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「Red」胸ぐら掴まれて、主人公の波動の変化をみせつけられる秀作。夏帆の女優としての凄みに拍手!

赤いチラシを見た時から気になっていた映画。やっと見られた。世の中は粛清モードの中、シネコンにはお客さんがちゃんと集まっていた。他のレジャーが無くなる中、映画館は頑張って上映を続けていただきたい。

話は昔からよくある、どうにも形にならない男と女の話である。観終わった後に、とにかく「凄く骨格のちゃんとした映画」という印象があった。隙がない感じ。客を映像の中に没入させる力がある。演出する上でのイメージが事前にしっかりできてるからだろう。

ファーストシーン、主人公を演じる夏帆のアップの顔から始まる。そして、このシーンがもう一度出てくるまで、現在と過去が交互に描かれていき、それが繋がる時に話の核が明確に観客にも理解できるようになっている。この構成は特に珍しいものではないが、ここではかなり有機的に働いている感じだった。

そして、映画の成功(私はそう見た)を支えているのは、夏帆という女優の力である。調べると、三井のリハウスのCMに出ていて、私が彼女覚えたのは2004年。それから16年。彼女も28歳。途中、結構、脇のちょっとイカれたような役(言い換えれば個性派)をやるようになってどうなることやらと思ったが、ここのところは、本格的個性派女優という感じになってきた。昨年公開の「ブルーアワーにぶっ飛ばす」もシム・ウンギョンとなかなか印象に残るコンビを組んでいたが、この映画では、もうこの人は「これからどれだけ凄い女優になるんだ?」という感想に変わった。

ファーストシーンのことを書いたが、最後まで、何回か彼女のアップが印象的に効果的に出てくる。本当に二つと同じ顔がないような表情が脳裏に刻まれていく。これだけの顔で役を表現できる女優さんは現在いないと言っていいかもしれない。それは、この役、塔子という人間に成り切っているということだと思う。子供のパーティーでの顔はまさにお母さんだし、間宮に対する時は少し怯えたような顔。妻夫木と二人の時にはやはり女を素直に出す感じがよく出ている。そういう温度の違い、波動の違いというものを夏帆の演技により映像に転写できていることがこの映画の最も素晴らしいところだと思う。

間宮祥太郎演じる昭和の定型的なボンボン。自分のことだけを考えているのに、「お前のことを思っている」という男。そして、ラストの方で無理なことを平気でいう男。平板な演技ではあるが、彼もこの冷たい温度をよく作っている。

そして、同僚の柄本佑。夏帆のことを好きなのだろうが、それでいて彼女が妻夫木を思うところを理解する分、彼は彼女を心配する。ラストにつながる彼女との会話で、夏帆も妻夫木も「一人で生きている人だ」ということを言う。これを書いている私自身もそうだから、なんか沁みる言葉だった。ただ、自分に重ねてみても、その裏では「一人では生きられない」ということも知っているのだ。どこかにソウルメイトのようなものを求めながら一人で彷徨っている感じの人は今の世の中多いと思う。柄本の役は、そういう二人の生き方を観客に提示する触媒である。彼もまた、「形にならないようなパズル」の中にうまくはめ込まれている。

最後に主人公の妻夫木聡。いつもに比べ、とても抑揚をなくし、だからこそSEXシーンは激しく、そして建築デザインをやっているというクールさも持ち備えた人間をさらりと演じている。彼には夏帆を正直に好きだという気持ちしかない。だから、彼女は最後に彼の思いを連れて旅立っていく。

各々の心情を、先にも書いた「形にならないパズル」のように見せていきながら、最後に心が思う方向に埋まっていく。そう考えれば、過去と現在が交互に観客に提示されていくのは必然で、これだからわかりやすいともいえる。

永遠に誰もが実態をわかりえない男と女の惹かれ合う波動を力強く映像化した、三島監督に拍手である。そして、主演の夏帆さんには、もう一つ大きな女優さんを目指して欲しいと思う。


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