「あの頃、文芸坐で」【47】鈴木清順オールナイト④美学開花前夜の混沌
81年6月6日。鈴木清順監督特集オールナイト、第4夜。当時、「ツィゴイネルワイゼン」の成功もあり、一部の映画ファンは、再度の清順ブームという感じもあったのだろう。会場はそこそこ入っていたと思うが、この4週目までは6〜7割の入りだったと思う。
そして、当時の映画鑑賞記録を見ると、4日の日にはイメージフォーラムで矢崎仁司監督作品「風たちの午後」を観る。音の使い方に衝撃を受ける。モノクロだが、色の見える映画だった。今でも好きな映画だ。そして、この日のオールナイトの前に、「なんとなくクリスタル」「魔性の夏」という二本立てを観ている。つまり、この日は7本映画を観ているんですよね。若気の至りだが、パワーあったよなと思う。インターネットが存在しない時代だからできたという感じもする。
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まずは、コラムは「ドストエフスキー'81」の続きの話。ここで面白いのは「ドストエフスキーの生涯の26日」という映画が、題名のせいで文芸坐でロードショーできるようになったというお話。映画の題名って、興行を考えたら本当に大事だと思うのですが、最近の日本映画の題名。洋画の邦題、それぞれにあまりヒットがないような気がします。日本映画などは原作のないオリジナル作品だと、それこそ題名が酷いものが多い。センスを感じないのは、映画の中身もつまらなく感じるので、なんとかして欲しいものです。
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プログラムを見ると、文芸坐は「ポーランド映画名作集PART2」。最近はこの辺りの映画、見る機会がすごく少なくなってきていますね?最近のポーランド映画事情も少し知りたいものです。文芸地下は「寺山修司映画魔術館」。寺山修司のこの辺りの映画、特に短編はなかなか見る機会が少なくなってますね。寺山修司の死後、こういう映画を撮れる人はいないということを考えれば、貴重な映画群だったと思います。
ル・ピリエでは、小さな映画祭と称して、原一男、今村昌平作品も含め、社会的な映画を上映。私が思うに、先ほどの寺山修司や、こういう作品をシネコンで上映されるような状況を作りたいですね。日本が、そういう文化圏になることを期待するものです。
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そして、この日の清順映画に関して
「野獣の青春」
以前、ここでも書いたので多くは語らない。ただ、この作品が、清順美学の幕開けだと私は思っている。会社が怒るような様式美をここでこれだけやっているのは、宍戸錠の存在もあるのだろうなと思ったりもする。宍戸としても、ハードボイルド俳優としての始まりがここにある。これが清順作品ではないが「拳銃は俺のパスポート」「みな殺しの拳銃」などに繋がり、清順を日活から追い出す引き金になる「殺しの烙印」につながったということだ。ここで観たフィルムも退色フィルムである
「海峡、血に染めて」
和田浩治が海上保安大学の学生を演じる、海洋アクション。日活アクションで船が出てくると密輸の話である。ヒロインは清水まゆみ。作品の詳細はあまり覚えていないが、韓国人役の初井言栄と藤村有弘が印象に残っている。
「100万弗を叩き出せ」
和田浩治主演、清順監督作品で、ボクシングの映画が2本あるが、そのうちの1本。まず、和田浩治と野呂圭介が幼なじみという無理な配役。実際の年齢を調べると、11歳の歳の差がある。ボクシングシーンは、当時の日活のボクシング映画としては並の部類。清順映画常連の野呂のボクシングシーンが、文芸地下の観客にはうけていた印象がある。1933年生まれの野呂さん、まだご存命です。清順映画、日活映画を語れる少ない人になってしまいました。最近は陶芸家の肩書きだそうで、長生きしてください!
「ハイティーンやくざ」
川地民夫主演の添え物映画。川地がやくざと拘ったばかりに、結果的に街のほとんどの人から村八分にされる、怖い話。面白いというか、川地が無視される姿が哀れすぎて、よく覚えている映画。今、こんな映画作ったら、一瞬で叩かれそうな内容である。
「らぶれたあ」
オールナイトの5本目というのは、ほとんど目が開かなくなっているか、最後の一本ということで頑張っているか、どちらかであった。だが、この日のこの映画に関しては、場内がたびたび大爆笑に湧いていて目が冴えていたのを覚えている。筑波久子、待田京介主演のフランク永井が客演しているメロドラマ。当時のヴァンプ女優の筑波だが、そういうシーンはなし。ひたすらラブレターの葉の浮いたようなセリフが連打される。多分、画面が相まって、その白々しい愛のセリフに場内が湧いたということだ。こういう古い映画を観て、映画館があれだけ湧いたのはとても貴重な経験だった。あとで、再度ビデオで観たときはそれほどウケなかったのも印象深い。映画は映画館で多くの人と一緒に観るものだと思った経験だった。
鈴木清順監督特集のオールナイトも、残り2回。しかし、毎週オールナイトに通うパワーは今はないですよね。