「非常宣言」鑑賞後の疲労感が韓国映画のパワーなのだと見せつけられた141分。
予告編でそれなりの大作なのだとは思ったが、ここまで構成力、脚本力、演出力、俳優力が結集された好編とは思わなかった。航空パニック映画史上の傑作と言ってもいいだろう。多分、今のパンデミック状況からの発想で作られた作品とは思うが、なかなか奥が深い。本当にこのような自分も一緒に死んでやるみたいな狂った犯人が出るのも不思議でない状況は韓国も日本と同じだということだ。日本だって、電車の中で意味もなく客を切りつける人も出ているわけで、旅客機の中にウィルスを持ち込むなどという発想、ハイジャックの比ではないくらいに怖いと思った。
こういう英語圏以外の映画は今まではある程度ヒットするとハリウッドがリメイクしようと考えるのが普通だったが、それの必要にないと誰もが考えるくらいに完成度は高い。そして、私自身は見終わって疲労感がある映画が大好きなのだが、本当に、半端なく疲労感があった。とにかく、自分がパニックの航空機の中に紛れたような感覚になる映画であり、臨場感はものすごいものがあった。
とにかく、映画ファンというなら見るべき映画です。それも、映画館で観てこそその臨場感が味わえる。ということで、観たくなった人はここから先はネタバレ書きますのでご注意を!!
まず、最初に出てくる空港シーンで、犯人は誰かがわかる。当日券を買って飛行機に乗ろうとする犯人。少し、坂口健太郎っぽいイム・シワン。少し、神経質そうな感じがなかなか犯人の異常性を示す演技。そこで、客であり、最後は飛行機の客を救う役目を背負うイ・ビョンホンに近づくのは何故なのかよくわからなかったが、これは主人公に犯人を疑わせるためですよね。そして、顔見せ的な部分もあるのだろう。とにかくも、飛行機はすぐに離陸していく。そして、犯人はすぐにトイレにウィルスを撒くという行動に出る。この辺りはあまり計画性がないということか?まあ、ハワイに行って戻ってくる間に時間がある方がパニック映画として色々仕込めるというところか?
ここで、すごいのがウィルスを粉状にして持ち込んでいるということだ。我々はこのパンデミックで「ウィルスは見えないものだから怖い」という発想があったが、ここでは目にみえるウィルス。そして短時間で感染し死に至るというものを提示してきてるのだ。そして、反応も身体にすぐに現れる。考えれば、見える方が怖い。多分、強弱に関わらず、ウィルスが粉のように街に舞っていたら、私たちは一歩も外には出られない状況に陥るかもしれない・・・。そういう部分、よく考えられている。
そして、犯人は前日に予告ビデオをネットに流しており、それにより、刑事であるソン・ガンホが地上で動き出す。そして、彼の妻が旅客機の中にいることで話が膨らんでいく。多分、この話がなければ、最後に彼が自分で抗ウィルス治療薬の治験なのしないだろう。そういう意味で、この設定は大きいのだ。
まあ、感想も時系列にしか書けないが、冒頭の1時間経たないくらいのところで、犯人と機長が死んでしまうのも怖い。機長が一人で操縦してたところで息絶えて、飛行機がダッチロールするシーンは圧巻。VFXでここまで作り込めるのかと驚きであった。しかし、そこで上の写真にもあるように、CAが天井に叩きつけられたりしてるのだが、その後、ちゃんと業務をしてるのはすごいですよね。まあ、映画的な世界はケロッと上手く繋がれているのです。そういうツッコミどころは結構あるものの、それでも、すごく面白い映画なのですよ。そういう部分は大切なところ。
そして、地上では犯人の人物像も浮かび上がり、どう対処するのかを検討を始め、国も動き出すが、ここで大統領が出てこないのは少し疑問がある。全ては国土交通省大臣である、チョン・ドヨンが仕切るわけだが、韓国はそういう国なのでしょうか?それはともかく、この俳優さんもなかなか存在感ありました。ちょっと岩下志麻系な顔立ちでしょうか?
