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「イニシェリン島の精霊」陰鬱な人の心をさらに陰鬱にするような哲学感に観客はどう反応すれば良いか?

少し哲学的な映画と評されたものを見かけたので観に行く。確かに最近では珍しいテイストの映画。その昔はこういうものが結構な数上映されていて、若い自分は睡魔が襲った記憶がある。今回も少しそれはあったが、話がいたってシンプルで登場人物も少ないためについてはいけた。

舞台は1923年のアイルランドの孤島、イニシェリン島。小さい島で、島の人は皆顔を知っているような感じ。そういう島では、皆から嫌われるということがあるかどうかはわからないが、個々のアイデンティティみたいなものは他人に定義づけられて、一回間違うと、すごい住みにくい状況が起こるというはよくわかる。日本の村八分というものとは違う、個人的な嫌悪に関する話だ。

主人公の男パードリックは、一夜にして友人だったコルムから絶縁されるという話。今まで、一緒に飲んで話していた相手が、突然お前は嫌いだから話しかけるなというわけだ。この映画、このよくわからぬ絶交の話で2時間持たせる。そして、絶交した大きな意味はあまりないようだ。ただ、嫌いになった。もう、お前なんかと話すのは懲り懲りだというだけの話だ。まあ、こういう話は世の中で不思議ではない。私も、突然「あいつ、何?」と思ったことがよくあるし、昨年もあった。相手の行動が読めないでそういうことが起こるのは仕方ないが、それを映画にするのはなかなか難しい。

そして、その後、絶交の加害者のコルムは今度話しかけたら、俺は自分の指を切ると言い出す。そして、本当にそれを実行し、切った指をパードリックの家のドアに投げつけるのである。もう、ここにくると観ている方は訳がわからない。そこまでして、コルムは自分の生き方を邪魔するなと言いたいのかもしれないが、彼の趣味はバイオリンで曲を作り弾くこと。わざわざそれができなくなるように指を切るわけだ。

確かに、突然、意味があまりわからずに嫌いになるという事象はあるだろう。その心理的なものを描きたかったのか?人が友人関係と思っているのはなんなのか?ということを描きたかったのか?映画を見終わってもそこのところはよくわからなかった。

そして、コルムは宣言通りに指を5本切る。この時点で狂気なのはコルムだけだ。しかし、彼が切った指をパードリックが大事にしていたロバが食べてしまい、死んでしまう。ここで、パードリックが狂気に陥り、コルムの家に火をつけるといい、実行する。そんな中で、コルムはパードリックに「これであいこ」だというが、そんな話でもないだろう。これを観て少し、異次元の話に見える人もいるかもしれないが、実際、こういう犯罪みたいなことは起こるのが人間の世の中だ。そのわからぬものを映画としているのはわかるが、やるせないままに終わったというのは事実だ。確かにアイルランド本土で内乱が起こっているという不安定さが人をこんな感じにするのかもしれないが、あまりこういう映画は見たくない。

役者としては、主役のパードリックを演じるコリン・ファレルの友人を失った不安な表情の演技が印象的だった。また、島一番、頭が悪いとされるドミニク役のバリー・コーガンも、頭は悪いが一番まともにも見える役を好演。

最後は、コルムは少し反省しているようだが、パードリックは許さないという感じの絵図。だから、友人は大切にしようという単純な話ではないとは思うが・・・。

まあ、死神が現れたり、色々理解できないところも多かったが、今、友人関係にヒビが入って悩める人が見たら、なかなか憂鬱になる映画でしょうな。



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