名作映画を見直す【15】赤ちゃん教育
1938年ハワード・ホークス監督作品。キャサリン・ヘップバーン、ケーリー・グラント主演。今見ても、色あせないと言って過言ではない、ノンストップコメディーである。102分間、主演の二人は止まることなく、観客を魅了して、最後はハッピーエンドの作品である。
しかし、この日本語の題名は、その面白さを全く観る方に感じさせないため、今に至るまで損をしている作品のように思う。原題は Bringing Up Baby ここのBabyは出てくる豹のことであり、それに二人が翻弄されるものの、別に教育するわけでもない。原題の意味は「豹を育てる」くらいの意味であろう。なんで、こんな日本語題になったのか?いろいろ考えてしまう。
作品は、恐竜の骨格モデルの完成と博物館への寄付を頼みに出かけたケーリー・グラントが旅先でトラブルメイカーとしか思えないキャサリン・ヘップバーンに出会い、どんどん窮地に陥っていく。そして、ヘップバーンが連れてきた豹にも悩まされながら、最後は警察のブタ箱に入れられてしまうも、博物館への寄付はなんとかなり、二人が結ばれると言う話。
とにかく、ギャグをとめどなく続けて投入してくる感じは、映画全体がコメディーの作り方の教科書のようにも見える。そのとめどない脚本を演出する監督も、主演2人も、力を抜かずに走りきっている。役者にしたら、転んだり、落ちたり、泳いだり、とにかく身体を張った演技が目に付く。と思い、キャサリン・ヘップバーンの年齢を調べると、もうこの時31歳である。当時のそれを考えると、「若い!」と驚く。まあ、役者としてはもう成熟していたからこのリズム感が出せたのかもしれない。
他の登場人物たちも、大した 芝居はしていなくても、脚本の素晴らしさの中に、皆、印象に残る感じである。そして、それは出てくる豹と犬にも及ぶ。実に自然にフィルムの中で、役をこなしているのだ。豹と犬がじゃれている姿は愛らしくも、よく撮れたな?と言う感じ。また、犬が隠したものを掘り出すシーンも秀逸。多分、ハリウッドの動物担当がいたのだとは思うが、映画の中によくなじんでいる。戦前から、映画に動物を出せば観客は納得する的なものはあったのだろうか?
とにかくこの映画、すごいスピード感があるが、考えれば、ゴルフ場→ホテル→ヘップバーンの家→警察→博物館と、そんなにシーンが多かったり、特に変わった場所での撮影をしているわけではない。移動撮影が多いわけでもなく、ただ、役者のアクティブな感じが作品にスピード感を与えている。コメディーはこれでないとというお手本である。
そして、戦後のアメリカのテレビコメディー(ルーシーショーやじゃじゃ馬億万長者など)の底本的な感じがする。1分に一度続け様に、話を邪間させずに観客を笑わせるような感じ。テレビでは特にこう言う手を取らないとチャンネルを回されてしまうだろうから、すごく有効なのである。そして、その作りの流れは日本のドラマや演芸にも続いている感じである。そして、今のコメディに欠けてしまった部分がここにあると言ってもいいかもしれない。
ほぼ、102分間、目を逸らさずに見れる白黒スタンダード作品である。