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「キリエのうた」岩井俊二の映像美学と音楽の扱いには心揺れるが・・。

いまだに岩井俊二監督の新作と言われれば早く観たい。ということで、仕事が溜まってるにも関わらず、公開2日目に映画館に足を運ぶ。郊外の映画館のお客様の入りは半分程度。岩井俊二も広瀬すずも、吸引力はそんなものである。岩井映画をずーっと愛し続けるものは多いと思うが、私的にはやはり初期作品に比べもうひとつと思うところも最近は多くなってきた。確かに、他の監督では作り出せない映像美学はいまだ健在だが、今回も上映時間178分、飽きることはないが、もう少しコンパクトにできないかとは思う。まあ、監督自ら編集しているわけで、あまり引き算ができないのでしょうね。巨匠だからそれが許されるのはあるかもしれないが、興行や口コミを考えたらもう少し映画全体にスピード感が欲しいと私は思う。

で、やはり、私もそうだったが、観る前に情報は入れない方がいいと思える映画だ。ということで、みる予定の方は、ここから先、ネタバレありの文章になりますので、観た後で読んでくださいね。

ファーストカットとラストカットは雪の中。「ラブレター」以来、同じようなシーンを撮りたがるフシがあるが、単に監督の好みなのだろう。今回の映画はここに、オフコース「さよなら」が重なってくる。

そう、そんな始まりも含め、音楽劇としてはそれなりにシーンの作り方も含めほぼほぼ納得いく岩井ワールドとして存在感があった。そして、主役のシンガー、アイナ・ジ・エンドも印象的に描かれているし、存在感もインパクトも強い。彼女のプロモート映画としても実によくできていると思う。音楽が売れないとお嘆きの皆様にはぜひ、みていただきたい映画である。こう言う見せ方されたら興味持ちますよ。別にちょっと長めのYouTubeでいいから作って、宣伝すればそれなりの結果出てくるのですよ。

横道にそれた、映画は彼女演じる「ルカ」と、彼女がシンガーとしての名前にしている「キリエ」と言う姉の、なかなか辛い人生の話が基軸。そして、その人生を狂わす事象として東日本大震災の話が出てくる。この映画が途中、この辺の、彼女たちの過去を結構長々と語る部分はもっと短くていいと思う。このあたりは映画の勢いが止まる。

そして、東京でキリエのマネージャーをすると言い出す、高校の友人の広瀬すずは、存在の面白さとしてはアリだが、その使い方がイマイチの感はあった。広瀬自体、私は昨年公開の「流浪の月」で女優としても大きく成長したと思っているのだが、ここでも、演技自体はなかなかイキイキしていてとても良い。だが、この主人公をシンガーとして売っていく、妖精みたいなわけで、そう言う異次元さは欲しかったかな?髪の毛の色だけではなくてね。途中でいなくなって、結婚詐欺で追われていると言う設定は面白いのだが、そのこと自体が映画に何のプラスもしていないので、映画の中でも広瀬の必要性が最後に見えなくなってしまってる感じがした。最後に彼女が男に刺されるシーンもいらない。彼女はキリエの大きくなったところを見届けて、また旅立てばいい役だと思う。

だから、ラストのコンサートを警察が中止しようとするのも、なぜにそれが必要かわからなかった。そう言う部分が結構多い映画だ。キリエが、広瀬の男にレイプされそうになるシーンもいらないし、震災の時に姉が自宅で下着でいる必要があるだろうか?岩井監督、これセクハラにも見えますよ・・。

だから、この映画で、キリエの声の向こうに親を震災で失い、一人で彷徨った過去があるのはいいし、それを結婚詐欺師の広瀬が応援するのもいい。そんな中で彼女がメジャーデビューするまで行って、そのステージを広瀬すずや松村北斗や黒木華が見守るようなラストの完璧な音楽映画にしていった方が感動を与えると思ったのだがどうだろうか?

まあ、映画は監督の意思で成立しているのだから、これでいいのだろうが、もう一つ映画をシンプルにできない岩井ワールドに少し年寄りくささも感じ始めている私である。

映画が綺麗なのは良い。だが、そこにプラスして、エンタメとしてのシンプルさとスピード感が私は欲しいと思うのです。


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