、最後に意外性はない。そして、この冒頭に出てくる、ある意味一番この映画で魅力的に見える裏アイドルの話が出てこないのも消化不良。人の死を描いているのに、その死に全く重さを感じない。それは、ゲームに中のキャラクターのよう・・・。

その北村のパワハラ上司である、忍成修吾がこの映画の中で最も目立ってはいた。確かにこのくらい嫌らしい上司というものはその昔それなりに存在した。そして、あの上司の下に着いたら大変だと言われたりもした。そういうある意味、一時代前に紋切型として存在した人間を現在に放っても(今でもいるのかもしれないが)あまり面白くない。そして、北村も古川も、「死ねば良いのに」という最終クソ言語しか反抗の余地がないとことも平凡すぎる。

そんな中で、この映画の中で古川だけが、イラストレーターという新しい道を生きようとする。そして、最後には店に飾る「炎」の絵も完成する。映画は、これの完成した絵を目指して、話を紡いでいっても良かったのではないか?それなら、少し青春映画っぽくなる。

また、友人の存在を忘れてしまったテレビ局の中川大志には、全くシンクロできなかった。彼がこの映画の中で何を背負っているのかもよく見えないし、北村と同級生として話すシーンも全く面白くない。そして、酒場のノリで役所勤めの松岡茉優と結婚する話をし、それを単純に受け入れてしまう松岡。今をときめく、この二人の役者をこんなつまらん役にあてがうとは、贅沢といえば贅沢だ。まあ、役所勤めの女がテレビマンと知り合って簡単に身体を許し、結婚をすることにうなづき、捨てられるというのはわかりやすいといえばわかりやすい。波動が全く違う二人は相容れないということだ。とはいえ、松岡はこの平凡な役所の女をなかなかうまい感じに演じてはいた。

で、4人が一緒に集うことはないが、MEGUMI が取り仕切っている飲み屋が出てくるわけだが、そこがラストには閉店しているという画が出てくる。これは、その騒いでいた店がなくなり、一時代が終わったみたいな時によく使う手なのだが、この話の中では、全然それがシンクロしてこない。場所の使い方が下手すぎるからだ・・。

だいたい、同級生の自殺みたいなものを扱っているのに、そこに、なんらかの回答が何もないのはいかがなものか?まあ、今の時代、ネットの中でスクロールされる話を繋ぎ合わせてもこんな感じにしかならないということなのかもしれないが、あまりにもそこに有機性を感じないのは気持ち悪い。

昔のATGの映画には、そういう有機的なものを描こうとして失敗したものがいっぱい存在していたが、今は、そこを描こうとする意思も感じないままに失敗する作品もあるということだ。

多分、作り手は原作をなぞっただけで、映画的に新たな独自な世界を描こうとする意思はなかったのではないかと思う。映画を見た後で、会社をクビになって爆弾を爆発させて捕まる忍成修吾の気持ちのみが理解できる映画であった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?