あと、俳優さんの中では、チーフパーサー役のキム・ソジンも良かったですね。自分の仕事に真摯に向かう姿が格好良かったです。少し、玄里さんに似た感じですが、彼女より重厚感がある感じで素敵でした。
そう、なんかいろんなところが気になる映画なのですが、ハワイまで行って着陸を許可されないというところから、また後半の危機の連続が始まるわけで、とにかく後半もほぼ飽きずに間延びしていないのは凄いです。
アメリカに着陸拒否され戻るも、韓国までの燃料がギリギリ。そんなところで、ウィルスの出所がわかって、そのワクチンと抗ウイルス治療薬も存在することがわかる。そこでそれを出すのを渋る外資系の薬剤会社の姿も、現在のパンデミックに対する皮肉なのでしょうか?そういえば、映画の始まる前にファイザーのワクチンのCMが流れたんですよ。私は、この会社に対しては全く信用していない現状ですが、この映画だから、入れているのでしょうか?本当にいけシャアシャアとはこのことですよね!
で、ここから日本の登場!成田に着陸したいとして、そして題名にある「非常宣言」を旅客機が出すわけですが、日本は受け入れ拒否。理由は治療薬も効くかどうか確認できていないということ。本当に、ファイザーやモデルナのワクチンをまともな治験もせずに多くに打った国がよう言うと思ったりもしましたが、この辺の話のモデルはダイヤモンド・プリンセスであったりもするのでしょうか?とにかくも降りられない飛行機は本当に怖いという話。
そして、日本は航空自衛隊と名乗りながら旅客機に威嚇発砲するのですよ。実際に同じことがあったら、本当に、これできますかね?あくまでも、韓国の常識なのでしょうね。そして、本当に日本は着陸拒否できるのか?というのも凄い疑問がありました。色々考えさせられるところです。
そして、飛行機内では全ての人が感染してしまい、もはや客たちが、「私たちが犠牲になろう」という判断をする。最初からここまで地上とのやり取りはスマホが大きな力を示しており、ある意味、親族と連絡が取れるからこそ恐怖が増すみたいなものが見えてくる。そういう点も、脚本は上手く描いていると思う。
そんな中で先にも書いたように、ソン・ガンホが自ら抗ウィルス薬の治験をすることになるのだが、これは映画的な大きなスタンドプレイである。まあ、そんなことしなくても、着水させてから隔離するとか方法論はありそうなのだが、あくまでもここで人間ドラマを見せたかったのだろう。自らの命をかけて他人の命を救う刑事的な・・・。
最後の着陸シーンもなかなか壮絶で、最初の方に書いたように、観終わった時にはかなりの疲労感を覚えました。そんな141分の中に今のウィルスに関する問題や政治の問題。家族の問題、過去の過失からの脱出みたいな話、これでもかというくらいてんこ盛りなものがうまい塩梅でつながっているのは、プロのお仕事。色々、映画の勉強にもなる作品です。
韓国映画の今のパワーというか総合力はもはやハリウッドと同等に近付いているわけですよ。だからこそ、アカデミー賞もとれたし、それにより、映画人たちの底上げも凄いものがあるのでしょう。日本と比較するレベルでなくなっているのは確かでありますが、それだけに日本のエンタメ界はこの中に何かを仕掛けてやろうという気になりませんかね?まあ、日本は、まだまだパワハラだセクハラだっていう膿が出ているとこですものね。まずは、この映画見て、色々語りたくて仕方ないといった感じの私ではあります。
そういう意味で、日本映画陣が熱く燃えるためにも、多くの方に見ていただきたい。今日は土曜日で箱が小さいながらもほぼ満杯でしたが、さらにヒットしてくれることを祈ります。
IMAX対応の映画ではないが、とにかく大きな画面で大音響のなかで見たい映画です!