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「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」恋愛、嫉妬、浮気、基本的な愛の心理劇

昨年のカンヌに出品された、ハンガリー、ドイツ、イタリア、フランスの合作映画。そんなに大きなドラマチックな話でもないが、169分という長尺の作品。そんなに、長さは感じさせないのは、映画として作りが整っていて、美しい画面も多かったりするからだろう。そして主演の2人の演技がなかなか印象的なのはあったりもした。

まずは、あまり基本的なことを何も入れずに、ポスターの雰囲気だけで観たため、いつの時代かよくわからなかった。後で確認すると1920年という100年前の設定らしいが、私的には、もう少し後かなと思った。戦争が行われている気配はなかったから、その隙間的な気がしたのだ。ただ、恋愛映画に時代など関係ないと思える作品ではある。

舞台はマルタ島。そんな地理的にもよくわかっていない場所。まあ、私自身がよく知らぬ場所の異空間に連れて行かれた感じだった。主人公の男(ハイス・ナバー)は結構大きな船で船長をやっている。それなりに余裕のある生活をしているが妻はいない。そこで、食堂で友人に、「これから最初に入ってきた女性と結婚する」という賭けのような宣言をする。船で行って、帰ってくる生活からのマンネリからの脱出というところか?そして、現れた女(レア・セドゥ)にプロポーズ。彼女もその流れでOKをする。

そこからは、船乗りの宿命というか、妻と過ごしては、旅に出て、また戻ってきて天国という生活。そして、自分がいない時の妻の生活に疑問を持ち、そこに現れる友人という男に嫉妬する。そういう単純な男と女の惑いの映画である。そういう意味では、世界中の人に理解しやすすい話だ。

そして、主役の女がなかなか魅力的。だが、彼女の感情の本質というのは、映画の中からうまく読み取れない。そう、監督は、男側からの主眼で描いているので、ここに出てくる女性像は、男から観たものしかわからない。そういう意味では、女側から見た男に対する気持ちが描かれない分、男の嫉妬心がよくわかるとも言える。監督イルディコー・エニェディは、女性監督だ。女性からの視点の方が描きやすいはずだが、そこをあえて逆にすることで女性から見た男の女々しさみたいなものが描けてるとも言えるだろう。

大体、主人公は、結果的には女に振り回されるだけだ。女のために船の仕事をやめ、それが合わないとなると、女も同伴で海に仕事に出ようとする。しかし、それらは、すべて自分勝手に決めたもので、結果的には、嫉妬の気持ちが恋愛の気持ちを上回り、彼女と別れてしまう。そういう単純な話をこれだけ長い映画に作り込む監督の力量はそれなりにすごいが、私的な映画に対する感想は、なんか物足りない。もちろん、女性からの感情がよく読み込めないというところはあるが、男の女に対する無垢で激しい恋愛感情もあまり強く描かれていないからだろう。それは、男でないと描けない領域なのかもしれない。

そして、別れて7年後、町で彼女を見かける男。しかし、女は6年前に死んでいたという。そう、お互いに心が求めて再会したのだろうという結びだが、少女漫画的な流れですね。そう、監督は、男と女の形にできない心のありかをファンタジーとして投げたのだろう。

女優、レア・セドゥの妖しげな美しさに、私もそれなりに魅了されたが、もう少し耽美的なアプローチみたいなものが欲しかった気がする。映画を見終わった時に、さっきまで抱いて美しく高揚していたものが、一瞬にして腕の中から消えてしまった的な刹那感みたいなものが残る映画であったなら、傑作と評価した気はする。まあ、恋愛映画って、永遠にどう作り込んで、どう観客をリアルなダメ人間にして行くか見たいなところがありますよね。


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